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記事:藤崎 美香(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「婆ちゃんって、宇宙人やな」
母の横でねころがって携帯を見ていた姪に、私はつぶやいた。姪はくすっと笑いながら、うなずいた。婆ちゃんとは、私の母である。
 
人を理解するというのは、本当に難しい。特に、血のつながった家族となるとなおさらである。
『7つの習慣』を知ってから、『理解してから理解される』の言葉に従い、努力はしている。
しかし、『知る』と『できる』との間には大きな間がある。
 
私が夜遅く実家に帰ると、母はわざわざ起きてきて、その日の話をし始める。
「〇〇さんがな……」
「今日は嫌なことがあってな……」
ご飯を食べながら、私は、ひたすらうなずく。母もストレスがたまっているのだろう。帰宅して奥さんに話を聞かされる疲れた旦那さんの気持ちはよくわかる。どこかで、私は限界がくる。
「ちょっと頭が痛いから静かにしてもらえる?」
ところが、母は、今度は自分の話にすり替えて、さらに続ける。
「お母さんも頭が痛いんよ。花粉の時期やからしょうがないな〜」
と、延々さらにかぶせて続いていく。いつもこうだ。しかし、どうでもいいことや、グチが十分以上続くと、
「お風呂入るわ」
理由をつけて、話を切ってしまう。そのあと、ちょっとだけ罪悪感にかられる。
 
女は共感が一番! ひたすら相手の話を聞いて、その状況を理解しようとする事が大切だ。余計なアドバイスなど必要ない。
友人をふくめ他人の事は、最大限理解しようと耳も心も傾ける。
だが、母には、どうしても厳しくなる。どこかからブチッと忍耐が切れてしまう。そして、自己嫌悪。器の小さい私……ああ、また〜。
 
そんな母のまわりには、なぜか、いつも友人や近所の人が集まってくる。
平日、私は実家にいる事も多い。ときどき、その話の輪に引きずり込まれてしまう。そして、母を観察する。
―どこに、そんな魅力があるんだろう?―
相変わらず、ひたすら自分の話をする。誰かが話をすると、多少は聞くが、すぐ、かぶせて自分の話をし始める。だが、妙に、その場が楽しく不思議な一体感で満たされてくる。
 
別の日には、近所の人がとれたての野菜を片手にやってくる。
「お茶とお手ふき、持ってきて〜」
急に呼ばれた私は、お茶を持っていく。すると、ちゃっかり、玄関に座り込んで、お客さんにマッサージしてもらっている! 母は満足そうな顔で言う。
「あ〜、気持ちいいわ。ほんまに上手やな。美香さんも、やってもらい」
―いやいや、どんだけ、図々しいんよ!―
しかし、ご近所様は、満面の笑みである。
 
さらに、母が父に激怒したときの父の言葉には驚いた。
「お母さん、なんで怒っとるん? どしたんな?」
母は父を立てて何も言わないが、よく父に怒っている。私は、そのグチをいつも聞かされる。父はそのことを全く知らない。
「いつもの事やから大丈夫。普段は顔に出さんだけ。表裏ありすぎなんよ」
「ほんな事ない。ほんまにそうなら、わしのせいじゃ!」
「はああああ〜〜〜?」
恐れ入った! 何年一緒? なんでいまだにわからない?
私は妙な罪悪感にかられ、会話で母の批判は決してしてはいけないと反省する。
 
一緒に行く美容室でも、母には驚かされる。
「ぼく、お母さんのファンなんですよ! なんか癒されるんっス」
若いイケメンの美容師さんが、私の頭をカットしながら言う。
―母は、人たらしの天才なのかぁあ?―
 
ところが、和歌山に住む大好きな叔母一家を訪ねたおととい、やっと気づいた。いとこが、母に言った。
「おばちゃん、今までほんまによう頑張ってきたな〜美香がいつまでも学生しよったときも、ほんまによう頑張った〜」
私は思わず、手をついて頭を下げていた。
「ありがとうございます」
―なんでやねん! 私はどうしようもない娘で、母が、頑張ったお母さん?―
まっ、私が母に感謝すべきなのは間違いない!いつも母には飲み込まれる。
それより、人からの信頼のあつさ、母への暖かい眼差しはなんなんだ?
 
母は、携帯を持つことを嫌い、昔のまんまの生活を続けている。
そのため、外出で誰かが迎えに来るときは、外でいつまでも待っている事がある。脳卒中になって、体が不自由なのにもかかわらず。
また、母の日に、誰も来ないとしても、誰か来るかもしれないからと、一日家から出なかったりする。何か小さなお土産を用意して。
私はそんな姿を見ると、正直悲しくなる。
―なんで、そんな性格なん?―
 
また、週に二日来るスーパーの出前の車から、必ず買い物をする。
それは、買う物が特になくても必ずだ。
「なんで今日も買いに行くん? 割高やし、買う物もないやろ?」
「今日はそうやけど、あんたがおらんときもあるから、その時のために、いつも買いに行くんよ。お兄ちゃんも、行かんかったら心配するし」
 
母は、バカのようにいつも同じ、とにかく律儀だ。
損得ではなく、常に変わらぬ姿勢で、人に接し続ける。それは、その人から見えようと、見えなかろうと全く同じだ。何よりの信頼を得ていた理由なのだ。
 
母の体が不自由だから、まわりの人が優しく気遣ってくれてるんだな〜、本当に人に恵まれてるな〜と、私は勘違いしていた。
 
父がずいぶんと前に言った言葉が、やっと腑に落ちた。
「こいつは、非凡の凡や!」
「何それ?」
「あたり前のことを、ずっと変わらず続けられる非凡さ! こういう人間をすごい! っていうんじゃ」
 
参りました! 他人が知っていた母の人柄に、私は、今やっと気づいた。母は、自分が非凡だと思う事すらないだろう。
 
わけのわからない宇宙人は、私だった。
 
 
 
 
***
 
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2019-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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