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相談事はトレジャーハンティング


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記事:河上弥生(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「相談したいことがあるの。近いうち、あえないかな?」
 
先日、久しくあっていない友だちからメッセージが届いた。彼女はエキゾチックな美人で、バリバリ稼いで、何の悩みも無さそうな女性だ。彼女のような人が私なんぞに相談したいことってなんだろう。
「いいよ~、いつにしようか?」と返信した。
 
私は話すのが下手だ。話が上手で場持ちが良く社交的な人々に心底憧れつづけてきた人生と言ってよい。幼い頃からその自覚があるためか、人から話しかけてもらうととても嬉しくなる。ましてや、誰かが自分にヘビーな身の上話をしてきたり、プライベートな相談事を持ちかけてきたりすると、文字通り胸が震える。ものすごく自分が必要とされている気がするのだろうとおもう。こんな話下手で万事おっちょこちょいな私にそんな大事な話をしてくれるだなんて。嬉しい。この人の役に立ちたい! と、舞い上がってしまう。
 
そんな私がかつて相談を受けた時どうしていたかというと
・まずは全身耳にして相手の話を聴き、何が問題なのか理解する
・今後の展開を何パターンか予想してみる
・自分にできる限りのアドバイスをする。
 
……完全なるカン違いであった。
例えば私が医療や金融のプロで、その専門的知識をもとめて相談してくる相手であればこのアプローチで良かったのかもしれない。が、そうではない。自分の対応がまちがっていることに気づいたのは、たまたま数人から家庭に関する相談をされる機会が重なり、そのときの相手のリアクションに共通点があったからだ。
 
質問など交えながら私が相手にうんうん、それで? と耳を傾けている間は一体感とでも呼ぶべき感覚に包まれていたのだが、私が無い知恵をしぼり
「こうしたらどうかな?」
とアドバイスをした時、相手はどうしたかというと、一様に
「でも……」
「だけどさ……」
と、ネガティブな答えを返してきたのだった。視線が私からはずれ、表情もやや翳った。
あれっ、とそこで私は違和感を覚えた。相手がこころの扉を閉ざした感覚があった。私のアドバイスが欲しいならこのリアクションは違う。
 
私は自分の意見を引っ込めて、また相手の話をうながしてみた。すると、相手はふたたび私と目を合わせ、イキイキと話し出した。相談してくる人は、私のアドバイスを求めてなどいないんだ、ということに漸く気づいた瞬間である。遅い。何十年もの間、自分にわずかでも相手の悩みが解消できるアドバイスが出来るとカン違いしてしまっていた。たいへん恥ずかしい。
 
では、なぜ、かれらは私のような特別ではない人にわざわざお金と時間を費やし話をしに来るのだろう。私のアドバイスを求めていないのに。何が欲しいのだろう。わからない。私は悶々とした。私は会いに来てくれる人の役に立ちたい。どうしたらよいのだ。
 
ふと冷静になった。
私は聴くことに情熱を持っていて、それをこれまでのつきあいの中で友人たちはなんとなく感じ取っている。特に専門的知識があるわけでもない私のアドバイスは不要。それで会いにきている。ということは、すでにかれらの中に欲しいものが埋まっているのだ。
「自分はどうしたいのか」はもう胸の奥に在るのに、でも、自分ではそれにハッキリ気づけなくて、迷ってモヤモヤ。それを、私に聴き出して欲しいんじゃないのか?
 
腑に落ちた。お宝は相手の中にある。聴いて探して言葉にするなら、こんな私にもできるかもしれない。すでにそこ(相手の中)に在るんだから。相手のきもちを探し、言葉にして私から伝えたらよいのだ。それが私から相手への贈り物になる。会いに来てくれたひとへの。
 
私に相談をしたいとメッセージをくれた女友だちに先日会った。
ご家族に関する悩みの話を一通りしたあと、彼女は大きな瞳に不安げな表情を浮かべ、私に言った。
「ねえ、Aならどうする?」(Aは私のあだ名)
 
私は彼女の話を聴きながら、彼女が「こうしたい」と思っていることを探っていた。質問をしていくうち、彼女の心はほとんど決まっているということがわかった。彼女は、数人に相談しているうち、いろんな意見を聞いて不安になっていたのだ。ブランコに乗り、気持ちよく漕ぎたいのに、真横だったり斜め後ろからだったり、おかしな方向から押されて、鎖がギシギシ軋んで動けなくなっているようなものだ。
私が彼女に贈ることができるのは、彼女の背中を押してあげる言葉。
 
「そうだねえ。Bちゃん(相手のあだ名)はこれこれこのようにしたいんだよね? (彼女がしたいとおもっていることを言葉にして返す)私はやっぱりBちゃんがやりたいようにしたらいいとおもうよ(相手を肯定する言葉)」
彼女の瞳のひかりがふっとつよくなった気がした。
「……うんー」
その後、沖縄料理をたべながら他愛ない話を楽しみ、帰路についた。
 
駅への道すがら、彼女が私に言った。
「なんか、今日、Aに話せてほんとによかったよ。ありがとう」
彼女の笑顔はとても明るかった。
 
私は彼女が求めていた言葉を探し当て、贈ることができたようだ。こちらこそ、貴女の笑顔が見られて嬉しいよ。
私に会いに来てくれてありがとう。私に話を聴かせてくれて、ありがとう。
 
 
 
 
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2019-04-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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