誰かに頼っていいのなら「神だのみ」も選べると知った、定食屋でのきき耳
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:田村洋子(ライティング・ゼミ特講)
「オハライの効果は2週間らしいですよ」
いつもの定食屋に入り、あいていた席に座ろうとしたわたしの耳に音が飛び込んできた。
一瞬、耳にした音の意味がわからず考える。
オハライの効果……「オハライ」は、けがれをはらうお祓い(おはらい)。神社で儀式とかしてもらう、あのおはらいのことらしい。
定食屋にいて聞こえてくる言葉ではないから、つい、隣席のお話が気にかかる。
おはらいの効果について話していたのは、20歳代くらいの若い女性二人組。わたしが神社へ行ったとき、目にするのは30~40歳代くらいの女性が多い。20歳代でおはらいの話をするのはずいぶん若いなと思う。
10人も入ればいっぱいになるこのお店は、となりの席との間もずいぶんと近い。わたしが隣のテーブルに座ったことで、ふたりの口も一度とまる。
わたしは、店の人に定食を頼んだ。この店では作り置きをしていない。注文が入ってから、調理に取りかかるので、ランチが出てくるまで少し時間がかかる。ひとり客は本を読みながら待つことが多い。わたしもひとり。持ってきた本を開く。
開いた本をぼんやりとながめながら、すぐ隣から聞こえてくる話を聞く。
「おはらいの効果」の話、続きが知りたい。
隣席の女性二人はおしゃべりを再開した。
「どうして、悪いことが続くの。失恋の気持ちの区切りつけたくておはらいをしてもらったのに、事故でけがをしてしまうなんて」
!?
おはらいや神だのみは失恋にもきくのか。
失恋に区切りをつけるために「おはらい」を使うことは、わたしには思いもよらなかった。
隣席にいるふたりは、ひと月前に、一緒におはらいをうけたことがある。ふたりはバイト先の先輩と後輩であるらしい。
ひと月前のおはらいで、心機一転。先輩さんは、失恋した相手に、あらためて告白をする予定だった。それなのに、事故にあってしまった。
もやもやした気もちをおはらいでリセットし、本命の男性にもう一度告白したい。そこで、今日2回目のおはらいに行ってきたところだ。
後輩さんは、2度目の告白をしたいという先輩さんをはげます。
「もしかしたら、事故にあってバイトを休むことでいろいろリセットされたのかも知れませんよ。2度目のおはらいもしてきたことだし、これからですよ。今日行ったのは縁結びの神社でしょう?」
そして、先輩さんの2度目の告白についての傾向と対策会議が始まった。ふたりに共通する友人が告白に成功した時のアプローチ方法、デートの時の服装のこと、次の誘い方など。めまぐるしく話題を変えながら話は続く……「おはらいの効果」についてのお話は、わたしが席に着いたそのときに出てきただけだった。
「なんだか、気が晴れた。ありがとう」とはずんだ声がした。ふたりで笑う声が聞こえた。
おはらいの話の続きは聞こえなかったけれど、隣から聞こえる楽しげな声でわたしもうれしくなった。
そのころ、わたしの定食も到着した。隣からの声は聞こえなくなった。
こころの区切りは、自分でつけるものだ。
わたしは、今もそう感じている。
でも、自分ひとりではどうにもできないときもある。
じぶんのこだわりが強かったり、受けた衝撃が大きかったりするときには、どうにも。自分ひとりで区切りをつけることが難しくなる。
そんなときには、ほかの人に話を聞いてもらうこと。「おはらい」や神だのみもいいのかもしれない。
「自分ひとりだけ」だと思って頑張りすぎると、身体がこわばる。こころもこわばる。どんどんと「自分ひとりだけ」の世界にはまりこんで、煮詰まっていく。
でも、
誰かと話せば「自分ひとりだけ」の世界にはまり込みすぎなくてすむ。
うっかりと、考えが煮詰まりすぎることもなく、ほどよく考えることができる。
どうしてこんなに深刻に考えていたのだろうか、と考えすぎていたじぶんを笑う余裕がでてくるかもしれない。
誰かと話すことで、こころの真ん中に楽しい気分がわいてきて、こころほぐれることだってある。
じぶんのこころ、じぶんの気持ちはその人ひとりだけのもの。
けれども、こころを整理していくときは、自分ひとりでやらなくてもいい。
家族でも、友人でも、知人でも。神だのみでも。自分以外のなんだって頼っていい。
そうして、やわらかな気持ちを思い出す。
やわらかな気持ちのまま、ものことをながめれば、これまでとは違うやり方がみつかる。違うやり方がみつかったとき、自然とこころの区切りはついてくる。足取りも軽く過ごしていける。
「お祓い(おはらい)の効果は2週間」説の意味は、結局、わからずじまい。
けれども、こころを整理したいときには、誰かに頼っていい。人だけでなく、神様にだって頼っていい、とわかった……定食屋でのできごとでした。
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