メディアグランプリ

私は雑魚。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:金田一 恵美(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
ミニオンズという映画をご存知だろうか。
おバカな単細胞生物のミニオン達は、より強くて悪いボスに仕えるのが生きがいだ。
要するにいわゆる「雑魚キャラ」的な存在なのだが、彼らがボスを求めて冒険する先々でトラブルを巻き起こす姿が、茶目っ気たっぷりでとにかく面白い。
大好きなシリーズなのだが、単純に面白いというだけではない。
私も激しく共感しているのだ、ミニオンに。
 
子供の頃は誰しもが自分中心に世界が回っていて「我こそは主人公」と感じがちだ。
兄弟が多かったり、学校などでたくさんの人間との共同生活が始まると、徐々に「あ、なんか違うかも」と思い始めるのではないか。
そこから比較することを覚え、他者と自分の優劣を比べ、自分の位置のようなものをなんとなく理解していく。劣っている方向に理解すると、辛い人生を送ったりするかもしれない。
私もどちらかと言うと劣っているという引け目を感じながら、大人になってしまった。
人の顔色を伺ったり、空気を読むといったことを自然とやってしまう「忖度人間」が出来上がっていった。
 
四十路を目前にした今となっては、相手のことを考えて行動できるってスキルじゃん! と自分を褒められるが、若さとはややこしいものだ。
不必要な場面でも忖度スイッチが起動するので、気疲れし、後から「オブラートに包みすぎた」と後悔の連続なのだ。やはり若い頃は何かとコンプレックスに感じていた。
 
20代半ばから勤め始めたデザイン会社のボスが、忖度スイッチが入ってすぐ顔色を伺う私に気付いたのか、「お前はディレクターに向いている」と言った。ディレクターとはかっこいい響きだが、10人もいない小さな会社のディレクターというのは、平たく言うと「なんでも担当」だった。
パッケージや販促物のデザインというのが私の主な仕事だったが、営業、企画、プレゼン、進行管理、業者選びや見積もり、時にはライティング。とにかくデザイン以外のことを全部やるのだ。人見知りなのだが、お客様、デザイナー、業者といろんな人と打ち合わせや交渉をしなくてはいけなかった。それでも見い出されたことが嬉しくてがむしゃらに働いた。
今思えば、よく頑張ったと思う。できあがった商品はお客様のもの、デザインはデザイナーの実績。調整や段取りが毎日の私は、中間管理職のような存在だった。裏を返せば、忖度が強みの私は忖度スキルをさらに磨いて行ったと言える。
 
30歳を過ぎた頃に、「私は主役向きではない」と確信した。
思春期からうすうす感じていたことを、はっきり確信した。
若い頃はネガティブに感じていたことだったが、社会に出て、世の中には脇役がたくさんいて、その存在なくして主役は輝かないという事実を知った。
そうだ、私は名脇役を目指すぞ。
味のある脇役。そっちの方がむしろ息が長いんじゃないの。
 
忖度スイッチもすぐに押さなくなり、面白おかしく押してみたり、操作が身についてきた頃、名脇役にもさらに条件がついた。
「尊敬できる存在」を引き立てる脇役になりたい。
ミニオンにとっては最強に悪いボス探し、私にとってはリスペクトできるボス探しだ。
ミニオンも私も飽きっぽいので、良いと思えなくなってくるとモチベーションが下がり、すぐやる気をなくす。
仕事でも、プライベートでも、より尊敬できる人のそばにいて、なるべく良い方向に感化してもらえる人間関係を築きたい。
自分の中の基準は「マジ、リスペクト!」と言えるかどうか。ごくシンプルになった。
自分に無いものを持っていて、かつ、それがすごいと思えるか。
こりゃ敵わないな〜、一生ついて行きます! と思いたいのだ。
前に出る気がない、雑魚である、雑魚の、雑魚らしい考え方である。
 
長年しがみついていた会社やだらだら付き合っていた彼氏は、この基準を満たしていなかった。どんどん手放して、どんどん人生を変えていった。
私にとっては脱皮を繰り返してどんどん透明に近づいていく感覚だった。
 
基準をクリアした男性とも付き合って半年で結婚した。クリアだなんて雑魚のくせに上から目線で言って申し訳ないが、当時35歳になっていたのでパートナー選びは非常に重要な問題だった。
理系で勉強が好きでせっかちな旦那は、文系でのんびりした私と正反対で、時間やお金に余裕ができたらもう一度大学に通いたいと言ってしまうような人だ。マジ、リスペクト!
 
結婚を機に、会社も辞めた。毎日残業が当たり前の少数精鋭の会社では辞めるタイミングが見つからなかったが、「外注として働きますんで!」と宣言し、自分にはできるはずがないと思い込んできた憧れの主婦兼フリーランスに転身。4年目に突入している。
 
雑魚とあえて表現するのは「謙虚さを失うな」という自分への戒めであり、卑屈な発言では決してない。こんな自分を肯定して楽しみ出せたことが重要だ。
自分の本当の立ち位置がわかり始めてから、ここまで15年かかってしまった。
とはいえ、人生、巻き返してきているのではないかと思う。
 
本当はデザイナーになりたかった。思春期のコンプレックスを克服できずに、進路でも就職でもデザイナーになりたいと主張できなかった。でも今は現場での経験を生かしてデザインもしている。大それたことはできないが、最低限プロと言えるレベルにはなったと思う。
主婦兼ディレクター兼デザイナー兼……と、スキルを徐々に増やしている途中だ。全部が中途半端と言えなくもないのだが「なんでも担当」の私は知っている。
 
あっちこっちに分散して物事を頼むのは面倒くさい。
 
相手がそう呼ぶかはさておき、「そこそこできる雑魚」にまとめて頼みたいというニーズは実は結構ある。
そこそこという表現を外して、「できる雑魚」になることが当面の目標である。
 
 
 
 
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2019-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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