メディアグランプリ

カーナビと人間関係を楽しむ方法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:天草野黒猫(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ある日のことだった。
「もうちょっと早くいってよ!」 私は叫んでいた。
それは気持ちの良い海岸線を走っているドライブ中。車内は1人。え? 誰と話しているのかって。よくあることだけど、私はカーナビと会話をしていた。
 
私はよくカーナビと食い違う。
もう少し早く教えてくれれば。え?北東ってどっち? そして、時々とんでもない細い道や見知らぬ場所に連れて行かれる。でも無いと困るし。
 
ああ、苦手だな……カーナビ。
 
しかし、その日はふと思った。あれ?この言葉同じようにどこかで叫んだはず。そうだ。何か月か前、たしか会社だ。
 
その日、お昼のランチも食べ終わり席に戻って、ほっと一息。コーヒーを一口飲んだ時に課長の声がした。「この前の会議でミーティングの場所、変更になったから手配よろしく。」とっさに「はい。承知しました」と答えていた。
 
そしてふと課長の背を見つめながら、心の中でつぶやく。
「会議って先週の会議? おととい手配は終わったのに」
「もうちょっと早くいってほしかったなぁ」
 
よくある社内のやりとり。心のつぶやき。確かにミーティングは1週間先だ。時間はある。3ケ月に一度の社外でのミーティング。課長にとっては、まだだいぶ先の話だった。しかし、早めに準備をしていた私にとっては、間近な予定。そして二度手間な作業。
 
少し準備が早かったかな。
元来のんびり屋な私は、仕事だけは人様に迷惑をかけないようにと早めに計画を心がけている。というのも学生時代から、夏休みの宿題は最終日タイプ。毎年、今年こそはと思いながらも、恒例の最終日にたっぷり残っている癖が治らなかった。しかし、今回はそれが裏目に出たのだ。
 
課長と私、時間のものさしが違っていた。
 
そう。ものさし。ものさしは、やっかいだ!
誰もがそれぞれの色々なものさしを持っている。それは時間だけではきっとない。好きな物、嫌いな物、大切にしていること。どうでもいいこと。そのものさしは、近いほど気持ちいい。よく言う、ペースや価値観というものだろう。
 
そのペースは誰もがもっているけれど、同じではない。
 
男女でも違うし、立場でも違う。ことに、最近ではさまざまな家族形態がある。独身の人、子供がいる人。結婚はしているけれど、子供がいない人。年をとって1人暮らしの人もいれば、孫に囲まれた大家族の人もいる。生きている場所でも、ものさしは違ってくる。
 
例えば今日の、カーナビの「その先右方向です」の言葉。
その先がどの先なのか、1つ目の角なのか2つ目の角なのか。私とカーナビのものさしは、あきらかに違っていた。
 
その上、北東に曲がるようになど言われるとさっぱり解らなくなる。上下左右は理解できても、東西南北はお手上げだ。方位を瞬時に上下左右に置き換えられず、頭が真っ白になってしまう。
 
あれは忘れもしない。カーナビの誘導で、大分県椎葉村の山奥に連れていかれた時。人通りもない細い山道。夕暮れせまる中で「その先、北東です」と誘導された、カーナビのみょうに明るい声。「お願いだから、斜め右とか言ってください」と、泣きそうになりながら懇願していた。
 
しかし、ドライブのたびに利用していると、少しずつこのカーナビの距離もつかめてくる。はいはい。あなたの「その先」は50メートルくらいね。1つ目の角なのねと。
 
すると、最初は気の合わなかったカーナビとぴったり合った瞬間などは、快感すら覚えてくる。余裕で鼻歌まで歌ってドライブだ。カーナビが苦手っていう人の気がしれない。誰?そんなこと言う人。ついには過去の自分は忘却の彼方へ行ってしまう。
 
もちろん相手は機械。カーナビが私に併せてくれることも、変わってくれることもない。だんだんとその距離感や表現方法を理解し私が合わせていければ、とても助かる相棒。なにより、間違った道に進んでも、必ず目的地まで届けてくれるしね。
 
それに、たとえ間違ったとしても「こんな所に、こんなお店があったのか」と新たな発見も意外と多い。次回の目的地が、遠回りしたあの場所へという事も案外ある。ワンパターンになりがちな、私の道にこれまでは無かった風景やお店をプラスしてくれる。
 
そういえば、この前のミーティング場所の変更も後で役にたった。数か月後、再度その場所を利用することになったからだ。調べておいた周辺のランチ情報や、地図も再利用ができた。
 
そうだ!人間関係も、ものさしは違っても時間を共有する間に相手の目盛りが図れてくるものかもしれない。それに、たとえ失敗しても遠回りで新しい何かを発見することもきっとある。
 
そんなことをつらつら考えて運転していたら、「その先、左方向です」と、またカーナビの声。はいはい、左方向ですね。
 
あ! しまった。また曲がる角を間違えた……おっ、カーナビがルートを自動修正してくれた。ふふ、相手も私に併せてくれているってことだ。持ちつ持たれつ、ドライブは楽しい。
 
 
 
 
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2019-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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