三つ目がひらく
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:谷中田 千恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
私が第三の目を授かったのは、おおよそ1ヶ月前のことだ。
きっかけは、一眼レフカメラを借りたことだった。
仕事の宣伝のため、イベントごとに写真を撮り、SNSに投稿している。しかし、毎回カメラマンを雇う余裕などはない。経費削減のため、自分である程度の写真が撮れるようになる必要がある。その練習のために、カメラを借りたのだ。
それまで、私は、写真を撮るのが苦手だった。いや、正直にいうと、写真を撮るのが嫌いだった。
友人たちと食事に行くと、彼女たちはもれなくスマホを出し、カシャカシャとシャッターをきる。
私は「待て」の指示を受けた犬のように、ひと段落するまで、フリーズだ。
できたてをすぐに食べた方が美味しいのに。私はいつも思っていた。
旅行に行ってもそうだ。きれいな景色を見ると必ず写真タイムが始まる。私は、写真に見切れないよう、端により景色を眺める。
スマホ越しではなく、実際の目でじっくり観察したい。今ここでしか見られないから価値があるのだ。そう思っていた。
そんな私が、必要に迫られ、写真を撮らなくてはならなくなった。
それでも、私は写真を簡単なことだと、とらえていた。一眼レフは高機能。きれいなものに向けてシャッターを切ればいい。そう考えた。
ところが、写真から縁遠く生きてきた、私のカメラセンスは酷いものだった。
カメラを借りた日、庭の木が、ちょうど見頃の花を咲かせていた。早速、練習台にとシャッターをきった。
花の裏側しか映らない。高さが足りないのだと、脚立を持ってくる。再度シャッターをきった。
今度は、暗い。まっしろい花なのに、うっすらグレーに見える。光の向きだ。太陽を背に、花にカメラを向けた。
先ほどよりはきれいだが、なんだか満足できない。雑誌やカタログで見る写真とは程遠い。
きれいな写真を撮りたいと図書館に行き、教則本を何冊も借りた。
カメラの持ち方から始まり、レンズの仕組みや、光の原則、構図に至るまで読み込んだ。よしよし、納得できたぞと、実践に入る。
暗い、白い、青い、ピンボケ……。知識と腕は関係ないのかと、肩を落とした。
人目にさらせば、早く腕が上がるだろうと、インスタグラムの投稿も始めた。
お世辞にも上手いとは言えない写真ばかりで、フォロワーのほとんどは知人だ。それでも、見てくれる知人のために、毎日違う写真を投稿しようと決めた。
決めたはいいが、これがなかなか辛い。自宅か近所の写真ばかりでは、とても日々の投稿をまかないきれない。重たいカメラを抱え、山や観光地に足を運ぶことになった。しかし、足を運んだからと言って、いい写真が撮れる腕があるわけではない。山を写しても、雄大ではないし、みずみずしい森の風景も、その良さが写真に現れない。どうしたものかと、出掛けた先で頭をかかえる日々だった。
そんなインスタグラムへの投稿も1ヶ月が過ぎた頃、私の中に小さな変化が訪れた。
実家へ車を走らせている途中のこと。
その日は、写真を撮る予定もなく、カメラも持っていなかったが、気がつくと信号待ちの私は、雲の形をずっと観察していた。
ああ、あの少し雲が薄くなり、後ろから光がこぼれているところ、きれいだな。最後の「きれいだな」はため息交じりの声すら出ていた。
食事に行っても、同じことが起こる。
このトマトソースのパスタは、右側からの光が当たって白いお皿の縁がキラキラしている。キラキラでソースの赤が際立ってきれいだな。
毎日毎日、写真を撮ろうと、きれいなものばかり意識するうちに、私の中に、新しい視点が生まれたのだ。
まるで、おでこに、第三の目がひらくように。
この、おでこの新しい目は、私に、続々ときれいなものを見せ始めた。
庭の雑草に咲く淡いピンクの小花、洗いたての銀色のスプーンにあたる西日、観葉植物に育つライトグリーンの新芽。
どれも今まで、なかったものではない。身近にありふれて存在していたものばかり。私が見ようとしていなかっただけだ。
第三の目は、私の生活を変えた。
毎日の中に、こんなにきれいなものが存在しているなんて私は知らなかった。
大げさかもしれないが、こんなに美しい世界で生きられるなんて、と感謝すら覚える瞬間がある。
そして、第三の目は、私にこう伝える。
特別なことだけが、美しいわけではない。日々の中に、きれいや美しいはたくさん存在しているのだ。と。
もちろん、第三の目がひらいたからと言って、写真がうまくなるわけではない。悲しいことに、私の写真は、相変わらず初心者の域を出ない。
でも、ピンボケ写真を撮りながら、私は今日も美しい毎日を生きている。
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