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10年後の仕事の選び方について想像してみた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中 翠子(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「エリちゃんの将来が心配だわ……」
母がため息まじりにつぶやく。
また考えてもしょうがないことを言っている、と私は思う。
エリちゃんとは、私の兄の子どもで、私からすると姪っ子、母からすると待望の初孫だ。
まだ生まれたばかりの赤ちゃんで、1歳にもなっていない。
母がそんな幼いエリちゃんの将来を案じているのは、エリちゃん自身に問題があるからではない。
エリちゃんが、先行きのまったく見えない激動の世の中にちゃんと適応し、まっとうに生きていけるだろうかと心配しているのだ。
なんて心配症なんだろう、と感じるかもしれないが、我が家の家系をさかのぼってみると、それも無理からぬことだと思う。
私の父、母の家系は、どちらも人間関係に不器用である。
その子どもである私と兄も、例外なく不器用だ。
母が心配しているのは、この「人間関係に不器用」な遺伝子をエリちゃんが受けついでいて、きびしい社会で生きていくのに苦労するのではないかということだった。
 
もちろん、人付き合いが苦手でも、世渡り下手でも、その代わりに人よりもよくできることが必ずあるはずだと思う。
それがその子の才能であり、伸ばすべき長所だ。
それを生かしていけば、まっとうに生きていけるはずだ。
母もそれはわかっているが、ただ、その才能が何なのかわからず、それを将来生きていくためにどうやって使っていけばよいのかが予測できないだけなのだ。
 
実際、私自身も、自分の才能がどこにあるのか、そしてそれを生かせているのかがわかっていない。
いや、私だけではないだろう。才能を生かせていると自信を持って言える人は、ほんのひと握りなのだと思う。
 
適材適所という言葉がある。
その人の能力・性質を正しく理解して、ふさわしい仕事や役職に就かせるという意味だ。
みんなが自分の才能を正しく理解し、それを生かした仕事を選べる、適材適所が基本の社会。
そういう社会になったら、多少不利な性質を持って生まれても、生きる場所を見つけやすくなるのではないだろうか。
そういう仕事選びをする社会が、これから来るかもしれない。
いや、来てほしいと思う。
 
現在の日本では、仕事選びといえば就職活動が主流だ。
就職活動では、まず自己分析で自分の向き不向きなどを分析し、自分に合いそうな仕事を絞り込み、企業を研究し、企業にアピールして雇ってもらうという流れがもっとも一般的だろう。
その人の向き、不向きと仕事の間のミスマッチを最小限にしたいと思うのは、雇われる側も、雇う側も共通していると思う。
しかし、両者とも真剣に選び合っているにも関わらず、ミスマッチはよく発生する。
自分に合った仕事を選ぶのは、それだけむずかしいことなのだと思う。
 
そもそも、私たち日本人が自分の仕事を自由に選べるようになった歴史は浅い。
仕事が自由に選べるようになったのは、明治以降だ。
明治時代ですら、今のような自由さはなかっただろう。
現代のように、能力しだいで何にでもなれるという意識になったのは、戦後くらいからではないか。
人間の歴史のなかで、80年は短い。変化に適応するには短すぎるのだと思う。
つまり、私たちはみんな、自由に仕事を選べるようになったのはいいが、どうやって選んだらいいのかわからなくてとまどっている最中なのではないか。
 
これまで、私たちはひとりひとりが持つ才能や性質について無頓着すぎたのかもしれない。
「個」を尊重する社会になったのも最近なので、ひとりひとりを生かすことに力を入れてこなかった。
しかし、労働人口が減少していくこれからの時代は、ひとりひとりの持っている才能を生かし、「宝(才能)の持ち腐れ」になる人を減らしていくことが、もっとも効率的な働き方になるかもしれない。
ただ、子どもの才能を早期に発見し、それを適切に伸ばすことができる人はなかなかいないし、そういう環境もなかなかない。
 
では、どうしたらいいのか?
 
ここは、AI(人工知能)の出番ではないだろうか。
 
義務教育の中で、すべての子どもに対してAIを使った適性診断をしてほしい。
その人の向き、不向き、好き、嫌い、環境、身体能力などあらゆる要素と、AIに学習させたあらゆる仕事に必要な能力と、経済の動きなどをかけあわせて、適性のある職業をはじき出してもらうのだ。
そうすることで、よりはやい段階で自分の伸ばすべき長所を理解し、自分がどういう能力で社会に貢献できるのかを知ることができる。
仕事選びのミスマッチも減るだろう。
 
この取り組みに似たことが、スポーツの世界ではすでに行われている。
 
ご存知のとおり、スポーツはそれぞれの競技で有利に働く能力が異なる。
最近は、子どもの身体能力を測定し、その子どもの能力を生かせるスポーツを選ぶという、子どもの能力ありきの考え方が優秀な選手の育成に取り入れられているそうだ。
 
これと同じことを仕事選びにも取り入れれば、仕事が合わないと悩む人が減り、自分の能力を社会のために生かせていると実感して、生き生きと働ける人が増えるのではないか。
そうであってほしいと思う。
 
もちろん、AIが言うことはすべて正しい、というAI信者になってはいけない。
また、あまりに信じすぎて、自分の限界をAIに決めさせてはいけない。
AIも人間がつくるものである限り、完璧ではないだろう。
適性診断に縛られるのではなく、道しるべのひとつとして考えたい。
 
また、AI診断による適材適所な仕事選びなどしなくても、うちの姪っ子はこれまでご先祖様たちがやってきたように、きっとどんな境遇でも強く生き抜いていくだろうとは思う。人間はみんなそういう強さを持っていると思う。
しかし、同じ生きるなら、できるだけ生き生きと生きてほしい。
 
AIによって仕事が奪われるとおびえる気持ちもあるが、いつの時代も、新しい技術は使う人間によって諸刃の剣になるものだ。
人間がつくった技術は、人間を幸せにするために使ってほしい。
どうかうちの姪っ子の将来のためにも、10年以内にこのAIを開発してくれる人が現れるのを待っている。
案外、すぐにできてしまうかもしれない。
 
 
 
 
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2019-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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