「時間」は敵か、それとも味方か?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:赤木広紀(ライティング・ゼミ日曜コース)
「どうしたらもっと上手く時間を使えるようになりますか?」
20年に渡ってライフコーチングのプロとして300人近いクライアントの目標達成や苦手意識を克服するサポートをしてきた。
人間関係、仕事、キャリア、お金、等々……
コーチングを受けるクライアントさんの相談事は、本当に千差万別、多種多様。
だが、どのクライアントさんも必ずと言っていいほど一度は扱うテーマがある。
それが「時間管理(タイムマネジメント)」。
・やりたいことがいっぱいあるのにいつも時間が足りない……
・ToDoリストの項目がなかなか減らない……
・やらなければならないことばかりに時間を使って、やりたいことができない……
これは決して、コーチングを受けようという人だけの悩みではない。
ビジネス書の棚に「時間管理」に関する本を見かけない日はない。
アマゾンで「時間管理」というキーワードで検索したが、なんと2000冊以上の本がヒットした。それだけ出版されているということは、多くの人が何とかもっと上手に「時間管理」できないか考えているという証拠だろう。
「どうしたらもっと上手く時間を使えるようになりますか?」
普段なら、このテーマがクライアントさんから出たときは、まず、
「どんなことに時間を使いたいですか?」
「今、実際に時間を使っている活動は何ですか?」
「その中で充実感を高めてくれる活動は?」
「逆に、満たされないまま惰性で続けている活動は?」
といった質問をする。
質問に答えているうちに、新しく始めること、続けること、減らすこと、やめることが具体的になる。あとは決めたことを実行するだけ。
とはいえ、実行したからと言って一朝一夕に変わることはない。早く変えようと無理しても、ちょっと気を抜くとまた元に戻ってしまう。このあたりは、ダイエットと同じだ。あまりストイックにやり過ぎるとリバウンドしてしまう。少しずつ、丁寧に。これが大事。
ただ、Sさんとのコーチングは、それで終わることはなかった。
「ところで、Sさんは『時間』というものについて、どんなイメージを持ってるの?」
何気なくSさんに投げかけたこの質問。
そのときは、思いもしなかった。
まさか、あのような気づきが起きるとは……
「イメージですか? そうですね…… 追われているとか、追いかけられているというイメージが浮かびます。あとは、鎖で縛られるというイメージもありますね。」
そう話してくれたSさんの声からは、窮屈な重たい感触が伝わってくる。
「追われて、追いかけられて、鎖で縛られる。まるで、警察に追われている犯人みたいだね。」
「赤木さん、ひどーい。そこまで私、悪いことしてないですよ~」
「いや、ゴメンゴメン。でも、あんまりいいイメージじゃないよね。できれば一緒に居たくないというか、いやな感じが伝わってくるよ。」
「確かに、そんなイメージを持っていたら、しんどいですよね。」
「じゃあ、まったく違うイメージを『時間』に持つことはできる?」
そう、Sさんに尋ねる。
「うーん、『時間』が追いかけてくるものでも、縛ってくるものでもない、別のイメージがあるかってことですよね」
「そう、それ以外だったら、なんでもいいよ。」
「警察と犯人ってお互い、敵って感じですよね。その反対だったら仲間かな。」
「なるほど、『時間は仲間』か。そう考えると、どんな気分になる?」
「『時間は仲間』だと考えると、そう…… なんだかホッとします。仲間って、自分のやりたいことを応援してくれるじゃないですか。」
Sさんの声が明るくなったのがハッキリとわかる。
「なんだろう、今までとは全く感覚が違います。ラクになったというか、すごい安心感があります。そうか、時間は私がやりたいことを応援してくれる仲間なんですね!」
一瞬のうちに、Sさんの中で「時間」が敵から味方に変わった。
追いかけて鎖で縛りあげる恐ろしい存在から、応援し励ましてくれる大切な存在に変わったのだ。
そして、Sさんは「時間」を敵とみなす世界から一足先に抜け出した。
だが、「時間」を敵とみなしていたのは、Sさんだけではなかった。
まったく気づいていなかったが、私もまた「時間」を敵だと思っていたのだ。
私にとって「時間」はイヤな上司、あらさがしをする監督者、罰する人、責める人だった。
なんにせよ、敵でしかなかった。
何をしているときも、この敵に付きまとわれ、監視され、追い立てられ、急き立てられる。
だからいつもどこかに焦りがあった。生きるのがしんどいと思うことも何度もあった。
時間は人生と言い換えてもいい。
時間を敵だと思っていたら、人生は敵とともに生きることになる。
生きるのがしんどくなるのも無理はない。
だが、Sさんは気づかせてくれた。
「時間」は敵ではないことを。
「時間」を敵とみなしているのは自分自身だということを。
もし、時間を敵とみなす私の見方が変わったら、時間は私の味方になってくれるだろうか?
もし、時間と闘うのをやめたら、時間は私にやさしくしてくれるだろうか?
そんな問いが私の中に、何度も何度も浮かびあがってくる。
今も私は、「時間」を敵とみなす世界の中で生きている。
でもいつの日か、時間と和解できるときがくるかもしれない。
きっとそのとき、時間は敵ではなく、大切な仲間だったと気づくのだろう。
そう、Sさんが気づいたように。
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