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父の代行業


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松尾 美紀(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ミョンミョンと伸びた雑草たちが生い茂る柿畑とそこに続く竹林を目の当たりにして、あららっ。
 
4月中旬に、知人から
「(君の実家の竹林の)タケノコ堀りに行きたいんだけど」
「40本、50本ぐらいすぐ掘るぞ!」
と言われて、母に伝えると
「草ボーボーだから、恥ずかしい」
との返事。
知人には
「雑草だらけなんですって。来年は、いっぱい掘ってもらえるようにするから」
とあやまって、母が掘ってきたタケノコを渡した。
 
1年ちょっと前には、雑草もさほど伸びておらず、草刈りをする必要性を感じていなかった。
 
父が亡くなって1年半。
 
亡くなる3ヶ月ぐらい前から、畑の手入れはできていなかったはずだ。
枝が伸び放題だった梅畑は、シルバー人材センターさんにお願いしたが、柿畑と竹林は放置だった。
 
ご近所迷惑になるし……。
 
早々に重い腰をあげようとしたが、父が愛用していたエンジン式草刈機は使える気がしなかった。
定期的に草刈りは必要だし、オンナにも使えこなせるであろう充電式草刈機を新たに購入した。
お天気が良い予報だった日曜に第一回草刈り決行となった。
 
充電式とはいえ、草刈機なんて使ったことがなく、どう扱っていいのやら!? 状態のまま、始動。
なんとなくこんな感じ? と約50分ノンストップ草刈りするも、何かが違う。
休憩をはさんで、さらに約50分。
あっ! こうだ! とコツをつかんだころ、雨がポツポツと降ってきた。
雨の予報なんてなかったのに。
 
柿畑の3分の2しかできなかった。
前半は、あまりきちんとできてなさそうだ。
竹林には足も踏み入れていない。
先は長い。
 
柿畑のところどころに、柑橘類の樹木が植えてあった。
まだ実をつけるほど大きくなっていないものがほとんどだ。
父は柑橘類が大好きだった。
いろいろと食べたかったんだね。
だが、草刈り中に1本だけ切ってしまった。
それだけが、樹木全体にカイガラムシがついていたので
「切ってもいいぞ!」
と空から父が命令したのかもしれないが、切ってしまった直後は
「ゲッ!!」
と青ざめた。
実はこの後から、草刈りのコツがわかりだした。
「思い切りが足らんからだ」
と空から父の声が飛んだのだろう。
 
そして、ビュンビュンと快調に草刈機をふっていたら、生い茂った雑草のところどころから、ネギやワケギがニョキニョキ伸びているのに気がついた。
ネギ坊主になっていたので、雑草と一緒に刈った。
よく見ると、ウネが造ってあった。
父は生前にココで野菜も作っていたのだと知った。
ネギやワケギ以外に何を作っていたのだろう?
 
小さな耕運機を買ったって言ってたなあ。
質実剛健な公務員時代は農業の指導もしていたんだよね。
退職後は寄せ植え教室にも通ってたなあ。
梅畑に廃材でBBQ小屋を造ってくれて、皆で遊んだね。
晩年はお百姓仕事だけが、父の楽しみだったんだ。
 
リズミカルに草刈りをしながら、生前の父のことをいろいろと思い出した。
 
人は亡くなる直前に自らの仕事としていたことを、残ったものたちにどうつなげていくのだろうか?
父の場合、晩年はお百姓仕事のみとなっていたが、これはつなげるべき大切な仕事だ。
実は様々な不幸が積み重なって、父とワタシたち子どものキズナは絶たれていたが、自然と共存するお百姓仕事にそんなことは通じない。
草は生えるし、枝は伸びる。
自然は正直だ。
それらを上手く手入れして、なったものをありがたくいただく。
それが亡くなった父とのキズナを再び作りあげていくツテとなるはずだ。
畑のところどころに散りばめてある父の言葉をひろい集めていこう。
 
お百姓仕事なんてしたことないけれど、ひろい集めた父の言葉をワタシなりに上手くつなぎ合わせていけば、何らかのカタチにはできるはずだ。
 
家に帰って、ホッとしたら、腰をほんの少し痛めていたことに気がついた。
父はきっと慣れていたから、ワタシみたいに腰を痛めることはなかったのだろう。
翌朝、両腕が筋肉痛となっていた。
なんて、ひ弱なんだろう。
どこで打ったのか、右ふとももには、大きな青あざができていた。
「ミキは、やっぱりアカンな」
と苦笑している父の顔が思い浮かんだ。
 
「ある意味、筋トレだね」
と後日、知人と笑いあった。
「草刈り筋トレが効果あるようだったら、皆でやろう!」
「皆でやったら、あっという間に終わるやん」
「それだけの草刈機ないし」
「最終的にはカマ片手に、中腰でザクザクか!?」
とバカ話で盛りあがった。
 
第二回草刈りは、梅雨入り前までには終わらせよう。
父の足跡を手繰りながら……。
 
去年は手入れをお願いした梅畑も、今年は下草の借り入れさえしていない。
そう言えば、栗畑もあるんだった。
そちらの手入れもしないとなあ。
「ミキがいるから、良かった」
と父に言ってもらえるのは、いつのことやら。
 
父の代行業は延々と続く。
 
 
 
 
***
 
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2019-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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