お弁当作りは義務ではない。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:中野アンリ(ライティング・ゼミGW特講コース)
この春、ひとり息子が中学生になりました。
私たちが住む横浜市の中学校には、給食がありません。学校でのパンの販売はありますが、最上階に教室を構える1年生は、売店のある地上階に下りてくるだけでも時間がかかり、上級生に先を越されて買い損ねることもあります。また数年前に導入された業者のお弁当サービスもありますが、お試しで食べた日には帰ってきてから口数少なく不機嫌…… うーん、これはこれから本格的になる反抗期の炎に日々油を注ぐようなもの。
「食事はカラダの組織だけでなく、ココロも作るもの。
楽しくおいしく食べることが、一番の滋養になる」
そう考える母に育てられ、食べることが大好きになった息子には、合わなかったのも致し方なかったのかもしれません。そういうわけで、彼は毎日お弁当を持って行っています。
私自身は昨年のちょうど今頃、5年ぶりにフルタイム勤務を再開しました。初めての業界と職種、人間関係に慣れていくことは、40代には想像以上にしんどいもので、心身共にいっぱいいっぱい。半年ほどまともにうちのごはんを作ることができませんでした。外食と出来合いのお惣菜だけで平日をやり過ごし、息子に「ママ、うちの家計は大丈夫?」と心配されたほどです。
派遣なんだから、そこまで頑張らなくてもいいんじゃない?
SNSでの発信がぷっつりと途切れたわたしを心配して、親しい友人たちはそう言ってくれました。その頃、フルタイム勤務の合間にもこまごまとした「母業」が私を待ち構えていました。6年生で引き受けざるを得なかったPTA役員に、歴代キャプテンの母が担当する習い事の役員、持ち回りの学校登校班の班長、それぞれのお仕事が切れ間なく舞い込みます。元来そんなに器用でもなく、もはや新しいことへの吸収力も落ちてきた自分が情けなくて、車通勤をこれ幸いと、毎日泣きながらハンドル握って帰っていました。それまで食を生活の中心に置いてきたのに、その日の夕ごはんのメニューなんて考える余裕もなく、発信どころか写真を撮るのもままならない。いつの間にかソファで寝落ち、気がつけばもう朝。そんな日々が続きました。
それでも4月からはお弁当が始まる。本当にどうしよう。少しばかり仕事には慣れてきたものの、毎日朝昼晩と切れ間なく献立を考えていくのは、今の生活スタイルでは無理がある。年が明けてからは、不安や義務感ばかりが先行してどんよりとした気持ちでいました。
ですが、 いざ始まってみれば、なーんてことはなかった。もともと料理はどっさり作るのが好きだった自分を忘れていました。なんだか、毎日がホームパーティーやっている感覚です。
ホームパーティーと言っても、いろいろなスタイルがありますが、わたしのイメージは人様をご招待しておもてなしする、というよりは「炊き出し」に近い。大鍋でどーんと作って、みんなたくさん食べてー!おかわりあるよー!って大きな声で言いたくなるような。「肩肘張らない、うちのいつものごはん」が、みんないちばん食べたくて、でも、外ではお金払っても食べられないものじゃないかと思うのです。
パーティーメニューの組み立てと言っても、別段変わったことをするわけではありません。私の場合は、まず、レシピ本を見ながら、作りたいもの食べたいものを1週間分、お弁当に限らずわーっと書き出します。レストランでメニューを選ぶのに近い感じで、ちょっとくらい多すぎても少なすぎてもいいので、考えずに、栄養バランスとか関係なく「ココロが動くもの」かどうかで決めます。
次に、お弁当を中心に、バランスを考えます。お魚とお肉、あったかいものと冷たいもの、彩り、食感、ボリューム。昨日と今日、今日と明日。朝と昼と夜。同じ食材を繰り回したり、違う食材を付け足したりして朝晩を組み立てます。これでだいたい必要なものが決まるので、買い物はまとめて週2-3回+生協の宅配で済ませます。
作った後、書き出した一覧の中から、その日に採用したメニューを消し込んで、追加修正していきます。パーティーメニューの一部を出していく感覚です。「入れようと思ってたちくわ、誰かが食べちゃってもうない!」とか、「あと5分で出るって? えー朝になって急に言われても!」とか、変更は常にあります。そういうのも、ちょっと書いておく。ついでに、次のメニューをいくつか丸で囲んで、メニューを考える作業は終了! 丸つけるだけなら、頭を使って考えなくて済むので、多少疲れていても何とかできるものです。
このスタイルで2週間トライした結果、週末に残ったのはヨレヨレに使い込んだメニューのメモとすっからかんの冷蔵庫に、やり切った感。エンドレスで続く家事では達成感は得られにくいと言われますが、あー頑張ったねワタシと自分を褒めてあげたくなりました。ただの自己満足かもしれないけれど、食材の回転の区切りとしても、悪くないんじゃないかと思います。
まだまだ、先は長いよ。息切れしないようにね、と先輩ママたちは言ってくれます。
初心者ハイなだけかもしれないし、GWが明けたら、まんまと五月病に陥るのかもしれない。それはまだわかりません。どんなに準備周到に仕込んでおいても、日々のアクシデントはどうしたって起こります。そこはまぁ臨機応変に、手抜きも出来合いもOK。しばらくは、このスタイルでやってみてもいいかなと思っているところです。
これから部活の朝練も始まり、時短テクや新しいレパートリーも仕入れたい。でも、いまのわたしが大切にしたいのは、保育園の頃のように、やってるときはしんどかったけど振り返った時に楽しかったんだなぁと気づくことじゃなくて、いまのわたし自身が楽しいなぁと感じながら、ごはんを創ることかなぁ。義務感からじゃなくて、毎日がパーティーモードで。離れたところで子供が食べるのは、お弁当を包む、空気も記憶もまるごと、だろうから。そんな気がします。
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