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うちの母はねこ界の要注意人物である。


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記事:いしかわようこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「あの『ねこ会議』の写真、あれ絶対議題はお母さんのことやで」
「私もなんかそんな気がするわ」
 
数年前、福岡三越で行われた、動物写真家・岩合光昭氏の写真展会場から出てきた時の私と母の会話である。
 
『ねこ会議』の写真とは、十数匹が集まっていると思われるアジアのどこかの公園の風景で、大半のねこは同じ方向を向いてお座りしている中、数匹のねこたちはそっぽを向いたり後ろを向いたり、はたまたあくびをしている構図である。
 
「人間もねこもはみ出し者はいるわね」
たまたま同じ写真をみていたほかの来場者はそう呟いていて、岩合氏もそんな思いでシャッターを切られたのではないかと思う。
 
しかし私と母は、とある理由からその写真を見たとたん、顔を見合わせて苦笑するしかなかった。
 
なぜなら、母は家族の中では「ねこ会議で要注意人物に指定された」と認識されているからである。
 
少し話が飛ぶが、母はヒーラーとしての素質があると思う。
長女が生まれつきひどいアトピーを患っており、また自分自身もよく気管支炎にかかる体質だったため、ありとあらゆる治療法を試した結果、「操体法」という自然療法に行きついた。
 
その自然療法により、同じくアレルギー体質を受けついで生まれてきた姪や甥を何百回となく救ってきた。姪と甥にしてみれば、かかりつけの名医である。二人が調子が悪い時、母である妹が「治療してやろうか」といっても「ばぁばにしてもらうからいい」とすげなく断られるらしい。
 
そんな医者しらずの姪と甥にとっては、絶対的な治療者であり、ヒーラーでもある母の能力は、近所の犬やねこにも有効らしかった。
 
ある日、母が庭先で植物の手入れをしていると後ろから「ズコーズコー」というなんとも奇妙な音が聞こえてきた。
 
驚いて振り返ると、お向かいの喘息持ちのねこが、母のそばに丸まっていた。
 
「あら……。そんな呼吸して。つらかろう……」と母は喘息ねこに向かって気を送ってやった。
しばらくすると、奇妙な呼吸音も薄れ、ねこの顔も少し穏やかになったそうだ。
「もう夕飯の支度するからね。今日はおしまい。明日またおいで」と母は言った。
ねこが頷いたかどうかまではしらないが、帰って行ったので母も家に帰ることにした。
 
と、ここまでは良い話だった。だが、ここからが最悪になる。
 
なんと、ねこに治療の約束をしたことをすっかり忘れた母は、妹の誘いに乗って、次の日朝から日帰り温泉にでかけてしまったのだ。
 
帰宅したのは、日もとっぷり暮れた夜中近く。車から降りた母は、驚いた。
お向かいの喘息ねこが玄関前で待っていたのだ。
 
そこでやっと母は昨日ねこにかけた言葉を思い出した。
『明日おいで』確かにそういっていた。
 
「ご……ごめんね! えっと……今日はもう遅いから、明日おいで? ね? 明日は出かけないから!」
慌ててねこに謝る母。ねこは何も言わず、帰って行ってしまったそうだ。
そして翌日。ねこはもう来なかった。約束通り一日中家にいて、窓の外を気にしていたが、喘息ねこはその日だけではなく、母のそばに来ることはなくなったらしい。
 
やがて、妹一家は、川を挟んだ対岸に引っ越すことになった。人間の足でも徒歩10分もかからない距離だ。
 
そして、心機一転! と行きたいところではあるのだが、なんと母は新しい家でも同じミスをしてしまった。近所の弱ったねこと玄関先で出会い、軽く治療をして「明日おいで」と帰してやる。……そして、翌日日帰り温泉旅行に出かけてしまう。
 
新規の患者ねこも、夜遅くまで玄関先で母を待っていたらしい。そして二度と来ることがなかった。
 
「……それ、絶対お母さんはねこ界の要注意人物に認定されてるわ」
「それで、ねこ会議で口コミで広がってるんやろうな……」
あきれた私の言葉に、母ががっくりと肩を落とした。
 
そんなやりとりをしたことが、岩合氏の写真で私と母に同時にフラッシュバックしてきたのが面白くも悲しくもある。
 
そんな「おいでおいで」詐欺といわれても仕方ない母だが、まだ動物のヒーラーになる夢を捨ててはいないらしい。
 
さすがにねこはもう望みが薄いと思ったのか、ねこ派の母が最近では犬にも営業対象をひろげている。
 
飼い犬を散歩させながら、出会った犬に触れ、癒してやりながら「なんかあったらうちにおいで。そしてよくなったら宣伝して回ってね」と声をかけているそうだ。
 
「治療してくれた犬やねこが集会の時、口コミで評判つなげてくれたら宣伝費もかからんし、べつに薬とか使うわけじゃないから治療にお金かからんし、老後のボランティアとしてはちょうどいいやん」と言っている母は、本当にたくましいと思う。
 
いつか、家の前に患者ねこや犬が長蛇の列を作る日が来るといいね。治療のお礼に、ネズミや骨を持って来られたら、それはその時処分方法考えようね。
 
うちの母は、ねこ界の要注意人物であり、ちょっとうっかりさんな、世界一のヒーラーである。
 
 
 
 
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2019-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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