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キリギリスの人生


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:風香(ライティング・ゼミ火曜コース)
 
「このまま、この時がずっと続いたら良いのに……」
なんて思った事はなかった。
いつだって先に進む事ばかりを考えて生きてきたから……。
 
父は転勤族だったので、私は小学校を4つも変わった。
その経験から、どんなに仲良くなったとしても、いじめられていたとしても、次の学校に行けば違った人間関係が待っていて、全く違った自分になれるという事を幼くして知ってしまった。
 
もちろん以後も、中学校・高等学校と三年周期で世界が全く変わる訳で……人生で何度か経験した自身の卒業式は、周りが色々な気持ちで涙を流している時も、今までの友達や環境を失う事への不安なんかよりも、とにかく次の世界に進めるのが嬉しくてワクワクしていた。
 
「人生は何度でもリセット出来るんだ」
それから先も、そういう経験を繰り返した。
 
だからなのだと思う。
人や物や現状に執着する気持ちが薄い。
そして、生まれ持った短気な性格もあり、
仕事も恋愛も人間関係も上手くいかなかったらいつだってリセットしようとしてしまう。
 
パソコンも、調子が悪くなると……ポチッとリセットボタンを押す。
どんな不具合も、「リセットしてみると動くかもしれない」と思って、気軽に押す時もあるし、慎重になって、自分で色々調べて設定を変えたり、サービスセンターなどに問合せをしたりしても直らないと、押す事もある。
様々なIDやパスワードを、きちんと覚えていなかった為に、再起動時に大事な機能が使えなくなったり、長時間かけて蓄積してきたデータを全て無くしてしまったりという最悪の事態になった事もある。
そういったリスクがあっても、大概、リセットボタンを押す事によって、新たに動き出す事が殆どだ。
 
パソコンと同じように人生も、ちょっと勇気を出せばリセット出来る。
リセットしたら、きっと滞っている状況から新たに動き出せる。
新しい世界で新しい経験が出来る。
「苦労や経験は買ってでもしろ!」という様に、人何倍も色々な経験をした事は、私の糧になっている事は間違い無いし、リセット出来る自分は勇気がある人間だと思っていた。
生き方として、リセットや断捨離をして、自由にシンプルに生きる事を、かっこいい生き方だと思っていた。
 
しかし、先日30年ぶりに親友と会った時、親友が若い頃からずっと同じ仕事を続け、そこで役職にもつき安定した余裕のある生活を送っている事を知った。
そして、もうすぐ銀婚式を迎えるという親友夫婦と、二人の間で立派に成長した子どもの話をたくさん聞いた。
家族で過ごした時間の重み、家族が互いを知り尽くし思いやる言葉を聞いた時、私には計り知れない家族の絆を感じた。
 
親友は
「このまま、この時がずっと続いたら良いのに……」と微笑んでいた。
 
普段はそういう事は殆ど感じないのだが、
歳のせいなのか?
親友の幸せそうな笑顔が眩しすぎたせいなのか?
そんな積み重ねてきた人生を「羨ましい」と感じた。
 
かたや私は……。
長く積み重ねた物など何も無い。
そんなに深い絆もない。
 
リセットせずに我慢して生きていたら、私の人生も、もう少し深く安泰だったのかもしれない。
 
今から振り返ると、私のリセットだらけの人生は、イソップ物語のひとつの
「アリとキリギリス」の「キリギリス」の様だ。
 
「アリとキリギリス」は、アリが冬に備えてコツコツと働いている時に、精一杯楽しく遊んで暮らしていたキリギリスは、冬になると食べ物も無くなり困りはて、過去のおこないを後悔することになる。
先の事を考えずに、その時だけを楽しく生きていくと、後で苦しむことになるという物語。
 
私はキリギリスの様に、先の事をあまり考えずに、「今が大丈夫ならきっと先も大丈夫!」という、意味不明な自信だけで、リセットを繰り返して生きてきた。
その時その時を、自分の感情に素直に、選んだ道を一生懸命生きる事が人生の上でとても大切だし幸せだと思っていたのだ。
 
しかし、しっかりと地に足をつけて生きてきた親友の姿を知って、本当はアリの生き方でも、キリギリスの生き方でも、それぞれに幸せを感じながら生きていけていれば、どちらでも良いのかもしれないと気付いた。
幸せの尺度は人によって異なり、それぞれの生き方があるのかも知れない。
 
今の私の「50歳」という年齢は、人生100年の時代ならば「折り返し点」という所だろうが……私は「折り返し点」とは思いたくない。
まだ先に目的地がある幸せな人生の「通過点」でありたいと思う。
それでも滞る事が嫌いな私は、時折「リセットして、又新しく……」と思ってしまう事もあるだろう。
けれど、リセットしない人生が、先を見据えた幸せな人生になるかどうかはわからないが、今までの様に、感情に任せてリセットする事は辞めて、出来る限り現状を大切に生きる事を心掛けてみようと思った。
ジャンプしながら急ぎ足で生きるのではなく、ゆっくりと地に足をつけて歩いてみよう。
少し遅くはなったが、これから迎えるであろう私の「冬」が、少しは穏やかになるのかもしれない。
 
 
 
 
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2019-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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