そんなこと言われても知らんがな
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:吉田 倭子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「吉田さん。7月のお茶会のお手伝いお願いね。頼りにしてますよ」
内心、げっ。マジかよ。と思った。
「先生、やっぱり着物でお手伝いですよね」
「勿論です」
お茶会。いらっしゃったお客様を席へご案内してお菓子と抹茶をふるまうものだ。
毎月持ち回りになっている当番が私の師事する先生に回ってきたとのことで、そのお手伝いを頼まれた。私がやるのは、精々お客様にお抹茶を持っていったり、お茶の席へご案内したり、くらいだからお手伝い自体はなんとかなる。
問題は着物だ。
「先生、7月は、どんな着物を着ればいいですか?」
「紗か絽の時期ねぇ。小紋でいいのよ」
「しゃ」か「ろ」に「こもん」ね。
正直、何となくのイメージしかない。
紗、絽というのは、夏の時期に着る薄手のちょっと透け感のある生地のことだ。紗と絽の違いなんか、正直私も分からない。
小紋というのは、着物の種類。礼装にはあたらず、普段着の扱いのものだ。
洋服で言えば
「スーツじゃなくても、薄手の半袖ブラウスとスカートでいいのよ」
といったところだろうか。
美術館に行って鑑賞するときの音声ガイドのように、解説が必要だ。
洋服であれば普段着ていて、スーツ、ワンピース、ブラウス、Tシャツとなんとなしにその場に合わせた服装をして生活しているが、着物にも同じようにその場に合わせた服装がある。けれど、普段着物を着て過ごすことがないから、相応しいものがなかなか分からない。
だから、時折遭遇すると、げっ! と構える。このげっ! は「嫌だよ。避けたいよ」 ではない。「来たぞ来たぞ、気を引き締めてかかれ」 のげっ! だ。
TPOとか、しきたりや習慣って高速道路のサービスエリアのようなものだ。
高速道路を長い間走っていられるのは、時折サービスエリアで休憩が出来るからだし、休憩もしないで、高速道路を走り続けるのは危険を伴う。充実したテーマパークのようなサービスエリアなら思わずそこに行くために高速道路を走りに行くだろう。
人と人とが付き合っていくならば、お互いにマナーや習慣を大切にすることは、長く付き合っていくために必要なことだ。サービスエリアが、高速道路を利用する人に対して提供されるサービスであるように、人と人とが付き合っていく上でのマナーや習慣は、お互いへの気遣いや思いやり。相手へのサービスのようなものなのだ。
無いなら無いで何とかならなくもない。
だからこそ、そこにはお互いを思う心が現れる。
お互いを思う心が伝わるからこそ、ずっと大切に付き合っていこうと思えるのだ。
けれど、高速道路で漫然と運転しているとサービスエリアを逃してしまうのと同じように、しきたりや習慣って自分から知ろうとしなければ、見過ごしてしまいやすい。
今回だって、習慣に慣れ親しんだ先生にとっては自然なことだけれど、知識のない私にとっては、お茶会のお手伝いで何が相応しいのかは、リサーチが必要だった。
美術館で音声ガイドを手に取るように。
だから、先生に解説を求めるのだ。
何を着たら良いですか? と。
先祖代々同じ土地に、祖父母、両親と同居してずっと生活していたら、きっと昔ながらのマナーとか習慣って、身近に接して見て覚えただろうし、知らなくても教えてもらえたのだろうと思う。けれど、祖父母とは一緒に暮らしたこともないし、社会人になってからは一人暮らしで身についていないマナーや習慣はきっと沢山ある。
そうして、知る人が少なくなって薄れていくものもあるだろうし、世の中の生活スタイルや時代に応じて変化するものもある。
衣替えは、6月と10月というが、最近はクールビズやウォームビズで実際の気温に合わせたりする。夏の着物の時期も昔の暦どおりにはいかないらしい。
伝統とか習慣ってだんだんと変わっていくものだ。
だから「夏の茶会の着物は絽か紗を着るのが当然です」
と言われたら、人によっては、そんなこと言われても知らんがな。今時、着物の常識なんてあるわけない。そっちの時代遅れのTPO押し付けるなや。と思うだろう。
けれど、お茶会で夏の着物を着ると、見た目が涼やかに見え、お客様をおもてなしするのにも相応しい恰好になる。お客様へのサービスなのだ。
「そんなこと知らんがな」というのは簡単だ。
でも、マナーとか習慣には、そこにちゃんと意味があるし、相手への思いやりがある。それを知らないままに、知らないで片づけるのは、ちょっと寂しい。
私の身近にいるマナーや習慣を大切にされる方は、相手への思いやりを大切にされる方だ。時代によって、伝統も習慣も変化していくものだということも理解なさっている。
分からないから教えてほしいと聞いても、習慣に馴染みがなく、知らないものは仕方がないと受け止めて、親切に教えてくださる。
だからこそ、私は、何が相応しいのかと相手に寄り添おうと思えるのだ。
そして、先生方のマナーや習慣を自然のものとしていらっしゃる姿は、相手への思いやりや気遣いを大切にしてこられた在り方や人柄そのものだ。
そんな素敵な人になりたいと思う。
これからも知らないマナーや習慣に遭遇するだろう。
そのときは、また身構えつつ、それを自然と身に着け、教えて下さる諸先輩方に尊敬を込めて、「どうしたらいいですか」 と尋ねようと思う。
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