親友を好きになってしまった 苦しむ私を救うのは文章
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:タコライス(ライティング・ゼミGW特講コース)
時計を見るともう14時半をまわって、40分になろうとしているところだった。二時間半が昼寝に消えていった。昼にそうめんを食べた私は、何もしたくなくなって昼寝をした。気分が沈んだワケを自分はよく知っていた。このところ何度も通り過ぎていってはまた戻ってくる悩みがぶり返してきた。すべてを打ち明けても同性の親友とは互いに愛し合う関係にはなれないことに苦しんだ。親友の名前は千葉とでもしておこう。
千葉との最初の出会いはよく思い出せない。大学1年のとき、あるサークルの新入生を勧誘する活動で偶然一緒になってそれが最初だったことだけ覚えている。互いに違う団体に入った私と彼にはほとんど3年近くの空白期間があった。再会したのは大学4年の12月だった。共通の先輩の家での飲み会にたまたま千葉と私がいたのだ。その時から少しずつ仲良くなっていった。いつから千葉を好きになってしまったのだろう。正確な時期はよく分からない。ただ同性を好きになるのは初めてで、私はとても動揺した。社会から弾き飛ばされるような心地がした。彼に嫌われると思った。
ゴールデンウィークの前日、気持ちをおさえきれなくて彼にカミングアウトした。面と向かって言う勇気がなくてラインの文面で気持ちを伝えた。元の関係には戻れないことを覚悟していた私は最後に「さよなら」と打った。本気でこれが最後だと思った。でも彼は受け入れてくれた。
「恋人同士の関係にはなれないけど、お前がいいならこれからも友人でいたい」
涙が頬をつたう。生きてきてよかったと思う瞬間だった。その時は報われた気がした。
しかし数日経つと心に暗雲が立ち込めている自分に気が付いた。自分のすべてを打ち明けてきたのに結局、望む関係は手に入らなかったのだ。私は千葉に、好きになってしまったことの他にも今までいろいろ打ち明けてきた。他の人にはいまも隠している過去を話してきたのに、彼とは親友以上の関係にはなれないのだ。なんで? なんで? なんで?
空は気持ちよく晴れ渡っているにもかかわらず、気持ちが沈んだのはそのやるせなさ故だった。灰色の気持ちが渦巻くのを感じながら、やるせなさを消しきるために、このことを書こうと決めた。何の気もなく自分で書きだした言葉に私は目を見開いた。
「相手本位だったのか?」
相手の千葉の気持ちになって考えていたのか、すべてを打ち明けてきた自分に酔っているだけではないのか。この思いは実体を持って自分に迫ってきた。なぜなら同じような悩みをある記事で見た記憶があったから。その記事は天狼院のライティングゼミを同じタイミングで受けている方が書いたものだ。その方は彼氏から突然別れを告げられ、涙にくれた日々を経験した。しかしふとある時に気が付いた。彼にとって自分はただ重い存在ではなかったのか、悲劇の人物を気取っていただけではないのかと。
記事を最初見た時にも自分の心を言い当てている気がしたのだが、相手本位云々を文字にしたときに、その記事の文章は私のこころの奥深い暗い部分に染みこんできたのだ。自身のことを打ち明ける姿に酔っていて、千葉がどう思うのかを全く考えていなかった。正直親友から好きだと言われて動揺しただろうに受け入れてくれた彼の立場を分かっていなかった。千葉、ごめんよ。お前の気持ちを考えずに一方的におしつけてごめん。
苦しみ悩んだ時に私は文章を書いてきた。就活でしんどかった時も、仕事で追い詰められた時も、そして今日も。こうやって書いていると悩みがほどけていく。自分のすべてを打ち明けたのに、望む関係が得られないことにいらだっていたが、その苛立ちは自分本位でまったく相手の千葉のことを考えていないのだと思うと気持ちが落ち着いてきた。正直なところ、書く過程では自分のイヤなところを見ざるを得ず、しんどくもなるが書き終わったときに新しい世界が目の前に現れるから私は書きつづける。
いま目の前のあなたに何か深い悩みがあるなら、文章は苦悩の傷を癒してくれるだろう。あの時に胸を苦しめた嫌な影、感情を書きだすだけでも違った心地になるはずだ。人間どん底になるとそもそも自分は何を悩んでいたかすら忘れて、目に映るものすべてが悲観的な色合いを帯びてくる。何が自身を苦しめているのかその正体を自分で明かそう。私のように公表する文章で気持ちをつづらなくてもいい。自分用の日記ならば人の目を気にせずに何でも書ける。誰にも言えずに胸の奥底にうずくまっている感情を書くと気持ちが楽になる。どんな媒体にせよ、文章を書くことで新たな自分になってゆく。そう思うと苦しみも悩みも次へのステップの原動力の姿をとるようになっていく。私は親友へのわだかまりを文章で振り返って、次にパートナーができたときには相手本位で振舞おうと決めた。千葉への思いは叶わなかったが、彼とはずっと仲のいい友達でいたい。また彼と笑い合いたい。
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