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リアルの体験には、「ディグる」楽しみがある


記事:*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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山谷里緒(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「見つけた!!」
私は思わずにんまりする。
どの店を探してもなかなか見つからなかった、レア物の中古レコードをついに見つけたのだ。
それは、70年代イギリスで起こったムーブメント「パンク」の先駆けとなる音源。
店内の山のようなレコードの中から「見つけて」と呼ばれた気がしてついに探し当てた。
 
当時の私は大学という魅惑のモラトリアム期間を満喫中。
お金はないけど時間はうなるほどあったので、毎日のようにレコード店にせっせと足しげく通っていた。
 
「大学なんて、就職予備校みたいなもんじゃない? どうせ。就職して何をしたいわけでもないし」
音楽が好きだった私はバンドサークルに誘われて入ってはみたものの、聴く専門だったため一向に楽器は上手くもならない。楽しくない。
何をしに大学に来たんだっけ? 完全に見えなくなっていた。
 
そんな時に店内で見つけた「バイト募集中」の貼り紙。
この魅惑のモラトリアムを、新卒という就活最強のカードを、あっさり捨てる決意をした。
中学生の時から通い詰めていた、行きつけのレコード屋。
店員ともすっかり仲が良くなっていて、いつもおすすめのレコードを買っていたなじみの場所だ。採用条件は音楽が好きであること。そして、フリーターであること。
 
「学生NGっていう条件だったら、そりゃ大学辞めるしかないよね! 滅多に募集しないんだから」
親は怒りを通り越して悲しんでいたが(両親に今なら申し訳なく思う)、レコード屋で働きたい! という熱意というか荒ぶる感情を抑えきれなった私に、仕方なく、大学中退を許すことになる。
 
針を落とすたびに鳴る、ぷつぷつとかすれた音。
アナログの一発録音だからこそ伝わる、シンプルな音楽への愛情と熱量。
大きなジャケットは、アーティストこだわりのアートワーク。
A面だけじゃなくて、B面もいい曲が多いんだよね。
だからレコードが大好きなのだ。
 
毎日レコードの山に囲まれて過ごす日々は、まさに至福だった。
お客さんが、宝物を探すように、目をキラキラさせてレコードを眺めているのを見るのが好きだった。自分のおすすめをお客さんが買ってくれた時なんて、特に嬉しかった。
 
ここで働いていた時間はまさに夢のようだった。(結局ホコリアレルギーを発症して、辞めざるを得なくなってしまう。中古レコードは大量のホコリとの戦いだ)
 
今なら音楽はスマホで聞く人が多いだろう。
かくいう私も、月額1000円の音楽聴き放題サービスに加入している。
今流行りの音楽はいち早く聴けるし、視聴履歴をもとに「あなたへのおススメ」なんてプレイリストを勝手に作ってくれたりする。
しかも、これがなかなかの精度で、ガッチリ好みを突いてくるのだ!
新しく知ったアーティストをどんどん「お気に入り」に追加する。
 
好きなアーティストでまだ聴いていなかったアルバムも月額料金さえ払っていれば、探し放題、聴き放題。もう音楽好きにはたまらないサービスなのだ。
さらには無料のアプリもあり、最近の10代は音楽=無料という図式が当然らしい。
 
レコードが過去の遺物となるのも、CDが売れなくなるのも、レンタルされなくなるのも、分かる。現代人は「いつでも、どこでも、いくらでも」が当たり前なのだ。
 
でも、だからこそ、今の時代だからこそ、私は時間を作って敢えてお店に行ってみる。
レコードは「探す」ではなく「掘る」という。
英語で「掘る」はdig(ディグ)なので、レコード業界では、探すことを「ディグる」と言う。
 
なぜ「掘る」なのか。
 
それは、数あるレコードの山から一枚一枚、ジャケットを見ながら、お気に入りを探していく様子が、「少しずつ掘っていくよう」な感覚なんだとも思うし、
または、「掘り出し物市」的な、お宝を探し当てるという意味もあると思う。
苦労して見つけた一枚は、宝物になる。
 
リアルの体験には「掘る」楽しさがある。
 
レコード屋に限らず、例えば本屋でも。
Amazonは「あなたへのおススメ」を提示してくれるだろう。
お目当ての本が決まっていれば、それはとても便利なんだと思う。
新しい発見もあるかもしれない。
 
でも本屋に行くと、店内の雰囲気、本の匂い、陳列方法、手書きのおススメのコメントなど、独特の空気感に包まれる。一冊一冊手に取って、ビビッとくるかどうかを肌で感じることができる。
本が「私を読んで!!」そう叫んでいるかのように。そうして吸い込まれるように手に取るのだ。
 
リアルの店舗にわざわざ足を運ぶのは面倒かもしれない。
商品もポチっとすれば翌日には自宅に届く利便性には劣るのは仕方ない。
それでも「掘る」体験はリアルにしかない。
 
「掘る」楽しみは時間がかかる。
出会えないかもしれない。
無駄な時間を過ごすことになるかもしれない。
忙しい時代には取り残されていくのかもしれない。
 
でも出会えた時はまさに宝物を見つけたようにキラキラする。
大事に取っておきたくなるし、何度でも聴きかえしたり、読み返したりする。
オススメはAIにとって変わられたとしても、自ら掘りにいった先の出会いはきっとリアルな場所にしかないと思う。店員さんに勧められて買った物が大当たりだった時、それは思い出となり刻み込まれる。
だから、そんな体験を作れるお店は何年たっても無くならないと信じている。
 
自分なりの「ディグ」をしに、少しゆっくり面倒なことをしてみると、
もしかしたらワクワクするような出会いが待っているかもしれない。
リアルの体験はディグる楽しみがあるのだ。
 
 
 
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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