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仕事好きなアラサー女子にこそ、海外留学を勧める理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:秋良(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「部長、年末年始会社休んで、留学行ってきてもいいですか?」
「は?」
 
世の中には社会人向けに、年末年始やGW期間を使って短期留学をするプログラムが存在する。
観光ではなく、その土地に一定期間住みながら語学を勉強することで、その国の文化・生活までもリアルに感じることができるのだ。
 
当時のわたしは会社が大好きで、オンもオフもないくらい、ひたすら仕事のことを考えていた。その結果、仕事でそれなりに結果が出るようになり、後輩の指導を任されることも多くなっていた。
一方で、仕事へのなれから天狗となりかけている自分にも気がつき、
もう少し自分の視野を広げようと、「短期留学」という言葉が頭の中をよぎるようになっていた。
プログラムを知ったのはたまたまだったが、ちょうど年末年始のプログラムに空きがあり、価格的にもなんとか支払えそうだった。
暦的に、年末年始休暇に加え少し有休を使わなければならなかったが、会社としても有休取得を推進する方針となっていたため、勝算はありそうだった。
 
怪訝そうな上司に事情を話し、必死で説得する。
 
「…うん。行ってくれば?」
 
こうして、晴れて留学に向けて準備を進め出すこととなったのだった。
 
年末。
わたしはイギリス・ヒースロー空港で、身長の半分くらいあるような巨大なスーツケースを死にそうな顔で押していた。
憧れの地にいるにも関わらず、心は完全に折れかかっていた。
周囲の会話が全くわからない。
当たり前だが、聞こえてくる言葉は日本語以外。
英語を話しているのか他の言語を話しているのかわからないくらい、何も聞き取れなかった。
受験英語の経験もあるしまあ何とかなるだろう、という自信は、速攻で崩れていた。
 
案の定、空港で迷子となり、ホームステイ先に辿りついた時には、半泣き状態となっていた。
びくびくしながら呼び鈴を押すと、かっぷくの良いホストマザーとまるでぬいぐるみのような白い子犬が現れた。おそるおそる名乗ると、マザーは目を輝かせた。
 
「You’re welcome! Where are you from?」
「Tokyo」
「Nice! I like Tokyo!」
 
にっこりと微笑まれ、ようやく肩の力を抜くことが出来た。
リビングでハウスルールの説明をしてもらいながら、マザーやハウスメイトと雑談する。
母国語でない状態での会話は、本当にぎこちなかった。
何歳か、どんな街に住んでいるか、好きな物は何か。
日本語だったら、呼吸をするように出来るコミュニケーションを取るのにとても時間がかかる。
当たり前のようだった「伝わること」が、こんなにも難しくて、尊いものだと気がついた。
 
翌日からの、それまでとまるで違うスタイルで送る留学生活は、大小様々な「!」で溢れていた。
ハイヒールとジャケットから、スニーカーとジーパンへ。
住宅街を走る小さなバスに乗って学校へ行き、授業が終わったらビルの谷間にひっそりと佇むパブでビールを飲む。
 
イギリスのごはんは意外とおいしいこと。
同じ英語でも、アジア圏の英語だとなんだか聞きやすいこと。
日本にはなくて、世界中では当たり前な商品やお店がたくさんあること。
 
知らなかったことが、感情が、毎日堰を切った川の水のように溢れつづけて、大人になってからもこんなに新鮮な経験が出来るのか、と楽しくて仕方がなかった。
そして、出身国も年齢も違う人々と関わる中で、コミュニケーションの取り方も変わって行った。
 
本当に伝えたいことは何かを考えること。
相手に伝わっているか、を常に意識して話すこと。
 
当たり前のようで出来ていなかったことを心がける中で、思考がどんどんシンプルになっていく。
仕事の責任が増える中で感じていた、一人で全部やらねばならない、という気負いが、気がついたらなくなって行くように感じた。
まじめ過ぎ、と言われる自分にとっては、この生活がとても良いリハビリになっていた。
 
イギリスで出身地を告げたときに、様々な国の方々から「自分は日本人が好きだ」と嬉しそうに言われることが多かった。
どうしてか、と聞くと、皆口を揃えて「日本人はみんな礼儀正しくて親切だ」と言ってくれる。
自分自身が人と比べて礼儀正しかったり、親切だったりするつもりはない。
でも、そう言われるたびに、過去に彼らと出会い、日本人に対してその印象を抱かせた人々に感謝し、彼らがその印象を頂き続けてくれるよう、自分自身のあり方を改めて見つめ直そうと思った。
 
1月2日。
たくさんのお土産で入国の時よりも重くなったスーツケースを引っぱり、搭乗カウンターを目指す。
帰りのフライトは国内の会社を手配していたので、カウンター付近には、たくさんの和服姿のスタッフがいた。
 
「明けましておめでとうございます」
 
柔らかい微笑みと、久しぶりに脳に染み渡る日本語。
思わず涙が出そうになり、思った以上に自分は中学中に緊張していたんだ、と言うことに気がついた。
 
 
たった一週間にも関わらず、この留学経験はわたしの思考や行動へ大きな影響を与えていた。
年末年始休暇が終わることには「中・長期留学パンフレット」を引っ張りだし、次のイギリス留学のスケジュールを考えだしていた。
 
そして、半年後、わたしはまたヒースロー空港に降り立っていた。
今度は前回よりも長く、ある程度まとまった期間留学をする予定だった。
 
自分の人生が変わるきっかけを、ようやくつかむコトが出来そうだった。
 
 
 
 
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2019-04-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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