編みぐるみとドラクエの共通項
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:なすさとみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
私は今、編みぐるみにハマっている。
「縫いぐるみ」が裁断された布を縫って、動物やキャラクーを成形するのに対し、「編みぐるみ」は、かぎ針で毛糸をくるくると編み続けることで作品が完成する。
この趣味を持ったことで辟易としてしまうことが一つだけある。それは、「編みぐるみ好き」を公言した時の反応である。
「かわいらしい趣味ですね!」
いやいや、そんなの褒め言葉にならないから。五十路まっしぐらの私には、「かわいい」が、もはや武器にならないことはわかっている。では、なぜ「編みぐるみ」なんだろう。
私には趣味らしい趣味がなかった。インドア派なので、間違ってもスポーツが趣味になることはない。読書や音楽は好き。だけど、趣味と言えるほどではない気がする。音楽を聞かない日があっても平気だけど、かぎ針を持たない日は耐えられない。海外出張にもかぎ針と毛糸は欠かせない。機内持ち込み荷物に忍ばせたかぎ針が、危険物として何度押収されそうなったことか。
「かわいい」じゃない編みぐるみの魅力を改めて考えてみると、学生時代に趣味にしていたコンピューターゲーム、特に「ドラクエ」との共通点を見つけた。
もっともわかりやすいのは、「リセット」が効くことだ。気をつけて編んでいても、目を飛ばしてしまうことがある。そんな時は、失敗した箇所まで毛糸を解いてしまえばいいのだ。かぎ針を抜き、さっと毛糸を引っ張れば、あっという間に目は解けていく。この時の空虚感は、ドラクエでリセットボタンを押す時に似ている。
次なる共通点は、ゴールにたどり着くためには、地道な作業が必要であること。ドラクエでは、モンスターを倒し続け、レベルを上げていかねばならない。村人に話しかけるとか、宝箱を探すとかいったイベントはあるが、プレイ中の多くの時間はモンスター退治に費やされる。編みぐるみでは、ただひたすらこま編みを続ける。きれいに仕上げるために、糸の色や編み方を変えることはあるが、編みぐるみ完成までの作業の9割はこま編みにあると言ってもいいだろう。私はこま編みという単純作業を続けていると、トランス状態に陥ってしまい、気がつくと数時間経っていることがある。経験値を稼ぎ、レベルを上げるためだけに、一心不乱にモンスターを倒していた時、気がつけば白々と夜が明けようとしていたことは一度や二度ではなかった。
3つ目は「あなただけの作品がつくりあげられる」こと。ドラクエのゴールは、魔王を倒すことにある。しかし本当に大切なのは、そこに至るまでの過程ではなかろうか。自分が手塩にかけて鍛え上げた主人公の成長こそがドラクエの醍醐味なのである。とはいえ、できるだけ効率よくゴールにたどり着きたいので、私は攻略本を活用していた。しかし、同じ攻略本を使っていても、プレイヤーの個性が出てくるものだ。攻略本情報よりもずっと高いレベルに達してないと魔王に挑めない、私のような慎重派もいれば、一秒でも早くエンディングを迎えるために、経験値が足りずともガンガン突き進むタイプもいる。魔王を倒すという結果は同じでも、そこに至るまでの物語は各々のプレイヤーが紡ぎだした、唯一無二のものなのだ。編みぐるみはどうか。編みぐるみでは、動物が題材となることが多いのだが、例えば「うさぎ」を完成させることがゴールであるとする。一般の編みぐるみ愛好家は作品の設計まではできないので、うさぎの編み図を入手し、編み進めていくことになる。編み図通りに作れば、同じような作品が出来上がりそうなものなのだが、それが全く違うのだ。慎重派の私の作品は、編み目がキュッと詰まっていて、顔のパーツが整然と並び、完璧主義の優等生という感じだった。おっとりした性格の友人のウサギは、編み目が大きく手触りが柔らか。上下にちょっぴりずれている目元は愛嬌があった。出来上がった作品は、まさに作り手の分身なのだ。自分の作品は、先生が作ったお手本に比べるとかなりブサイクなのだけど、愛おしくて仕方がない。
どうだろう。こじつけが過ぎる部分があることは否定しないが、「かわいいおばさん」を演出するための「編みぐるみ」ではないことはお分かりいただけただろうか。私にとっては、ドラクエも編みぐるみも「独りよがりの創作活動」だ。ゲームストーリーや作品のモチーフが決まっている以上、一般的には創作とは言わないのだろう。独りよがりであることはわかっているけど、私色に染まった作品たちを見ていると、やっぱりこれは創作活動だと思う。
さぁて、今日は何を作ろうかな。
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