運命を決めるのは
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:武田紗季(ライティング・ゼミ1DAY講座)
「そういえば」突然、親友のミキが話し始めた。
「ほんとうに好きなひと、運命のひとって出会ったことある?」
それは今日、失恋の報告をしたわたしに対する何かの罰ゲームですか。
一瞬黙ったけれど、この親友にはこういう腹の探り合いは似合わないことを思い出す。
「いや、わかんないよね、運命のひとって。どこかでわかるポイントがあればいいんだけど。会話のフィーリングとかかな?」
わたしはミキとは長い付き合いだけど、彼女の思考は未だに読めない。
「あのね、運命のひとって、こう、手を繋いだり抱き合ったりすると、しっくり肌が馴染む感じがするらしいよ。人間の体って、表面2センチくらいに薄いバリアみたいな膜があって、そこが他人を受け入れるかどうかまず判断するんだって雑誌でみた。微生物の膜らしいんだけど」
「それって、そのバリアが受け入れると運命のひとだって言えるっていうこと?」
うん、そうだよ、とミキは簡単に返事をする。
わたしは人間なのに、そんな目に見えないものに自分の運命を左右されているなんてちょっと納得いかない。だいたい運命の相手ってなんなのさ。
そもそも、今回の失恋はミキのせいでもある。
ミキは美人なのにサバサバした性格で、男性にとにかくモテる。合コンではふらっと途中で顔を出すだけで、その場の話題をさらっていくようなタイプ。今回の合コンで、わたしはいいなと思った男性がいた。帰りにしっかり連絡先を交換して、さてデートしましょうとなったときに、いつものアレだ。「ミキさんとも仲良いんだよね?一緒にダブルデートしたいんだけど」わたしは一対一がいいのに。断ったら、わたしとのデートも断られた。
でも実際ミキは美人だし、こんなの結構あったから、まあ今回もしょうがないかなって思っていたのに。それなのにこれですよ。運命の相手がなんだって?そんなのだいたいいるのかわからない。わたしの運命のひと。
しばし考える。
きっと、かっこよくて、笑顔が木漏れ日みたいで、束縛は嫌だからサバサバした性格で、わたしのことをうんと好きで愛してくれるひと。
それから、それから……そこまで考えてひとり首を振る。そんなの現実的じゃないから。ああ生きるって難しい。
「あかねは今まで、肌を合わせてしっくりきた相手、いないの」
「いなくもないけど、しっくりは……よくわからない」
ミキは面白そうな顔でわたしをみる。
「あかねはお子ちゃまだから、実際運命のひとに出会ってもわかんないかもね」
「失礼な。わたしは絶対わかるよ。だって運命のひとに出会いたいって思ってるし、妄想だけはめちゃくちゃしてるから。今日からさらに具体的に妄想するし、実際触ったらばっちりだよ、絶対わかる」
運命のひとの感触がわからないまま、そうミキに返事をする。
「そういうミキはどうなの、モテるのに全然彼氏いないじゃない」
「わたしはいいの、もうずっと、ひとりのひとで手一杯」
「あ、高校のときから言ってるひと?一途だな、そのくせ誰かは教えてくれないよね」
「実ったら一番に教える。だから楽しみにしてて。気づいてもらえなさすぎてさ、もう遠慮なく行こうかと思って」
「わかった、絶対だよ。そのひととミキも、運命のひとだといいね」
「そうだとわたしは思ってる」
昔ね、とミキはふんわり笑った。
昔、高校の時、プリント配るじゃない?前の席から順番に後ろに回して。そのとき、一瞬だけ手が触れたことがあって。すごく嬉しかった、わたしの手が喜んでる感じがした。離したくなかったんだけど、でも離さないのもおかしいじゃない?相手も、プリント取らないの?って首かしげるしさ。しょうがなく離したけど、本当はずっと触っていたかった。わたしの運命のひとって確信した瞬間だな。
初めて聞く話だ。ミキは運命のひとの話をするとき、こんなふうに笑うんだな。それは陽だまりみたいでまぶしい笑顔、ミキに片思いされるひとは、きっとその笑顔に照らされて、大事に大事にされるんだろう。
ざあっ。オープンテラスのカフェに突風がつっこんでくる。目の前のミキが、なんだか知らない女性のようだ。
「寒くなってきたね、ここを出て、ちょっと場所変えようか」
そう言ってさっさと伝票を持ち、会計へ向かうミキを慌てて追いかける。わたしたちはいつもそれぞれのお茶代は自分で払う。サバサバしたミキらしい。
「ミキ、はい、わたしのぶん」
ちょうど小銭がぴったりあって良かった、そう思いながらミキに手渡そうとしたとき、ちゃりんと落としてしまい慌てて拾って手渡す。
「ごめん、はい今度こそ」
手渡した指を、きゅっと握られた。表面の距離はゼロ、微生物のバリアを思い出す。
「あかねは本当にお子ちゃまだな。ねえ、いつになったら気づいてもらえる?私達が仲良くなったきっかけは、なんだっけ」
この指の記憶は。
わたしたちは女子校だった。入学式のあとのクラス分けで、座席が前後だったのが、最初に仲良くなったきっかけ。これって。
「ミキ!」
いつの間にか離れた背中を追いかける、そうするとミキは「決めるのはあかねじゃなくて微生物なんだよ。彼らはなんて言ってるの?」と面白そうに笑う。
彼らはバリアをこえて受け入れた、それが事実。これが運命のひととわたしのはじま
り。
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