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突然の停電が気付かせてくれた災害への無防備さ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中 翠子(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「あれ、ブレーカーが上がらない……!」
4月初旬のある日。突然の停電が私を襲った。
 
やっとあたたかい日が増えて、もう本格的な春だなと思っていたところに、この年最後の寒波が日本列島を覆った。
「うー、風が冷たすぎる……」
私は、ひさしぶりの寒気にふるえながら仕事から帰ってきた。残業で遅くなり、家に着いたのは22時半を過ぎたころだった。
部屋が冷えきっていたので、急いでエアコンのスイッチを入れると同時に、電気ケトルでお湯を沸かし始めた。
テレビをつけ、部屋着に着替え、風呂の湯をため始めた。電気ケトルがぐつぐつと音を立てて、もう少しで沸騰しきるかと思ったそのとき。
 
バツン
 
ブレーカーが、落ちた。
「あー! またやっちゃった」
部屋は真っ暗になり、テレビが消え、エアコンも電気ケトルも止まってしまった。
私は手探りでスマートホンの明かりを頼りに、ブレーカーを上げに行った。
しかし、ブレーカーのスイッチを上げても手ごたえがなく、すぐ下にもどってしまう。電気が復旧しない。
だが、私は焦っていなかった。実は前にも同じことがあったからだ。
以前、ブレーカーがすぐにもどらなかったときは、家の電気製品のスイッチをすべて切って、しばらく時間を置いてもう一度試したらスイッチが上がった。
 
今回も、しばらく時間を置けばもどるようになるだろうと思い、上着を着て防寒しながら待っていた。
しかし、どれだけ待っても、何度も試してもブレーカーがもどらない。
ブレーカーが落ちてから1時間半程度が経過した。時間はもう真夜中の0時を過ぎていた。
 
もう、あきらめよう。
このままでは、睡眠時間がなくなって、明日の仕事にも差し支える。もう寝よう、と決めた。明日の朝まで放置して、それでもブレーカーがもどらないようならマンションの管理会社に連絡してなんとかしてもらおう。
対応を決めた私は、さっそく動き出した。
 
まず、明かりだ。
スマートホンの充電は残り10%程度で切れかけており、このままライトとして使い続けるのはむずかしい。
私は、インテリアとして置いていた電池式のランタンと、LEDの小さな懐中電灯で明かりを確保した。
スマートホンの充電はコンセントからはできないので、非常用に持っていたモバイルバッテリーで充電した。
 
次に、夕食だ。
ブレーカーが落ちる前は、冷凍庫に作り置きしていたおかずを食べようと思っていたが、電子レンジが使えないのでカチコチに凍ったままだ。カップ麺もあったが、お湯がないので食べられない。
仕方がないので、冷蔵庫にあったコーンスープを冷製のままいただき、チーズやお菓子を少し食べて空腹を補った。
 
そこで、当然だが、冷凍庫や冷蔵庫も電気がストップしていることに気がついた。
室温が低いとはいえ、中のものが腐らないか心配だ。
キャンプで使うような大容量バッテリーがあればよかったのにと、ない物ねだりをしてしまう。
私は、冷凍庫の中身をすべて取り出し、冷蔵庫に詰めた。こうすることで、冷凍品が保冷剤の代わりになって、冷蔵機能は保たれるだろう。
明日の朝まで耐えてくれ、と念じながら扉を閉めた。
 
次に、寝る身支度をしなければならない。
メイクを落とすためにお湯が必要だった。しかし、給湯器も停電でストップしてお湯が出てこない。
そこで、途中まで湯船にためていたお湯がまだ少し温かかったので、それを桶に汲んで顔を洗った。
頭も洗おうかと思ったが、ドライヤーが使えず髪を乾かせないのでやめた。明日の朝、もし電気が復旧したらシャワーを浴びよう。もし復旧しなかったら、頭は洗わず、身体だけ濡れタオルで拭こう。まだ寒いから臭くはないはずだ。
 
あとは寝るだけだ。しかし、ひとつ問題があった。
とても寒い。温度計によると、室温は12℃。このまま明け方にかけてさらに気温は下がるだろう。
寝具は厚めのかけ布団2枚と毛布1枚。ユニクロのウルトラライトダウンを着て寝ようと思っていたが、それでも心もとないくらい寒かった。
普段はエアコンや湯たんぽを使って暖をとっているが、電気ケトルが使えず、コンロはIHなので湯を沸かせない。せめてカセット式の卓上ガスコンロを持っていればよかった、と後悔した。
 
なにか熱を発するものはないか……と考えていた私の目に、あるものが飛び込んできた。
余って、もう今期は使わないと思っていた、使い捨てカイロだ。
これだ!
私は、貼れるタイプのカイロを6個ほど贅沢に開封し、毛布の裏、自分の身体に触れる面に貼り付けた。
毛布からはがれてしまわないか不安だったが、カイロを自分自身の衣服に貼り付けて眠ると低温やけどの恐れがあるので、それはやめた。
すでに深夜1時をまわっている。ちゃんと眠りにつけるか不安に思いながら、私は目を閉じた。
 
翌朝。私はいつもより早めに起きた。
身体が温かい。ポカポカしている。ぐっすり眠れた感覚があったので、カイロ作戦は成功したらしい。
室温は10℃を下回っていた。カイロがあって本当によかった。
 
さあ、問題はブレーカーだ。
私は緊張しながら、ブレーカーを上げに行った。
ゆっくり、慎重にスイッチを上げる……カチっという手ごたえは、ない。上まで上げきった。頼むから上がって、と念じながら、私はスイッチを上げきった状態で数十秒静止した。
そして、スッと手を離した。下がらない。スイッチが上がった!電気が復旧した!
 
私は無事にシャワーを浴び、温かい朝食を食べ、快適に身支度を済ませて出勤することができた。
 
ちなみに、冷蔵庫の中身は無事だった。
冷凍品は少し表面が溶けかけていたが、逆にもともと冷蔵庫に入っていたものは、表面が少し凍ってしまっていたくらいだった。
 
このブレーカー騒動は、まるで災害の疑似体験のようだった。
今回の経験で、災害への備えが足りないことを痛感した。
実際の災害では、さらに家屋自体への被害も加わるので、もっと困ることが出てくるだろう。そして、一晩ではなく何日もそれが続くのだ。それに、もっと寒い時期やもっと暑い時期だったらどうなっていただろうか。
 
災害は、突然やってくる。今回の停電のように。
災害列島である日本で暮らす「たしなみ」として、ひとりひとりが災害への備えを当たり前にしていかなければならないと思う。
 
みなさんにも、年に一度はブレーカーを落として災害擬似体験をしてみることをおすすめしたい。
 
 
 
 
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2019-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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