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あなたの一生大事にしたい本はなんですか? 本物の小説に出会った話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中 翠子(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「自分が一生大事にしたい本って、なんだろう」
書店で平積みにされているビジネス書や自己啓発本ばかりを読みあさっていたある時期、私はふと考えた。
なにかで実績を残しているひとは、たいていバイブルにしている本があるように思う。
より良く生きようと思うなら、指針となるバイブルが必要なのではないか。
私にとって、そういう本はどれだろう?
これまで読んできたビジネス書や自己啓発本は、どれも「一生大事にしたい」と思う本ではなかった。
 
私はもともと、ビジネス書や自己啓発本よりも小説や物語が大好きで、おもしろいものに出会うとむさぼるように読んでしまう本の虫だった。
しかし、最近は、話題の小説を読んでもいまいち惹き込まれなくなっていた。
展開に意外性があり、切れ味のよいものが多いけれど、読み終わったあとに自分のなかへ残る余韻……胸の奥に残る「爪痕」のようなものが、足りないような気がしていた。
読んだ前と後で、自分の世界の見え方がほんの少し変わっている。
そんな本に出会いたかったが、ながく出会っていなかった。
これまで、おもしろい、と思う本は何冊もあったが、「一生大事にしたい本」とは違うような気がしていた。
 
ビジネス書にしろ、小説にしろ、これまで生きてきた約30年間ずっと本を読んでいても、「一生大事にしたい」と思える本に出会えていないのは意外でもあったし、少しさみしいとも感じていた。
結婚相手が見つからない、という感覚に似ているかもしれない。
こんなにたくさんの人と出会っているのに、一生の伴侶が見つからない。そんなさみしさに近かった。
 
おもしろくない小説を読むよりも、仕事に役立つビジネス書を読んだ方がいい。私はそう思うようになり、しばらく小説から離れていた。
 
「すいこさんに読んでほしい本があるんです!」
そんなとき、職場の後輩であるTさんがおすすめしてきたのが上橋菜穂子さんの「守り人」シリーズだった。
「ファンタジー小説なんですけど、すごくおもしろいんですよ! ぜんぶ貸すので読んでください!」
前のめり気味なTさんによると、「守り人」シリーズとは、第1巻『精霊の守り人』から始まるシリーズものの異世界ファンタジー小説だということだった。
シリーズは本編10巻と、短編1冊、外伝2冊、資料集1冊、関連本2冊という相当なボリュームで、「大河ファンタジー」などと呼ばれている。
「そんなおもしろいんだ。じゃあ貸して~」
私は人におすすめされたものは読むと決めていたので、気軽におねがいしてしまった。
 
しかし、正直なところ、私はファンタジー小説をあまり読まない。
苦手というほどではないが、あまり興味がなかった。
また、本編10巻という長い道のりに、少し躊躇する気持ちもあった。
読みたいビジネス書や実用書をたくさん買い込んでいた時期だったので、小説を読んでいる余裕はあまりないと思っていた。
 
Tさんは、まずはお試しで、と言って本編3巻を貸してくれた。
『精霊の守り人』、『闇の守り人』、『夢の守り人』の3冊だ。
「とにかく、2巻目の『闇の守り人』までは読んでください!ここまで読まないと本当のおもしろさはわからないので!」
そう言われたら、読むしかない。
私は、だんだん本好きの虫がうずうずし始めるのを感じ、読みかけのビジネス書があるにもかかわらず、1巻目の『精霊の守り人』を読み始めた。
ほとんどいっきに読み切った。
読みかけのビジネス書の存在など忘れて、いっきに読んだ。
読み終えてまず感じたのは、胸の奥の方に残るずしりとした余韻だった。
これは、「あー、おもしろかった!」で終わる、ノドごしがいいだけの小説ではない。これまで読んできた小説とは何かが違う。
物語の展開、伏線の張り方、登場人物の魅力、声に出して読みたくなるような深みのある文章やセリフ、おもわずよだれが出そうになるほどおいしそうな食事シーンの描写……文句なしの読みごたえだった。
特に食事シーンのリアリティが圧倒的だった。
私は、食事シーンが魅力的な物語はきまっておもしろい、と思っている。
宮崎駿監督の映画がいい例だと思う。食事シーンで唾がわいてくる作品は、すべておもしろい。
この作者は何者なのだろう? 気になって調べてみてすぐに、自分の無知さが恥ずかしくなった。
作者の上橋菜穂子さんは、児童文学界のノーベル賞ともいわれる国際アンデルセン賞の作家賞を受賞した方だったのだ。そして、「守り人」シリーズは上橋さんの代表作であり、日本国内でも様々な賞を受賞していた。
これが、「本物」の小説なのか、と思った。
私はすぐ2巻目の『闇の守り人』を読み始めた。
そしてやはりいっきに読み終えたとき、思った。
これはもう後戻りできない、いや、したくない、と。
ハイペースで読み進める私に、Tさんはしめしめとばかりに続編を貸してくれた。
そして、全巻読み終わった後、私はシリーズ全巻と短編集と関連本をすべて自分で買いそろえていた。
何度でも読み直したいと思ったからだ。
このシリーズには、どんなに偉い人が書いたビジネス書や実用書、自己啓発本よりも示唆に富んだ教訓に満ちている。
読んだときの自分の状況によって新たな発見がある、そういう物語だった。
 
「守り人」シリーズの物語は、超一流女用心棒であるバルサと、新ヨゴ王国という架空の国の皇子であるチャグムを中心として展開する。
複雑な人間関係や、やりきれない思い、不条理さに翻弄されながらも、強く優しく、信念を持って闘うバルサとチャグムの生き方が、読み終わった後も胸の奥に余韻として残っている。
その余韻が、私の世界の見方をほんの少し変えてくれる。
私たちは、物語のなかのように、武器を使って血を流して闘うわけではない。
しかし、だれもが人生のなかで、何かとなんらかの形で闘っているのだと思う。
私は、そうした闘いのなかで迷ったり、疲れたりして、ふわふわと気持ちが落ち着かなくなったとき、この小説を読んでバルサとチャグムに会いに行く。
すると、ふしぎと腹に力がたまり、地に足がつき、また闘える気がしてくる。
 
私は、この「守り人」シリーズを一生手放さないと思う。
 
私は、一生大事にしたい本に出会えたことに、とても感謝している。
「本物」の小説に出会うことができてよかった。
 
できれば、私にとっての「守り人」シリーズのような本に、すべての人が出会えることを願わずにはいられない。
 
 
 
 
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2019-05-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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