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コージノウキノウショウガイをご存知ですか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松尾 美紀(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
あれから2年経った。
 
「もしもし、Kさんのお姉さんでいらっしゃいますか?」
とGW中旬に入った1本の電話。
弟の自宅のある警察署からの電話だった。
 
弟は夜中にひとりで救急車を呼び、救急医療に運ばれて、緊急手術を受けた。
病院側から警察署へ、家族に連絡を取ってほしいとの依頼があったようだ。
巡り巡って、姉であるワタシに連絡が入った。
主人はキャンプ場へ行っていた。
ワタシは数日前に遭った追突事故のせいで、自宅にひきこもっていた。
だから、自宅兼用事務所にかかってきた電話に出ることができた。
 
クモ膜下出血だった。
破裂した脳動脈瘤をクリッピング手術した。
1ヶ月後に、未破裂動脈瘤を同じくクリッピング手術した。
 
そこから2年。
あっという間だった。
 
弟は、高次脳機能障害という見えない障害を負った。
脳疾患や交通事故などで脳を損傷した人がなる障害である。
 
脳神経外科の担当医から
「コージノウキノウショウガイにはなります」
と説明を受けたときに、カタカナでしか思い浮かべなかったくらいに、知識がなかった。
 
バックアップを取り忘れた壊れかけのパソコンを思い浮かべてほしい。
セーフモードで立ち上げて、バックアップを取るにも、すべてのデータを救うことはできなかった。
新しいパソコンに救ったデータを入れるも不完全だ。
新たなデータを入力しても、不完全なデータがあるため、動作が鈍いこともある。
 
人の脳とパソコンは、同じではないが、高次脳機能障害はこんな症状である。
 
歯科医師である弟の頭の中には、歯科医師としての知識がまだらに見え隠れする。
まだリハビリのために入院中だったころ、外出許可をもらい、自身の歯科医院で、被せ物が取れて穴が空いたままの主人の歯に、薬を詰めさせた。
右手の麻痺が少し残っていたので、薬は数時間後に取れたが、詰めるべき薬は正解だった。
 
歯科医師としてのリハビリも兼ねて、退院後は歯科医院の下働きをしている。
ときどきワタシの歯がいけにえとなる。
新たに被せ物を作らせたり、歯のお掃除をさせるが、途中の工程が抜けることがある。
スタッフのサポートで飛ばした工程に戻ることはできるのだが……。
 
もちろん、その他の知識もまだらのままだ。
 
退院後、自宅でリハビリをつづけている。
ひとり暮らしではあるが、目の前がスーパーという好立地なため、母や私がごはんを作れないときは、スーパーで買ってくる食生活である。
ゴミの整理をしていて、カップ焼きそばのゴミが多いことに気がついた。
弟は左脳の損傷だったので、言葉と数字がごっそり抜けていた。
時間も数字である。
お湯を入れてから時間をはかるのに、どうしているのか?
タイマーを使っている様子はない。
「スマホでタイマー出してみて」
と言ってもできない。
はて?
だが、ちゃんと食べている。
多分、最初は麺が固かったり、柔らかだったりしたのであろう。
無類の焼きそば好きなので、何度も失敗を繰り返して、自分なりに美味しく食べられる方法を確立したのだろう。
一度、目の前でカップ焼きそばを作らせたいとは思っているが……。
 
脳のどこを損傷したかで、障害の出方や程度が違ってくる。
だからリハビリはオーダーメイドだ。
 
それぞれの『高次脳機能障害』にあった洋服を作っていく。
わがままなお客さんも多いので、日によって、注文が違うし、太ったり、痩せたりを繰り返すので、作り手は四苦八苦だ。
どこか一カ所でもピタッと合えば、お客さんも作り手も笑顔になる。
そうやって少しづつ、ていねいに作っていく。
 
しかし、これは理想論だ。
現実はツギハギだらけの洋服にしかならないだろう。
数カ所はプロが作りあげてくれるから、キレイな仕上がりとなるが、他は素人に毛が生えた程度の洋服屋が作ることとなる。
凸凹したブサイクな洋服だろう。
 
作り手の時間には限りがある。
24時間すべてをそのお客さんに当てるわけにはいかない。
他にも大切なお客さんがいるし、作り手自身の時間もほしい。
 
「コレは仕事だ!」と割り切って、洋服を作りあげられれば良いのかもしれない。
 
『高次脳機能障害』の洋服屋は苦悩しつづける。
ハサミを入れて切り刻もうか!?
一から作り直そうか!?
それとも……。
でも作りつづければ、きっとカタチは見えてくる。
お客さんの大きな協力が得られれば、そのカタチは佳作となるだろう。
 
洋服屋稼業3年目に突入したワタシ。
 
洋服の仕上がりが想像できずだが、素人に毛が生えた程度だった2年前に比べれば、上達しているはずだ。
 
でも試行錯誤しすぎて、何度もデザインしては破りを繰り返し、まだデザインをおこしている段階だ。
アバンギャルドなデザインがいいのか?
コンサバなデザインがいいのか?
お客さんである弟とともに、毎日喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだりして、ステキなデザインの洋服を作りあげよう。
 
 
 
 
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2019-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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