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放射線科占い


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記事:佐藤 滋高(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
子供の頃、公園にある大きな石をひっくり返して遊んだ事がある、そこには見慣れない生き物が潜んでいた。突然差し込んだ陽の光に慌てふためく彼らの心境が今なら少し分かる気がする。
 
普段ドラマを見ない自分がこの四月から毎週月曜日に視聴するようになった。月曜に観るドラマと言えば、いわゆる月九である。今、「げっく」と入れたら「月九」と変換された事に少し驚く。いっときほどではないにしろ、やはりインパクトのある放送枠なのであろう。
ドラマのタイトルは「ラジエーションハウス」、中くらいの規模の病院の放射線科が舞台である。
これまでも医師を主人公にしたドラマは量産されてきた。そのうちいくつかはドラマを観ない私でも名前を知っているほど話題となり、麻酔科や病理医など直接患者の主治医とならない専門医までもがお茶の間の知るところとなった。医療はいまや時代劇や刑事モノと並ぶコンテンツなのだろう。
そんな状況でいよいよ放射線科までもがドラマで扱われるようになったのだ。
いよいよ来たか……、そう思った。
私は放射線科医なのである。
 
初対面の人に医師であることを伝えると、必ずと言っていいほど、何科ですか? と聞かれる。
「放射線科です」と答える。
「あー、レントゲン撮られているのですね」と、返ってくる。
そういうやりとりがマナーであるのかと錯覚するほど型にハマったやりとりだ。しょうがない、放射線科医というものの存在を知る人は少ない。放射線科診断医の主な仕事は読影と呼ばれる作業である。CTやMRIなどの医用画像を診て、その所見をレポートにして主治医に返すのが仕事だ。そのため、ドクターズドクターと呼ばれることもある。そんな通り一遍の説明をする。
「へぇー、そうなのですか……」
ほらね、返ってくる反応はたいてい微妙だ、やれやれ。
なので、コンパなどモテたい時には、ヤブ科です! と笑いを取りにいったり(私の住む関西では面白い事が何より尊ばれモテの近道にもなりうる文化圏なのだ)、あるいは救急医です! と嘘を言ったりした。
しかし、認知されていないことがデメリットになる頻度はそう多くない。起きている時間の大半は院内で過ごしているし、そんなにコンパばかりもしていられない。もちろんメリットもある。世の中の人たちに認知されていないと言うのは、訴訟のリスクがほぼないのだ。知らない人を訴える人はいない。直接顔を付き合わす主治医が矢面に立たされ、放射線科医は影に隠れていられる。面白半分に書いたが、本音の部分もある。ことほど、何科の医師であっても訴訟のリスクは常に意識の片隅から離れない頭の痛い問題なのである。
 
私のもとに今日も診断に苦慮した主治医が相談にやってくる。しかし、華々しく診断して患者を劇的に救う場面は多くない、いや、少ない。(もちろんなくは無い!)
どちらかと言うと、私の仕事は占い師のようなものである。
 
本物の占い師は御宣託を伝える仕事であるが、優秀な占い師の多くは悩みを持ってやってきた相談者の話に耳を傾け、有用なアドバイスを返すことを生業とする。相談者の多くは占い師の前に座った時点で、実はうすうす解決策に気付いている。しかし、知っていることと、実行に移すことには乖離があって、二の足を踏ませる。その背中を押すのが、占い師の妙技であるし、一流の占い師ともなると、そこにもう少し具体的かつ実践可能な解決策を加えて提案する。
 
「私、恋愛に悩んでいるのです」
「見えたわ! あなたいい恋愛してないわね! 不倫なんでしょ! このままズルズル続けても先はないわよ! あなた今年はすっごいいい星回りなの、いま別れたら次にいい恋愛ができるはずよ。そして、このカードは友達が救世主になるってカード! あなたラッキーね、なりふり構わず周囲の友達にいい男がいないか相談しなさい。婚活の第一歩は婚活していることを周囲に宣言する事なのよ!」と言った具合である。
 
主治医が放射線科にやってくる
「腸閉塞でいいですよね?」
主治医とモニターに映し出されるCT画像を一緒に覗き込んで答える、
「はい、腸閉塞で間違いないと思います。虚血で腸が腐ってないかが問題ですが、画像上は積極的に疑う所見に乏しいです。患者の症状や血液検査と併せての評価になりますが、緊急手術は必要ないのではないでしょうか。ただ、断定はできませんので、状況的に怪しくなったらCTのオーダーを再度入れてください。一応、外科の先生にも、ひょっとするとオペを依頼する状況になるかもしれない患者がいる事を伝えておきましょう」
主治医の背中を押して、必要があれば治療の方向性を微調整し、それが複数診療科にまたがる場合には環境調整するのが実は放射線科医の大事な仕事で醍醐味である。ドラマチックな場面は滅多にない。
ドラマはもちろん虚構だ。刑事ドラマを観てあれを現実と思う人は少ない。しかし、医療ドラマを観てあれが現実だと思ってしまう人は少なからずいるようだ。刑事ドラマは所詮他人事であるが、医療は少なからず自分ゴトなのだ。ところが、実際の医療現場はどの診療科もかっこいい事ばかりではない。泥臭くもがきながら、日々薄氷を踏む思いで診療にあたっている。時にそんな姿が頼りなく見え、不安や不満を抱かせてしまうのかも知れない。
ドラマが現実と違う! と言い立てるような無粋なことはしたくないが、できればその内容は医療者と患者が互いに信頼して協働的に治療に向き合っていけるような、そんな場面がドラマで描かれていくことを期待したい。
医聖と呼ばれる古代ギリシャのヒポクラテスはこう述べている。
「医療はアートである」と
 
 
 
 
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2019-04-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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