メディアグランプリ

承認欲求で加速度をつける、断捨離インスタのススメ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岸本しおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私は片付けが苦手である。「小学校のはじめての授業参観に行ったら、あんたの隣の席の子にクレーム受けたの。あんたが自分の机が汚いからって、自分の荷物をいつも隣の席の子の机に置くって。お母さんとっても恥ずかしかったわ!」と、母は笑いながら私の小さな頃の思い出話をする。そう、私は、筋金入りの片付けできない女である。小学生時代から進化していない。
 
そんな私も、6月に30歳になる。もういい大人である。仕事の繁忙期である年度末を乗り越えた後の最大限に荒れ果てた部屋の中で思った。「30歳になっても片付けられない人間のままなのか」と。
 
そんな時にInstagramで「#断捨離記録」というハッシュタグを知った。ハッシュタグとは、Instagramに投稿する写真や動画に自由に付けることのできるラベルのようなもので、検索の印となる。ハッシュタグを辿ると同じハッシュタグをつけた投稿をまとめて見ることができる。
 
「#断捨離記録」のハッシュタグを見ると、個人のアカウントがただひたすら捨てたモノの写真を投稿している。雑誌やテレビなどでの片付けられない特集はよく見るが、媒体を通して見る片付けられない部屋は何故か別の世界に感じていた。それと比べて、Instagramで投稿される断捨離記録の写真は、色褪せて何年も使っていないお弁当箱、数回だけ使ったリップクリーム、大量のサンプル化粧品、高校時代から使っているジャージなど、日常の生々しさがあり、とても身近に感じる。この写真達を見て「片付けられないのは私だけじゃないんだ……」と心が少し楽になった。そして、同じ片付けられない者として、仲間意識も芽生えた。
 
Instagram上の仲間達は、片付けられない部屋から抜け出すために、日々溜め込んでいたもの達と別れをつげている。「片付けられない仲間たちは頑張っている。みんなができるのならば、私もできるかもしれない。私もこの状況から脱出したい!」という気持ちが、フツフツと湧き上がってきて、私も新しく断捨離専用のアカウントを開設した。
 
記念すべき最初の投稿は、最大限に散らかった部屋の写真。足の踏み場も無い部屋の様子は絶対に誰にも見られたくない状況だが、ここは戒めの意味を込めて公開した。
 
それから毎日1枚、捨てたモノの写真の投稿をはじめた。また、自分が片付けをできない理由を探るために「どこで買って、何で捨てるのか」という簡単な文章を添えて投稿することをマイルールとした。
 
ハッシュタグの力は凄い。フォロワーが少なくても、「#断捨離」や「#1日1捨」等、片付けと関連しそうなハッシュタグをつけると「いいね!」がつく。この「いいね!」がとても嬉しい。世間一般では、いらないものを捨てるという行為は特別なことではない。私が苦手なものを頑張っているという気持ちでも、社会ではできて当たり前のことである。そんな状況の中で貰える「いいね!」は「今日も片付けをして偉いね!」「がんばったね!」と褒められているような気持ちにさせてくれる。だいたい1つの投稿で30前後の「いいね!」がつく。つまり、Instagram上の世界では30人もの人が片付けをした私を褒めてくれる。素直に嬉しい。褒められると、やる気が出てくる。捨てることも徐々に楽しくなり、片付けに対する心のハードルも下がってきた。今まで、片付けをする! と意気込んでも、3日坊主に終わることが多かったが、今回は一ヶ月近く続いている。毎日、コツコツと溜め込んだモノと向き合い、別れを告げている。
 
また、自分が投稿した写真を見返すと、溜めていたモノたちの傾向から今まで知らなかった自分の一面が見えて面白い。私の場合は、捨てたモノたちに長袖の洋服が多く、冬服を選ぶことが苦手なことにはじめて気づいた。タンスの中にもその苦手意識、冬服選びの迷走が反映されていて、自分にとって中途半端で、何年も着ていない冬服が何枚も眠っていた。捨てたモノの写真には「何で捨てるのか」というコメントもつけて投稿しているので、今後、冬服を購入するときは、このコメントたちを参考にしようと思っている。
 
今回の断捨離では、捨てるだけでなく、Instagramへの投稿コメントを通して自分とモノとの関係性を見つめ直している。自分とモノとの関係性をここまで考えるのは、人生で初めてのことである。今後、この断捨離アカウントの投稿は、単に捨てたモノの記録としてだけではなく、これからの自分とモノとの関係性の指針としても大切なものになってくるに違いない。
 
私の断捨離道は、まだ道半ば。今日も捨てたモノの写真を投稿して、いいね!を貰う。
 
 
 
 
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2019-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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