メディアグランプリ

コンタクトと世界革命 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村山結実(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
コンタクトを作った。
これまで裸眼でのうのうと暮らしていた私は、コンタクトの相場も知らず、もちろんつけたこともないので、店員さんから手取り足取りレクチャーしてもらいながら装着した。

 
顔を上げると、そこは普段とはまるで違う異次元が広がっていた。
まるで、トンネルを越えると不思議の町にたどり着いた千尋のように、コンタクトが私の世界を一新した。

 
そこにカオナシや湯婆婆はいなかったが、今まで見えていたものが明らかに違う形をしていた。
全てのものが、浮き上がって見えるのだ。
私は右目のみ極端に視力が悪かった。いわゆるガチャ目というやつだ。
裸眼では左目だけでものを見ているせいか、自分自身全く自覚はないが、ものの奥行きを感じられていないようだった。

 
そういえば、思い当たる節がある。
学生時代、バレーボールを少しかじったことがあるが、なによりもレシーブがものすごく苦手で全然上達しなかった。
どこにボールが落ちてくるのか、いつまでたってもコツが掴めなかったのだ。
もしかして、視力の問題だったのか…と考えると、懸命に練習しても全く伸びなかった当時の自分がやるせない気持ちになった。

 
そしてもう一つ、世界が変化していた。
それは自分の顔面で起こっていた。
コンタクトを装着し、よし、化粧をしようと鏡を見ると、今まではそこになかった数々のシミやソバカスが存在した。
「な、なんだこれは」
私は鏡から顔を背け、数回まばたきをし、また鏡を見て…という動作を永遠に繰り返した。出勤前の貴重な時間の大部分が、その無駄な動作に浪費された。
まさか、自分の顔まで見えていなかったとは思いもしなかった。会社の同僚や友達がこの顔と毎日のように対峙していたかと思うと、本当に目が飛び出そうだった。
コンタクトのおかげでただでさえ出費がかさんでいるのに、この調子だともっとカバー力のあるファンデーションも今すぐにでも購入しなければならないようだった。

 
世界が急に姿を変えた日から、私は執拗に周りをきょろきょろ見渡すようになった。
一緒にいる友達に「虫がいる?」と聞かれ、ある時は「寝違えたの?」と首の可動性を心配されるくらいにはきょろきょろしていたらしい。
無理もない、私の世界に、革命が起きたのである。

 
普段と変わらないはずの日々に、なぜか高揚感をおぼえた。
明日が楽しみだった。
いつもの道、いつもの席、いつもの人たちに、毎日新しい発見があった。
 
「はじめましてした時は、すごく怖い人だと思ってたよ!」
「なんかバスケとかできそうに見えるけど、そうでもないんだね」
こう言われたことがある。一度ではない、複数人から同じようなことを言われる。

 
あるいは、
強面で近寄りがたい上司が、実際に話してみたらすごくやさしかった。
可愛らしくてふんわりした印象の人だけど、仕事になると非常にテキパキしている。
といったように、自分が初めに抱いた印象と実際が異なっていることがよくある。

 
アメリカの心理学者、アルバート・メラビアンはある法則を唱えた。
人が相手に抱く印象として(特に話し手が聞き手に与える印象として)、聴覚や言語と比較して、視覚からの情報が半分以上を占めるというものだ。人の印象は初めの3秒で決まる、なんてよく聞いたことがあるだろう。

 
私たちは、視覚情報を元にその人の人物像を頭の中に自動的かつ瞬時に思い描いている。決めるけているつもりはこれっぽっちもないが、無意識下でそれが行われるようあらかじめプログラムされているのだ。
そこで決定された印象が裏切られると、さも意外かのように感じる。視覚で得られる情報など、微々たるものに過ぎないのに。

 
ただのコンタクトレンズ、しかも片目だけでこんなにも世界が変わるのだ。
必ずしも、隣の人が自分と同じ世界を見ているとは限らない。
私の赤が、あの人の青かもしれない。
私の朝は、あの人にとっての夜なのかもしれない。
そんな不確実な、不明瞭な世界。絶対的に見えて、圧倒的に相対的な世界。

 
目で見ることは大切だ。限られた情報での素早い判断も、時になくてはならないものである。
でも、それで全てを決めつけるのは違うのかもしれない。あの雲は、本当に雨雲なのか?大好きなショートケーキは、本当に甘いのだろうか。あの嫌いな上司は、本当に悪意があって私に厳しくしているのか…。
たまには、違うフィルターで世界をきょろきょろ見渡してみると、革命は意外とすぐそこにある。

 
 
 
 
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2019-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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