メディアグランプリ

「その瞬間」は、突然現れる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中野ヤスイチ(ライティング・ゼミ日曜日コース)
 
 
「お父さん、オマル買って、お願い!」
と3歳児の息子が真剣な眼差しで、訴えてきた。
 
「え、オマル欲しいの!?」と聞き直してしまった。
「うん、オマル買って! お願い!」と何度も何度も息子が言う。
 
嫁からも買ってあげて、まだオムツが外れなくて困っているの、買ってあげたら
お兄ちゃんパンツを履けるようになるから、と言われて、買うことにした。
 
息子もお兄ちゃんパンツを履きたいから、欲しがっているのだろうか、
僕にはわからなかった……。
 
休みの日に、息子から「今日、オマル買いに行くって、約束したよ」と言われたので、
3歳児の記憶力の凄さに驚かされつつも、嫁と一緒に3人で買いに行く事にした。
 
お店について、すぐに「オマル」を見つける事ができた。
 
「勝手なイメージだけど、オマルって、アヒルさんじゃないの!?」と僕が嫁に言ったら、
「昔はね、今はもっとシンプルなのがあるの、安いのでいいのよ」と淡々と言葉が返ってきた。
 
500円くらいの青色の小さな底のある胴長の丸い便器で、シンプルに用を足すだけのモノを買った。
 
家に帰って、息子が嬉しそうに「オマル」をトイレに設置した。
 
「オマル」の出番は意外と早くに訪れた、息子が手で急所を抑えながら、
「トイレ、トイレ」と叫び始めたのである。
 
嫁と息子は、急いでトイレに直行、「オマル」に用を足す事ができた。
息子も大喜びで、「できた、できた」と笑顔全開でわざわざ僕の所まで足って報告しに来てくれた。
 
これで、オムツ卒業かなと思ったら、そんなに甘くなかった……。
 
次の日の朝、いつものように用を足す時間が息子に訪れた。
 
嫁と二人で、「よし、トイレだ」と言ったら、
「行かない、行けない……」と息子がそこで用を足してしまった。
 
「しょうがないな、徐々にオマルで、できるようになるだろう」と嫁と一緒に言っていたのも束の間で、すぐにオマルでしなくなってしまった。
 
「お父さん、オマル買って」と真剣な眼差しで訴えてきた息子はどこに行ったのだろうか……。もう、「オマル」に飽きてしまったらしく、その日以降はオマルの出番は無くなってしまった。
 
「そろそろ、プール開きがあるのに、オムツのままで大丈夫かな!?」と妻が心配そうな顔して、オムツの処理をしながら、言ってきた。
 
「そうなの!? まあ、その時になったら、大丈夫じゃないかな」と適当に返事をしてしまい、妻の顔は少し怒っているようにも見えた。
 
その日を栄に、息子のオムツはいつ外れるのか問題が明るみになった。
 
「幼稚園に行って帰って来た後なんけど、オムツ交換もされていないのに、オムツが綺麗なままなの」と妻が不思議そうに話していた。
 
「いなかった!? 小学生の時に学校のトイレには絶対に行かない子、中学校までいたよね、息子もそうなんじゃないの!?」といつもの調子で話をしてしまった……。
 
「私そうだったの、私に似てしまったのかもしれない……」と逆に妻を落ち込ませる結果になってしまった。
 
その息子のオムツはいつ外れのか問題を解決する日は、意外とすぐに訪れた。
父親参加日に息子と二人で幼稚園に行くことになったのである。
 
何度か、息子を幼稚園まで送りに行ったり、迎えに行ったりする事はあったが、授業を受けている息子を見るのは初めてで、自分が見られているような気がして、落ち着かないまま、直ぐに授業が始まった。
 
いつも家では、うるさいぐらい元気に走り回ったり、叫んだりしている息子の姿を想像していたら、全く違う息子の姿がそこにあった……。
 
やさしい笑顔は変わらないのだが、落ち着きを放っていて、物静かで、名前を呼ばれた時は静かに返事をして、手だけは誰にも負けないくらい綺麗に一直線に伸ばしていた。
 
一緒にカエルのおもちゃを作ったりして、息子との楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった……。
作り終わった後は、担任の先生の所に行って、笑顔満点で出来たばかりのおもちゃを自慢しに行っていた。
 
息子は、きっと担任の先生が好きなのである。
だから、返事をする時の声を敢えて小さくして、手でアピールしているのである。
3歳児にして、男の片鱗を見せる息子に、父親として不思議と暖かい気持ちになった。
 
その時、息子が勢いよく戻ってきて、「トイレに行く」というのである。
「ちょっと待って、替えのオムツもってきてないよ」と頭の中で、呟いていたら、
「早く、行くよ」と息子がトイレに向かって、一人で歩きだしていた。
 
そして、トイレに着いた瞬間、息子は自ら手で綺麗にズボンとオムツを脱いで、用をトイレに足している。
 
「え、トイレでできるの!? 全然しらなかった」と心の中で呟いていた。
 
あっけにとられていた僕の所に、息子が見せてやったぞと満足そうな顔をしながら、戻ってきた。
 
子供って、親の知らない所で、大きく、立派に成長している。
 
子供が大きく成長している時は、親が知らない所で起きているのかもしれない。
実際にその成長した姿を見る事ができた、その瞬間、その瞬間が、自分の「人生の大きな宝物」になる。
 
 
 
 
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2019-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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