メディアグランプリ

視点一つで心のイライラは簡単に手放せることを、先生は生徒から教わった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:香月祐美(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
「うちの子がこの前、模試を受けたんだけど、その結果がすごく悪くてさ。旦那が、何でこんなにできないの! って子どものことをメチャクチャ怒るのよ。
 
子どもにあんまりキツい言い方するもんだから、そんなに言わなくてもって内心思うんだけど、口出しできないっていう……」
 
私はその日、久しぶりに会った友人とランチをしていた。子どもが小学生高学年になって塾に行きはじめたけれど、なかなか思う様に結果が出ていないらしい。
 
他の家のことを少し聞いたくらいで口を出すのはどうかと思ったが、怒られている子のことを思うと胸が痛む。
 
模試の結果にイライラして怒る気持ち。
私は数年前、ある出来事がきっかけで、イライラの正体に気付かせてもらった。
あのとき気付けていなかったら、私も同じ場面で同じ様にイライラしていたのかもしれない。
 
友人に、
「お子さんに対して、もっと出来るはずだっていう期待が大きいのかもね」
と言いながら、私の頭には数年前の自分の姿がよぎっていた。
 
私は、塾の講師として子ども達と毎日接している。
たくさんの子を見ていると、一様ではないのだな、という当たり前のことに改めて気付かされる。
 
恐ろしい集中力を発揮している子もいれば、周りに気が散りやすい子もいる。
学習内容を一度で吸収する子もいれば、二度三度、繰り返しが必要な子もいる。
 
そんな子どもたちと日々接する中で、心にモヤモヤした気持ちが顔を出しはじめる時があった。
そのモヤモヤは、冒頭のイライラより温度は低いけれど、似た感情だった。
 
そして、理解するのが早い子に対しては起きることがない感情でもあった。
 
モヤモヤするのは、たいてい同じ子に対して。
比較的、何度も繰り返して学習する必要があったり、学習ペースが遅めの子に、モヤモヤする気持ちが生まれやすかった。
 
どうしてモヤモヤが生まれるのだろう。
そう考えると、モヤがさらに深くなった。
 
モヤモヤ正体に気付かせてくれたのは、中学生との何気ない会話がきっかけだった。
「先生、モンストって知ってる?」
 
モンスターストライクという携帯ゲームのことだ。数年前にアプリを入れようかどうしようか迷って、結局入れなかった。
「知ってるよ」
 
「あれ、面白いよね。携帯にアプリ入れてる?」
 
「ううん、入れてない。入れてハマっちゃうと大変だと思って、やめたんだ」
私はてっきり、このあと彼が、「面白いからやったらいいのに」と勧めてくるもんだと思いながらそう答えた。
でも、彼の言葉は予想と違った。
 
彼は一瞬、驚いた顔をした。そして、
「え! そうなの? そっかー。ハマったら困るからアプリ入れないのかぁ。面白いからやるもんだと思ってたけど、そういう見方もあるんだね」
 
その彼の言葉に、私は内心驚いた。
だって彼は、面白いからやったらいいのに、という自分の視点を押し付けなかったのだ。
私の視点に立って、私の気持ちを尊重した彼に、そういう見方もあるんだなと思ったのは、むしろ私の方だった。
 
翌日。
前回、塾で同じ問題を解いたのに、また同じ間違いをした子がいた。
前のことを忘れてしまった様子だった。
 
「前も同じこと言ったんだけどな」
そう思うと、モヤモヤした気持ちが沸き出てきた。
 
そのとき、私は気がついた。
「前も同じことを言ったのに」と、自分の視点からしか相手を見ていないことに。
 
私は覚えているのに、どうして相手は覚えていないのか。
 
私はできるから、相手もできて当たり前。
 
そうやって相手に期待して、勝手に相手に押し付けていただけだった。
そして、期待通りにいかないとモヤモヤしていた。
自分視点の「こうあるべき」というこだわりが、モヤモヤを生んでいたのだ。
 
そうじゃなかったのだ。
自分と人は違うのだから。
 
自分が覚えていたとしても、相手が覚えているとは限らない。
 
自分にはできるけど、相手にはできないこともある。
 
だから、自分の視点で人を見るのをやめようと思った。
 
子どもたちの学習ペースには個人差がある。
だから、まずはひとり一人のことを観察した。
問題を解くのが遅い様に見えても、すぐに口出したりせずに。
それが本人にとっての最高速度なのか、ぼーっとしているだけなのかを見るようにした。
 
「早くやりなさい」とは言わない。
「早さ」の感覚は、人それぞれ違うから。
その代わり、例えば「今、30分過ぎたよ」と事実だけを伝えることにした。
塾で勉強する時間には限りがあるから、残りの時間、塾でどこまで頑張るのか、本人の意思も大切にしようと思う様になった。
 
一度や二度でできなくてもいい。
時間がかかったとしてもいい。
 
自分視点ではなく、相手視点で考えること。
ただそれだけ。
子ども達が、自分のペースでできることを増やしていけることが大切なのだ。
そう思えるようになったとき、私の心はモヤモヤすることもなくなっていた。
 
 
 
 
***
 
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2019-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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