メディアグランプリ

怒りのキャンドルで癒されて。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:榊麻代(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
怒るのはよくないよね。
血圧が上がるし、眉間にシワよっちゃうし。
子供に対してだったら、一歩間違えたら虐待になっちゃうし。
殺人だって起こってしまう。人を殴っちゃう。
嫌な感情がわーーーって、心を乱暴に支配する。
怒りという感情には全くいい点が見えない。
 
でも……
ある日……
私は見てしまったんだなー。
 
胸を思わず押さえてしまうような苦しい感情。
生きていくのさえ嫌になってしまうそんな感情。
それは悲しみだ。
深い深い悲しみ、鬱になるような悲しみ。
前を向くことも、前に進むこともできなくなってしまう悲しみ。
がんじがらめになって、気がつくと朝が来て夜になっている。
今が朝なのか夜なのか、それもわからなくなってしまう。
そんなどん底で苦しんでいる彼女を助けてくれたものを私は見てしまった。
それは、一見すると、いいところが全くなさそうな、怒りという感情だった。
 
ある日、彼女の最愛の母が突然亡くなってしまった。
彼女の大好きな母。
仲のよい親子。いつも目をあわせてクスクス笑っていた彼女と母。
こんな別れ方があるのだろうかと誰もが思った突然の出来事だった。
彼女を襲ったこの悲しみは深すぎて、彼女はうまく自分の感情をコントロールする事ができなくなってしまった。
彼女は仕事も手につかなくなった。
横断歩道もちゃんと渡れない。
毎日会社に来れるのが不思議でさえあった。
話していてもうわの空。
顔の筋肉がゆるんで下がってしまってるようにも見える。
またその顔に、感情が現れることはなくなってしまった。
彼女の母がそばまで迎えにきているかのような不思議な空気が彼女を取り巻く。
食事に行こうが、話そうが、彼女の足は地につくことはなかった。
まるで、魂が抜けてしまったよう……
フワフワ浮いている彼女。
 
どうしたらいいのだろう……
見守ることしかできないのか?
突然の別れはあまりにも衝撃が大きすぎて、彼女の細かな感情さえも全て奪ってしまったみたいに見える。
彼女にまるで蓋をしてしまったような?
分厚いボトルの中に感情を押し込んでしまったような、不自然で不透明な彼女。
そのボトルに色がついていて、今では中身も見えない感じがする。
 
どうしたらいいのだろう……
周りの誰もが同じことを考えていたと思う。
心配。
大丈夫?
ねぇねぇ、大丈夫?
何か言ってよ。私たちはここにいるんだよ。
あなたの横に。
辛かったよね、わかるよ。
でもしっかりしないと、このままじゃ、交通事故にあっちゃうよ?
 
そんなある日、彼女の携帯がなった。
無表情で受ける彼女。
無表情は続く。
ああ。とか、うん。とか答えている。
と、その時、突然、スイッチがはいった。
カチッと電気のスイッチを入れるようにはいったのだ。
みるみるうちに彼女は赤くなったり、青くなったり、信号のように点滅しはじめた。
チカチカ。
チカチカ。
なんの色もなくなって、半透明だった彼女に色を染めたみたいに。
 
え??
どうしたの??
よく事情がわからない私たち。
 
見守る中、彼女の蓋があいた!
突然。
パカって。
音がしたような気さえした。
 
みんなが注目する中で、
ボトルの中からでてきたのは、なんと、怒りだった。
色でいえば、火山のように真っ赤な怒りだった。
 
どうやら、電話の相手と喧嘩をしているらしい。
彼女が怒鳴る。
彼女の声がどんどん高くなる。
手に握りこぶしを作って振り回して、見えない相手に訴えている。
涙があふれてきた。
いわゆる激怒だね。
噴火だ。
久しぶりにこんな彼女の声を聞いた。
 
そして、携帯を彼女が切ったとたん、彼女の足が地面にしっかりついて、彼女が戻ってきた。空をふわふわ飛びそうだった彼女がしっかりと歩き出した。
 
もぅー嫌になっちゃう。
お? 聞いてないのに、彼女が説明しはじめた。
また、泣き出しそうだ。
どうやら、兄弟喧嘩らしい。
お金の話かな?
そりゃ怒るね、亡くなったばかりでお金の話じゃね。
 
説明を続ける彼女の顔に血の気がもどってきて、目がしっかりと前をむいた。
この瞬間から、彼女はいつもの彼女に戻った。
美しい彼女の顔のパーツ1つ1つが動きだした。
 
おかえり!
 
怒りはとても強い爆発的な感情だと思う。
ブルブル震えてしまうような強い感情。
なぜ私たちはそんな感情をもって生まれてきてしまったのだろう。
負のエネルギーを強くしてしまうような、この押さえつけるのが難しい暴れまくる感情。
 
でも、今回の出来事で、私は怒りという感情は人間へのプレゼントなのではと思いはじめた。
なんていうか、感情を一時的にリセットできるカンフル剤的なもの?
私たちを死に一気に近づけてしまうほどの強い悲しみの感情を一掃できる強い感情は、この怒りの感情だけではないだろうか。
まるで、追い込まれて、行くところがなくなってしまった私たちに、一時的な避難所を作ってくれるような。怒りという感情に愛情がわいた。
私は思った。私たちの身体に無駄はないのだ。
 
もちろん、怒りは自分の力でいつかは消去、消化しないとダメだと思う。
怒りにつつまれた人生に喜びは訪れないし、何も生まれないと思うから。
ほら、眉間にシワが深く刻まれちゃうしね。
 
一生懸命考えて、前に進もうと望めば、怒りという感情は案外消すことができる感情なのではないかと思う。
もし、この怒りという炎を消すことができたなら、怒りによって隠れてしまった悲しみも炎と一緒に、消えてしまっているのではないかと思う。
悲しみの深い穴から抜け出すには、時には、長い時間が必要だと思う。
怒りが悲しみを癒す時間も作ってくれたのだ。
 
キャンドルの火が私たちの心を癒すように、怒りの火も私たちを癒す手伝いをしてくれるのではないかと思うのです。キャンドルの火を消すように、怒りを静めることに成功したならば、そこに立っているのは、1つ、人として成長した私。癒されて自分を見つめることができるようになった私。怒りも悲しみもまるごと、自分を愛することができるようになった私だと思うのです。
 
もう1度繰り返します。
私たちの体に何1つ無駄はないのです。
 
 
 
 
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2019-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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