メディアグランプリ

長いトンネルから抜けて見えるもの


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Miwa.I(ライティング・ゼミGW特講コース)
 
「私ね、自分の今までの経験を、人を助けることに使いたいの」
 
妹のその言葉に私の心は今までにない、
とてつもない嬉しさに、どう反応したらいいかわらず言葉が詰まった。
 
GW、妹と夫と3人で河口湖に2泊3日、旅行に出かけたときだった。
妹と旅行に行くのは実に10年ぶりだった。
「いいね」とそっけない返答しかできない自分がもどかしくて笑顔でごまかした。
 
「あの子、勝手に家出してしまった」と母から連絡を受けたのは今から5年前、
妹が大学生のときだった。
どこに行ったか分からず途方にくれていた母だったが、共通の知人を通して
住んでいる場所は明かせないけれど、無事に暮らしているということが分かり安堵し、
しばらく無理に妹を探すことはしなかった。
きっと「家族」という監視に感じる何かに妹は耐えられなくなって家を出たのだろう、
姉として妹の気持ちも両親の気持ちも痛いほどわかった。
 
それから1年経った頃だろうか、出社前の朝型、突然警察から連絡があり
「落ち着いてください、ご家族が交通事故で救急搬送されました」の電話。
矢継ぎ早に病院からも電話があり
「命が危ないので今から開頭手術をしますので電話でいいので承認してください」という。
妹は新宿に住んでいることが明らかになり、家の前で横断している時に交通事故に遭った。
その瞬間私たち家族は妹の死を想像し、なぜ、家出した妹を連れ戻さなかったのかという後悔の思いで一杯だった。
 
一命は取り留めたものの交通事故で頭を強く打ち手術をした影響から、妹は高次脳機能障害となった。
事故後は、1日連続して12時間以上寝ないとまともな生活を送れない日々。
連続して寝られないと体調を崩してしまうので、日中家族は物音に気を付け、妹を起こさないように気を遣った。また精神的にも不安定になりしばらくは家族との衝突も増えていた。
 
いろいろな治療を試すがなかなか効果が出ず、長時間連続して寝ないとまともな生活が送れず、原因もわからない日々。高次脳機能障害と診断されたのも事故後2年以上たってから。その状態で妹は丸3年間苦しんでいた。
 
ここ1年でやっと本人に合う睡眠薬や治療法が見つかり、必要な睡眠時間が12時間、10時間、9時間と短くなってきた。
 
そのため今回の河口湖でやっと他人と旅行ができるようになったのだ。
 
本人はそれこそ数十種類は試したという完璧なアイマスクと耳栓を装備して私たちと同じ部屋で眠ることができた。
一緒に温泉につかって、朝食を食べられる喜び。何度も一緒に旅行に行こうと思ったことがあったけれど、本人のその日起きたときの体調が悪く、なかなか一緒に行くことができなかったので、このGWの3日間、姉としては一緒に旅行ができたことが奇跡のように嬉しかった。
 
旅行中に妹からは色々な相談を受けた。まるでやっと自分と他者を認識しだした子供のように、妹は外の刺激をスポンジのように吸収しているようだった。
この苦しんだ3年間、ほとんど人との交流を断ち人とどう接したらよいかわからなくなってしまったから、こういう場合はどのように人と接したらよいか、自分自身は何者かということを考えるようになって、色々な人に自分の性格を聞いているが姉としてはどのようにみているのか、自分の話し方は人と接するときにキツイ性格だと思われないだろうか、などなど。
 
そこには人との交流を断ってきた3年のブランクを必死に埋めようと前向きに努力している妹の姿があり、こんなにも長時間一緒に語り合える日がくることに喜びを感じた。
 
何より嬉しかったのは、本人は今、脳と栄養学の関係に興味があり、自分の脳は接種したものやその環境に影響されやすいので実験として使い、世の中で同じような悩みを持っている人や、もっと効率よく活躍したいと思っているビジネスパーソンのために脳を効率よく働かせるための研究したい、という目標ができたという話を聞いたとき。妹の限りない可能性を感じることができた。
 
人は何か大きな転機があったとき、ハンデを負ったとしても人生はおおきく良い方向に変わることができる。ずっとトンネルの中をさまよって何のために生きているのかわからないと思っていたとしてもいつか明かりが見えてくる。
私からするとずっと気がかりだった両親の気持ちも晴れてきて、私自身も心軽やかな日々が送れるようになってきた。
妹のきっかけは交通事故、そして高次脳機能障害という誰もが経験するわけではない、乗り越える壁が大きいものだった。
しかし誰しもがずっと暗いトンネルの中でもがいて自分を探すときが長い人生の中ではやってくる。私自身も、そのときは妹に負けないくらい前向きな気持ちで進もうと、心に誓った。
 
 
 
 
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2019-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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