一人旅で5,000円以下の宿にとまってはいけない
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記事:浜川友希(ライティング・ゼミGW特講コース)
一人旅で一泊5,000円以下の宿泊施設に泊まるのは「ギャンブル」だ。なぜなら5,000円以下の宿やホテルは、8割ほどの確率で期待を裏切る「ハズレ」だからだ。部屋が異様に狭かったり、お風呂やトイレが汚かったり、隣の部屋に眠るおじさんの寝息が聞こえてきたりするのは決して珍しいことではない。特に一人でとまるハズレの宿はつらい。恋人や友達の旅行であれば「ハズレだったね」と笑いあえるものの、一人旅の場合にはハズレの宿で己の選択ミスを黙って受け止めるしかないのだ。
ここでわたしが忘れられないハズレの宿を2つ紹介する。最初のハズレは、岐阜県に一人旅で行った民宿で起こった。その民宿は、予約サイトに「まるでおばあちゃんの家!アットホームでレトロな宿」と書かれており、宿泊費はなんと一泊3,000円だった。日々の残業に疲れ切っていた私は、たった3,000円で味わえるという「アットホーム」の言葉に惹かれて、つい予約をしてしまったのだ。
横浜から岐阜まで鈍行で6時間かけて向かった宿は、草や木が宿を覆うほど生え、蛍光灯がチカチカしている日本家屋だった。何度も地図を確認したが、確かにこの場所だ。一瞬空き家と見間違うほど、あまりに古めかしい外観だ。引き返したくなる気持ちをおさえて中に入ると、割烹着を着た70代くらいの女性がやさしく迎えてくれてくれた。
一人旅の女性客が珍しかったのか、わざわざサービスでペットボトルのお茶とお菓子を出してくれた。蒸し暑い夜には大変ありがたく、これがアットホームか! と感激し、この宿はアタリだと思った。安心して部屋に帰ってお茶を飲むと、なんだか不思議な味がした。お茶の甘みが消え、お茶葉とは違う謎の苦みがあとからくるのだ。よく関西と関東で微妙に味が異なる商品もあるので、このお茶も関西バージョンなのだろう。暑かったのでお茶を飲み干し、ふとペットボトルのラベルを見ると、思わずぎょっとした。なんと賞味期限が1年半前の日付になっていたのだ! アットホームすぎて、賞味期限切れの飲み物を出してくれたのだろうか。アタリ判定は覆り、ハズレ宿に認定された。本当は文句の1つや2つ言いたかったが、おばあちゃんのやさしい笑顔を思い出すと何も言えなかった。後日おなかを壊したのは、おそらくこのお茶のせいだろう。
2つ目のハズレ宿は、奈良市内の世界遺産近くにあった。一泊たったの2,900円のホテルで、予約サイトの紹介文には「ラグジュアリーな空間」とあった。WEBサイトに掲載された写真を見ると、桜をあしらった赤や黄金の部屋はたしかにラグジュアリーだった。わたしは2,900円のラグジュアリーを信じて予約した。実際にホテルに行ってみると、確かに清潔感のある広々とした空間で、桜や黄金の虎が描かれた壁は非常にラグジュアリーだ。しかしそれはロビーだけだった。部屋に入ると、ベッドが面積の7割を占めるせまい部屋で、外の豪華さとは正反対の白い壁紙だ。さらにドアはアコーディオンカーテンで、廊下の足音が聞こえてきた。ラグジュアリー具合は部屋まで行き届かず、この宿もハズレ判定となった。
ここまで来て、読んでいる方は疑問に思ったはずだ。「そんなに失敗続きなら、5,000円以上の宿に泊まればいいじゃないか!」と。まさにおっしゃるとおりである。それでもわたしは、一人旅の際にはたいてい5,000円以下の宿を予約する。なぜなら8割がハズレと言うことは、裏を返せば2割は「アタリ」の宿だからだ。アタリの宿を引けば5,000円以下の破格で、思わぬ贅沢が味わえる。めったに引けないアタリだからこそ、ほかでは味わえない優越感に浸ることができるのだ。
例えば島根に行った際、見知らぬ人と相部屋になるドミトリーに宿泊した。男女共同の相部屋ということもあり、宿泊費はなんと一泊2,500円。当時は学生でお金がなかったため、不安な気持ちを抱えながら予約した。しかし旅行の時期がたまたま閑散期と重なり、8人分の2段ベッドが並ぶ部屋はわたし一人の貸し切り状態だった。8人分の部屋は、普通に宿泊すれば1万円以上はかかるに違いないので思わぬラッキーだった。その日の夜は広々とした部屋を贅沢に使いながら、お菓子と日本酒を心行くまで味わったのだ。
わたしは、この2割の「アタリ」の味が忘れられずにいる。そのためわたしは一人旅をする際には、必ず宿の予約サイトは安い順に並び変え、5,000円以下の宿のギャンブルに参加してしまうのだった。
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