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トラブルはお好きですか?


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記事:高橋恭子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
トラブル。それは突然に降りかかる災難。
できることなら避けたいし、トラブルが好きな人なんていないはず。
でも、今回我が家に訪れたトラブルによって、そんな考えが少しだけ変化したというお話。
 
「冷蔵庫が壊れてる」
 
そう夫に言われたのは、10連休という長いゴールデンウィークが始まったばかりの朝だった。
買ってから10年ちょっと。あと数年は使えると思っていたのに……。
 
寝起きのまま冷蔵庫の中に手を突っ込むと、モワッと生暖かい。室温とほぼ同じ温度だ。冷凍室は、かろうじて少し冷たい空気が溜まっているものの、昨日の夜に買っておいたハーゲンダッツはドロドロになっている。だめだ。完全に壊れてる。
 
主人がメーカーに電話して修理できるか尋ねたところ、製造から10年以上経っているうえに症状とエラーメッセージからして修理代金は新品を買うのと同じくらいかかるとのことだった。
 
「新しい冷蔵庫を買おう」
 
私たちの決断は早かった。掃除機やテレビならば使えなくても数日間は耐えられるが、冷蔵庫は毎日必ず使うもの。一刻も早く新しい冷蔵庫が必要だ。
しかし、我が家が新しい冷蔵庫を手に入れるまでには、長い道のりが待っているのだった。
 
まずはインターネットで冷蔵庫を売っている店を探す。大手のネットショップのホームページには「大型家電はGW明けから順次配送」と書かれている。まだゴールデンウィークは始まったばかり。これでは遅すぎる。普段ネットショップを利用することが多い我が家だけれど、今回は急ぎのため近所の電器屋で購入しようということになった。
 
電器屋の売り場には、最新型の冷蔵庫がずらりと並んでいる。30万円前後。ちょっと高いなぁ。最新型にはお刺身が上手に解凍できる専用モードが付いてるとか言われても、だいたい刺身を冷凍したり解凍したりって、普通の家庭で日常的にやることなのだろうか。我が家は買ってきた日に食べきってしまうので冷凍したことなんてないんだけど。もう少し安いのはないかと売り場を歩いていると、端の方に去年モデルがお手頃価格で置いてある。サイズも機能も申し分ない。よし、これにしよう。
 
「いま買ったら、いつ納品になりますか?」
 
そう聞くと、店員さんは「連休なので入荷まで約10日かかります」と言う。さすがに10日間は待てない。
 
別の店に行くと、展示品が格安で売っていた。少し傷があるけれど仕方ない。店員さんに「これ、いつ納品してもらえますか?」と聞くと「展示品は、梱包して配送センターに送らなくてはいけないので、約2週間ですね」との答え。がっかり。展示品だからすぐに届くわけではなかった。
 
以前は電器屋さんは倉庫とトラックを持っていて、在庫があれば当日や翌日に配達できるようになっていたそうだが、最近は業務の効率化のため各店舗では在庫は持たずに、配送センターを経由するシステムになっているとのこと。業務効率化というと聞こえはいいが、人手不足とかそういうネガティブな理由があるのかもしれない。
 
それにしても間が悪い。冷蔵庫が壊れるのが連休中でなければ、もう少し早く配達してもらえたのに。ゴールデンウィークはまだ1週間以上も残っている。困った。
 
「もう諦めてネットで買おう」
 
主人にそう言われ、結局インターネットで購入することにしたが、問題は冷蔵庫が届くまでの期間をどうやり過ごすかだ。
 
最初の2日間は外食で凌いだ。でも残り1週間をすべて外食というのも飽きるし、お金もかかる。
 
そうだ。キャンプの時に使う大きなクーラーボックスを物置から出してきて、食材はスーパーで使う分だけ少しずつ買ってくることにしよう。かなり不便だけど、無いよりはマシだろう。
 
いざクーラーボックスをキッチンに置いてみると、不思議なことにキャンプ場に来ているような気分になってきた。
 
あれ? ちょっといいかも。
これまで冷蔵庫がないと生活できないと思い込んでいたけれど、キャンプに行った時は冷蔵庫もガスレンジも無く、クーラーボックスや炭火で何とかしている。自宅をキャンプ場のコテージと考えれば、水は汲みに行かなくて済むし、備え付けのガスコンロもある。夜は寝袋じゃなく快適なベッドで寝られる。ものすごく設備が整ったコテージにいる気分になってきた。
 
キャンプだと思うようになると、冷蔵庫が壊れて憂鬱だった食事の準備もなんだか楽しくなってきた。食材をうまく使い切る献立を考えるようになり、食材や調味料もあるもので代用しようと試行錯誤をするようになった。買い溜めができないので、頻繁にスーパーに行く。いつもと違う昼間の時間帯にスーパーに行くと、夜には売っていない魚のアラが売っていて、久しぶりにブリ大根を作ったりもした。
 
冷蔵庫が壊れたことは、最初はタイミングの悪いトラブルとしか思えなかったけれど、結果としてキャンプ気分が味わえたり、料理を楽しめたり、自宅の快適さに気付くことができた。
 
トラブルは、もしかすると悪いことばかりではなく、日常のありがたさを再認識したり、新しい考え方や楽しみに出会うきっかけなのかもしれない。
ゴールデンウィーク最終日の今日、新しい冷蔵庫はまだ届いていない。もう少しの間、私はこのトラブルを楽しもうと思う。
 
 
 
 
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2019-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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