見るなのタンス
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記事:河上弥生(ライティング・ゼミ日曜コース)
私が幼かったころ、家に童話集シリーズがあった。いろんな国の童話が、カラフルな挿し絵つきで収録されていた。そこに収録されていた日本の昔ばなしのひとつの挿し絵が、私は大好きだった。淡く優しい色使いの。
話のタイトルも、話の内容もエンディングも完全に忘れているのに、その挿し絵だけが今も鮮やかに記憶に残っている。その挿し絵を見るたび、自分がワクワクしていた感覚まで残っている。もしかしたら本文はロクに読まずに、ボーッとその挿し絵、今でいうところのイラストに見惚れていたのかもしれない。
そのイラストがどんなものだったかというと、タンスがあって、男性がその引き出しを一段一段上から開けており、その中身に目を奪われている、というもの。その引き出しの中には春、夏、と季節の美しい風景が広がり、その中に小さい人びとがいて、田植えをしていた。
一体あれはどんな話だったのだろう? 最近になってそのタンスの話のことが知りたくてたまらなくなり、ネットで検索してみた。
私が読んだものは、おそらく「見るなのタンス」。道に迷った男性が、あるお屋敷に泊めてもらう。そこに住む美しい女が、「あのタンスの引き出しは見てはいけませんよ」と言って留守にする。その男性は全部開けて見てしまい、ふりむくと帰宅した女がそこに! 女は「見ないで、って言ったのに……」と言い、ウグイスとなって飛んでいってしまう。
ほかにも、同様の話が「見るなの座敷」としても伝わっているらしい。こちらは、男がお屋敷に泊めてもらい、美しい女が「奥の座敷を決して開けてはいけませんよ」と言って留守にする。(言わなきゃいいのに)こちらも男は好奇心に負けて四つの座敷をすべて開けて見てしまい、女とお屋敷は消える。
私が気になって仕方のなかった昔ばなしは、ふたを開けてみると、昔ばなしの典型、ともいうべき内容であった。数十年経ってオトナになった私はしみじみ思った。なぜ人は「見るな」といわれると見てしまうのだろう。
実は自分は先日、大切な友人を深く傷つけてしまうということをやってしまい、思い出すたび「あの時の自分、バカ!!」と壁にアタマを打ちつけたくなるので、なるべくそのことを考えないようにしていた。つらいので、「もう、あのことは考えるな! 考えちゃだめ、私!」と、自分にきつく命じた。ところが、気づくと、そのことばかり考えてしまっているのだった。なんだかずっと気分がスッキリせず、「考えるな」でアタマがいっぱいになってしまい、ほかのことが手につかない。「あのタンスの引き出しは見てはいけませんよ」と言われた男もこんな感じだったのだろうか。
ふと、「考えちゃダメ、私!」という決意は、自分への呪いだと気がついた。この決意の後、考えるな、と禁じたことを考えてしまえば、そのたびに「考えてしまった私=ダメなヤツ」と繰り返し自分にダメ出ししていることになる。自分で自分を永遠に否定しつづける負の図式。
人は、褒められると、嬉しくなる。心が、ふくらんで、大きくなって、エネルギーが湧いてくる。しかし、誰かから否定されると、どんどん心が凹んで、そのへこみが大きくなって、暗く大きな穴となってしまうように思う。その穴に、自分で自分に放った「ダメ」という言葉が溜まっていく。「ダメ」の行き場は無いので重みを増し、こころをぎゅうぎゅう押しつぶす。楽しみや、喜びを感じにくくさせる。
自分の中に溜まった「ダメ」をポイントカードのようにプラスのエネルギーに変換できたら良いのになあ。なかなかそれは難しそうなので、まずは「ダメ」を溜めないのが良いんじゃないだろうか。
私が友人を傷つけてしまったことは、いくら謝罪しようとも消すことのできない過去だ。自分のおこないによって引き起こされた事実として受け容れるしかないのだろう。思い出すたび心が痛むけれども、傷つけられた友人のほうがはるかにつらいはずだ。傷ついた友人のこころをも抱きながら、自分に呪いをかけずに、生きていくことはできないだろうか。
過去は変えられないけれども未来は変えられるかもしれない。
未来に意識をシフトさせてみた。そうすると、可能性として低いかもしれないが、その友人との関係が回復する可能性は、ゼロじゃない! と気づいた。
もし、今後、あの人から連絡があったら、なんて言おう。どんな話をしよう。また、あのひとの笑顔が見られたらいいな。なるべく私が良いコンディションでいて、相手を想うきもちで未来に向かっていたら、友人の傷も、なにかの機会を得たときにすこしずつ癒してあげられるかもしれない……。少しずつだけれど、呪いは解けて、目の前が明るくひらけてきた気がした。
過去に焦点を置いても、なにも解決しなくて、使えないダメポイントが貯まるばかりだ。なにか切ないことが起きた場合には、未来に照準を合わせていくと、良いアクションがとれる機会が増えるようにおもう。
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