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メディアグランプリ

時間とお金から解放してくれるもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【6月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:タンツ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「時間とお金がほしい……」
友人や知人、家族、誰と話していても、最近口から出て来るのはこの言葉が多い。
転職先の仕事が、目が回るほど忙しいのが原因だろう。
 
月収が一見、他の会社より高そうに見え、応募したこの会社。
ストイックな研修も乗り越え就職することができた。しかし、実際の仕事を行う前に、この職は莫大な研究が必要だった。時給の割合が高そうでも、実際の準備期間を合わせたら、どう考えてもかなりの低賃金だと思う。
 
こんな大変な状況の中で、趣味のダンスからもここ最近遠のいていた。踊っている時間があれば、仕事の準備をしなければいけなかった。なにせ、準備は夜中の一時まで取り組んでも、終わらないのだから。そして、月収も前職に比べたらかなり下がったため、支出を考えたら、好きにお金が使える状況でもなかった。夢に出て来るのは、お金からも時間からも自由だった、満たされた学生時代のものばかり。空っぽな現在を生きる中で書けるライティング記事も限られてきて、最近の記事は昔の話題が多かった。脳内の天気は長期間、くもりが続いていた。
 
ある日、大好きなダンスの一つである「タンゴ」のレッスンを受けないかという誘いを、色々とお世話になっているT氏から頂いた。
「プライベートレッスン、久しぶりに受けてレベルアップしよう」
「受けたいです、もちろん! でも、時間もお金も全くないんです。今」
「だからこそ、おいでよ。レッスン代は僕が出します」
「え?」
 
時間がないから、レッスンに行く?
とても意外ではないか。
かなり高額なレッスン代を出して頂けるのは、非常に有難いが。
貴重な機会だから、参加する事にした。プライベートレッスンでは、世界的にも有名な先生が、たった二人に向けて集中的にレッスンして下さるのだから。
 
午前も仕事の研究準備に追われ、もはや化粧をする時間すら取れない。眉毛以外はスッピンという状態でレッスンに行ったから、先生やT氏にも、いかに私が疲れ切っているかはよく分かったはずだろう。
それでも彼らは一応聞いてくれた。
「元気?」
私は、即座に答えた。
「最悪」
二人は爆笑した。
「今日のレッスンで、少しは楽しんで発散してね」
アルゼンチン人の先生もT氏も、本当に優しい。
こうして、一か月ぶりのプライベートレッスンは始まった。ストレス発散したいと私が思っているのを意識してくれたのか、アップテンポの曲に合わせてのステップがその日の課題となった。
 
そのステップは細やかで、踏んでいるだけでも、とても楽しい。
そこに音楽が入る。音楽が入る前のステップは、ただ細やかで楽しいだけだが、音楽が加わる事で、そこに優雅さと色が加えられる。
まるでモノトーンがカラーになって行く瞬間のように。
 
楽しくノリよくステップを踏んでいると、先生から
「ダーリン、顔の向き! ひざ! 軸足!」
と色々な注意が飛んで来る。一つの動作だけで、6つ位注意するべき所があるのだ。6つのことを同時に気をつけて踊るのは、相当な集中力がいる。まさに、脳トレだ。
しかし、こうしてタンゴの脳トレをしている私は、最近いつも頭から離れない仕事の研究準備から完全に解放されていた。
 
「そう! よくなったよ、君達。いい?  音楽がいくら早いものでも、音楽にパニックにならないで。早い音楽の中でも落ち着きを持って、楽しんでほしいんだ。必死にならない方が結果、楽しく踊れるんだよ」
 
そんな先生のテクニック的でありながら総合的なアドバイスを聞き、最後には一曲通して、教えてもらったステップを織り交ぜて踊る。
 
誘って下さったT氏はテクニックも音楽性もとてもしっかりされた方だが、そんなT氏でも、アップテンポの曲は曲に操られている所もあったようだ。私は全く気付かなかったが、世界選手権で上位に入賞しているプロの先生には、細かい所まで分かるようだ。しかし最後の曲では、T氏のいつもの様な瞬発力は影をひそめ、とても滑らかなのだ。そんな滑らかなリードの中、私も音楽に操られるのではなく、音楽を操っている感覚になっていく。カラーになった絵に更に陰影が加えられていくように、気持ちよくなっていく。
 
「これだ!」
踊りながら、何かがひらめいた。音楽を感じ、操った後の気持ちは、心から爽快だった。先生は
「よかった!  かなり上達したよ、Tも君も」
と手放しで、褒めてくれた。こうしてこの日のプライベートレッスンも、とても気持ちよく終えることができた。
 
手応えをつかんだと喜ぶT氏は、私をランチに連れて行ってくれた。私も私で、上機嫌だった。
「来てよかったでしょう?」
「本当に!  もっと操ろうって、思えました」
「操る?  何を?」
「時間とか、仕事とか、です。今日のタンゴで最初、音楽に操られてたのに、最後に少しは、音楽を操ることができて……。音楽みたいに、もっと時間や仕事も操っていこうって、思えました」
 
タンゴのレッスンで集中の域に入って、音楽を操れた自分がいた。対して仕事や時間は集中していなかったから、操られていた。でももし、もっと集中していたら?
答えは少しでも、変わっただろう。
 
タンゴの様に、仕事の取り組み方や時間やお金の使い方を教えてくれる先生は、残念ながら近くにいない。でも自分自身が先生になって、時間やお金にパニックになるのは、やめるようにしたらいい。そしたら仕事ももっと集中して、何事も操られる側から操る側へと変わっていけるはず。まだ答えが見つからない、お金の操り方を見つける時間もまた、集中力で生み出そう。そう決心すると久しぶりに、私の脳内にも太陽の光が差し込んだような気がした。
 
時間もお金も全くないからこそ、レッスンにおいでと誘ってくれたT氏の発言の意味が、少しは理解できた気がした。そんな恩人T氏と、貴重な発見満載のレッスンをしてくれる先生に心から感謝しながら、美味しい蕎麦を食べている私の表情は、力みのとれた自然な笑顔だった。
 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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