シュウカツ生だったのです
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記事:のはる(ライティング・ゼミ日曜コース)
大学を卒業して、三年が経った。
それなのに、未だにリクルートスーツを着た就活生を見ると心臓が縮み上がる。
走馬灯のように思い出すのは、大学四年生の頃だ。特に、卒業が間近となった四年生の真冬。
わたしは、遺書を書きながら就活をしていた。
わたしが就活を始めたのは大学三年の冬だった。結果的に一年間も就活をやっていたけれど、その時期まで就活をしていたのは内定をもらえなかった、ということではない。
内定はいくつか取れたけれど、どれも納得できず辞退をしたのだ。中には誰もが知る大手企業の総合職もあった。
決め切れなかった理由はひとつだけ。
やりたいことが別にあった。
編集者、図書館司書、学芸員――他にもいくつかあるけれど、中でも一番は、小説家だった。
これだけはずっと昔からの夢で、人生においての最終目標だ。
小説家は、自分の将来を考えるとき、常に頭にあるものだった。
ならば、小説家になるための努力をすればいい。けれど夢みると同時に、その頃のわたしは諦めていた。自分には無理だと。
その癖、大学は文学部の国文学学科を選んだ。それ以外を考えなかった。関わり方に違いはあれど、少しでも小説や文学に近いところにいたかったから。
就活もそうやって始めた。小説家にはなれないから、せめて近い分野で働きたい。
選んだ業界は出版、印刷、文具。どれも、ことごとく落とされた。そうして夏になった。
これではいつまで経っても就活が終わらない、業界を広げないといけない。慌てたように別の業界の研究を始めた。付け焼き刃の知識で選考を受けては落とされるわたしを尻目に、周りはどんどん就活を終えていった。それがさらにわたしを焦らせた。
自分の軸があやふやになっていく中で、気がつけば夏が終わり秋も過ぎて、冬になっていた。
季節がいくつ変わっても、ずっと頭の中で回り続けることがあった。
「小説家になりたい。でもわたしには無理だから、企業に勤めないといけない。働かないといけない。自立しなくてはならない。きちんとした大人にならなくてはならない。
だって、わたしは小説家になれないから」
それなのに、内定を蹴り飛ばしては就活を続ける。納得がいかないからと言って。
小説家になるための努力をせず、ただ頭の中で空想を描くだけの自分に吐き気がした。
諦めているのに諦めきれずに、縋っている自分が惨めでしかたなかった。
真冬の寒さも相まって、わたしの気持ちはどんどんふさぎ込んでいった。独りで号泣した夜は数えきれない。
「どこに行ってもしんどいなら、生きていたって仕方がないんじゃないか」
これが頭の中で、延々と回り続けていた。
だから遺書を書いた。
宛名を変えて、内容を変えて。何度も何度も。時には宛先の人間への感謝を綴り、時には罵詈雑言を書き殴った。
そうやって、消えてしまいたい気持ちを外に逃していた。なんとか現実と向き合おうともがいていたのだ。
スマホのメモ帳には、未だにその頃の遺書が残っている。痛々しくて、とても読み返せない。でも消そうとは思わない。ボロボロだったあの頃を否定したくない。
遺書を書くことは、あの頃のわたしにとっては精神を安定させるために必要不可欠だったのだから。
その後、小説にも文学にも全く関係ない民間企業へなんとか就職を決めたけれど、二年も経たずに辞めてしまった。
今は、母校の大学院へと進学して日々を文学研究に費やしている。自分の本当にやりたい方向を目指すためには専門的な勉強と資格が必要だから。
――と、言ってはいるけれど、結局は色んなことへの逃げなのかもしれない。
けれども、他人が何を言おうと関係ない。この選択を全く後悔していないし、充実した毎日を過ごせている。周囲の理解も援助あった。わたしはとても恵まれている。
この決断ができたのは、あの頃必死で就活をしたからだ。
本当にやりたいことと現実のギャップに打ちひしがれて、遺書を書きながらも、自分を無理やり納得させようと苦しんでいたあの頃の自分の。
多分、これから進もうとしている方向は厳しいことがたくさん溢れている。あの頃とは比べものにならないくらい、しんどいと分かっている。
でも、なんとなく、大丈夫な気がしている。わたしなら乗り越えられると前向きになれているのだ。
だって、わたしにはあの頃書いたいくつもの遺書がある。
それらは、あの辛い頃の象徴ではない。その時期をそうして乗り切った証拠だから。
あの遺書は、わたしにとっては永遠にお守りだ。
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