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メディアグランプリ

オカルト採用面接官VS人事経験豊富な採用面接官


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:榊原豊晴(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「え? 私ですか?」
人生の中で、初めて採用面接に関わったときの第一声がこの言葉だった。
 
新卒採用で入社したその会社は、100人弱のシステムエンジニアを擁する少数精鋭部隊のソフトハウスだった。
今でこそIT企業というと、若くてオシャレなやり手の社長が、複数のプロジェクトをバリバリこなすカッコ良いイメージが真っ先に出てくる。
 
しかし、この会社の社長は60歳を過ぎているようで、目は細く白髪混じりのモサモサヘアー。細身な体で社内をいそいそと歩き回る。見るからに神経質である。暇さえあれば、小さなゴミを見逃さないほどの掃除をしている。ホワイトボードがちょっとでも汚れていると、目にもとまらぬ素早い腕さばきで拭きまくる姿は、ちょっとした社内名物だ。
 
そんな社長は、こともあろうか、この私に対して「応接室に採用面接に来ている人がいるから、面接して」と言い渡してきたのだ。
 
私の所属は人事でもないどころか、総務でもないのだ。ましてや採用面接なんてやったこともないし、指導された覚えもない。なぜなら、システムエンジニアとして採用され、研修初日の出来事だったからだ。
 
「ムリだ! 絶対にムリ!」
小さい会社とはいえ、これはやりすぎなのではないか。
 
「こんにちは、初めまして。今日はよろしくお願いいたします」
半ばやけくそで、応接室のドアを軽くノックしてから入室し、挨拶を交わした。
 
目の前にいるのは、希望に目を輝かせた学生だ。この若い学生の人生を自分が左右してしまうかと思うと恐ろしくなる。
入室直前に手渡された履歴書をその場で目を通す。年齢は私の1つ下だ。それはそうか。
しかも、私は入社したての研修初日の人間なのだ。恐らく、いや、絶対にそんな人間が面接官だなんて、面接をこれから受ける彼も夢にも思ってはいないだろう。
 
ひと通り無難だと思われる質問をしていく。
 
「学校ではどのようなことを学んできましたか?」
「この会社を選んだ動機はなんですか?」
「残業を言い渡されたら、その時はどうしますか?」
 
当たり障りのない質問に対して、当たり障りのない答えが返ってくる。
 
「……で?」
 
私の体の中は、この言葉でいっぱいに満たされる。
 
相対性理論を提唱したアルバート・アインシュタインの名言の中に、次のような言葉がある。
「もし、私がある問題を解決するのに1時間与えられ、それが解けるか溶けないかで人生が変わるような問題の場合、そのうちの55分は問題を明確にすることに費やし、5分で解決することに費やすだろう」
 
そうなのだ。大した問いではないものに、大した回答なんて返ってこないのだ。
その学生の本質なんて分かりはしない。
 
私の人生初めての採用面接官の仕事は終わった。
 
「どうだった?」
「はい、良いと思います。ハキハキと答えていたので好印象でした」
 
社長は私の言葉に被せるように、ひと言だけ言って、社長室に入っていった。
 
「あれはダメだな。ご苦労さま」
 
そんな苦い体験をしてから、ほどなく正式に配属先が決まり、その会社での採用面接官はそれ以降、声がかからずに済んだ。
 
数年後にはその会社を退社し、システムエンジニアの仕事とは全く違う企業に転職した。転職先の会社は数千人規模で、新卒採用の応募に軽く1000人以上殺到する大企業だ。
ある日、人事部に異動になり、懐かしの採用面接官も経験することになった。
そこでは人事経験豊富な採用面接員の上司がいた。
 
「何度だまされたことか……」
 
そんな上司でも、しっかりと面接の対策をしてくる学生の判断は難しいこともある。今の時代、エントリーシートの書き方、服装や言葉づかい、どのような態度でのぞめば良いのかなど、細かく対策してくる。
最終面接もクリアして入社した新人の中には、なぜ合格させてしまったのかと思ってしまう者もいた。
人事経験豊富な採用面接官の五感を用いても難しいものだと、毎年見て学んでいた。
 
段々と分かってきたことがある。高学歴であればあるほど、言葉の選び方はうまいし、何よりも論理立てて話すので分かりやすく申し分ない。金太郎飴のようにつまらないのだ。
そして、五感では失敗しやすい。
 
ある日、ひらめいたことがある。
自部署の人員不足により、契約社員の採用面接を任されたことがある。本来は課長である上司が面接官として対応するのだが、その日は別件があり不在。同僚と2人で面接官をすることになった。
この時までに数名の面接を行なっていたが、全て不採用となっていた。実は、この日の面接で最後の一人となっていたのだ。
上司から言われていたことは次の言葉だった。
 
「もう残っているのは一人しかいない。早く採用しないと仕事が回らないのは分かっているよね」
「え? じゃあ、もう無条件で採用するしかないんじゃないですか?」
「私たちと一緒に仕事ができるような人物かだけ見て」
 
この状況だと、面接で何を質問しても無駄ではないか。そこで、数々の過去の経験が走馬灯のように頭の中を駆けめぐる。
面接の知恵がつきすぎ、五感をフル活用しながらも、考えすぎて失敗も多く感じてきた。
 
「五感でダメなら第六感を使えばいい」
 
どうせ上手くいかないなら、開き直ろうということだ。
 
面接者がドアを開けて入ってきた。その瞬間だ。
 
「あ、合格」
 
この言葉が心に浮かんだのだ。その後、もう一人の同僚がほとんどの質問をしまくっていた。私はというと、もう心の中では合格と確信していたのでニコニコしているだけだった。
言ったことで覚えていることは一つだけ。
 
「やってみないと分からないよね」
 
今までの中で、一番すっきりと答えが出た面接だった。
その合格者は、大体のことは自分で考えながら仕事を進められるほどに、想像以上の有能ぶりを発揮してくれた。
 
ここまで第六感のみで上手くいくとは、もはやオカルトである。
これで自分の採用面接官としての目標が決まった。人事経験豊富な採用面接官よりも、オカルト採用面接官を目指そう。
 
 
 
 
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2019-04-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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