ラムちゃんにみる共助関係
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:佐藤滋高(ライティング・ゼミGW特講コース)
「すいません。近くにはいると思うのですが、お店も駐車場も分からなくて……」
困り果ててお店に電話すると、ラムちゃんと思われる女性の声で
「そこで待ってて 」
と、ひとこと発して電話は切れた。不思議な余韻が携帯電話の向こうに残る。
『ラムちゃんの店』
ネットでたまたま見つけたお店、まさか虎縞模様の水着とロングブーツを身につけた人がやっているお店ではないだろう。にしても、気になってしまって仕方がない。ネットの口コミは当てにならないことも多いが、いちおう好意的な意見が目立つ。グーグルマップにその名前を打ち込むと、経路検索は車で小一時間と表示していた。
行けない距離ではないし、時間的にも今から出発すれば閉店までには十分間に合いそうだ。
これは行くしかないな、そんな気分になってきた。
車の中から電話をしてしばらくすると、ラムちゃんとおぼしき笑顔の人懐っこい女性が近寄ってきた。その人がやはりラムちゃんで、そのままちょっと入り組んだ駐車場まで案内してくれた。その時のラムちゃんは記憶にも残らない普通の服装で、少なくとも虎縞模様の服ではなかった。
案内されたお店は、車で何度もその前を通り過ぎていた民家の一軒だった。田園地帯にある普通の農家の一軒家で、なるほど玄関先に自作と思われる小さな看板があった。歩いていれば容易に気付く看板も、立地からして車で訪れる人が多いだろうことを考えると、この目立たない看板では、果たして看板としての機能を十分果たしているかは疑問だ。
新規のお客さんが来る度に、店から出てお客さんを迎えに行っているのか、案内に手慣れた感じさえした。
店の外観は普通の農家の一軒家だか、これまた普通の玄関を開けて中に一歩足を踏み入れてビックリ……する事はない。
中も普通の民家だ。
靴を脱いで居間に上がる。親戚の家に来たみたいな錯覚を覚える。
居間の床の間には、なんと書いてある分からない立派な書と女性を描いたエスニックな雰囲気の絵画が同居していて、唯一違和感を醸し出している。
居間には意外と先客も多い。ラムちゃんの腕は確からしい。これは期待できる。
「今日は私一人なの。手伝ってくれる人ないから、ちょっと時間かかるけど、大丈夫?」
麦茶を私の前に置いて、ラムちゃんがそう尋ねる。
ここまできているのだ、もちろん待ちますとも!
見ると周りの客もすでにそこそこ待っているようだ。
常連っぽく見える人は家から持ってきたと思われる文庫本に没頭している。
車から電話してラムちゃんの手を止めてしまった事に少し罪悪感を覚えるが、ラムちゃんも周りのお客さんも気にする様子はない。
なんだか、不思議なお店だ。
確かに、待たされた。
帰ろうとして時計をみたら予想以上に時間が経っている。
しかし、大満足だ。
沢山いた客もいなくなって、気がつけば最後の客になっていた。
お会計の時に、ラムちゃんに少し話しかけてみた。
「この店は長いのですか?」
そこから話が弾んで話し込む。
ラムちゃんはタイから日本の農家に嫁いで、数十年。子供も巣立ったし、何か新しいことを始めたいと最近始めたのが「ラムちゃんの店」だそうだ。
自分の畑で作った新鮮なタイのお野菜を使ったタイ家庭料理が抜群に美味しい!
また、来ますと約束して帰ったが、そう近い店でもないし雑事に追われて、再訪には数ヶ月がかかった。
今回は家から文庫本を持参し、ゆっくりページをくりながら、親戚の家のようにリラックスして過ごす。気長にラムちゃんの料理を待つ。今日も店はラムちゃん1人のようだ。
そこに新しいお客さんがやって来る。初めてらしく、どこに座っていいのかマゴマゴしていると、お客さんとしてきていた近所さんらしきご夫婦の奥さんが見かねて、お客さんを案内して注文を聞いて、旦那さんはテーブルに残った皿を下げだした。
台所からお礼を言うラムちゃんの大きな声とご近所さんの笑い声が聞こえてくる。
実にほっこりする。
若くして異国に嫁いできたラムちゃんの苦労は並大抵のことではなかっただろう。ラムちゃんはその屈託のない笑顔で、近所の人たちに支えられて、時に支えて過ごしてきたのだろう。そんなお互いが信頼し合う雰囲気が伺える。
いつもは誰かを支えている人でも、誰かに支えて貰わないとダメな時がある。
支えて貰う事が多いそんな時でも、誰かの役に立てる事もある。
困った時には気軽に助けてって言えて、気負わずに誰かの手助けが自然に出来る。
そうすれば、きっとみんな少し楽になるのだろう。
ラムちゃんの店がリラックス出来る理由は案外そんな関係性にドップリと身を委ねられる所にあるのかもしれない。
今回もたっぷり待って、ゆったりまったり美味しい食事を堪能して、さて帰ろうとすると、突然呼び止められた。
「こないだ言ってたバイマックルー、株分けしといたから持って帰って!」
前回来たのは数ヶ月前、今回が2回目だと言うのに、覚えててくれたんだ!
そう、確か前回食べたトムヤンクンに入っていたこの葉っぱ美味しいですね、何ですか?と、質問したのだった。
ラムちゃん!
あなたはなんと言う人たらしなのだ!
部屋のバイマックルーの鉢植えは何度か冬を越して青々と繁っている。
見ていると、ラムちゃんの家でまったり料理が出てくるのを待たされたくなる。
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