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黒いヒモに裏切られた妊婦


 
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記事:芦野 雅代 (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「貧血気味ですね」
 
約3年程前、第一子妊娠中に、医者から言われた言葉である。
もう、かれこれ30年近く貧血気味だと言われ続けている。
私の母は中学生くらいからずっと、ひじきと切り干し大根の煮ものや五目ご飯などをバランスを考えて、鉄分多めのメニューを積極的に料理してくれたし、いつの日かレバーも食べれるようになった。
 
大人になってからは居酒屋へ行けば、レバ串やレバニラ、レバフライを好んで注文し貧血予防にと言い訳をしつつ、ビールで一気に流し込む。
もはや至福の瞬間だった。
 
妊娠してからも、体重指導をされる中、低カロリーと鉄分を意識し、ひじきと切干大根は積極的に摂取していた。
割と続けていたのにも関わらず、どうにもやっぱり貧血気味は改善されない。
どうすれば貧血気味を克服できるのか、もっと沢山ひじきを食べろというのか。
 
そんな貧血予備軍の妊婦の私をどん底に突き落とす衝撃的な出来事が起こってしまった。
 
ある日、区の保健センターで行われた母親教室で、栄養士さんから妊婦向けの食事指導があった。
なぜか似ている冊子が2冊配られ、妊娠中の食事で気をつけた方がいいことなどが説明された。
「今、2冊お配りしましたけれど、ひじきの小鉢の方が、ひとつ前の冊子です。今年から、こちらに新しくなりました」とのこと。
 
よくよく話を聞いていると、2015年12月25日にひじきには、鉄分があまり含まれていないと、文部科学省の発表があったという。
 
鉄分の王様と呼ばれる国内産のひじき100gあたり「鉄釜だと58.2mgの鉄分を含むが、ステンレス釜だと6.2mg」ということで、ひじきは鉄分の多い食品から外されたので、内容の一部と表紙のひじきの写真がほうれん草の白和えに変わった、と。
 
「えっ? あの、ひじきの鉄分って、鉄釜の成分だったんですか?」
あまりの動揺に、私は手も挙げずに質問してしまった。
周りの妊婦さんは若干引き気味だったと思う。
 
食品加工の行程で異物混入などを防ぐために、「食の安全・安心」の観点から、耐食性に優れたステンレス釜の使用を推進してきたのだという。
 
文部科学省さんよ。
異物混入を防ぎたいのはわかるし、食の安全・安心も大切だけれども、ひじきから鉄分を奪うなんてどうかしてません?
鉄分がそんなに含まれていないひじきを食べる利点が、実はカルシウムと食物繊維だったなんて……
そんなのショック過ぎやしないか。
 
鉄分のないひじきなんて、美味しくも何ともない、ただの黒いヒモだ。
それだもの、私の貧血が良くなるはずもない。
私が信じて食べ続けてきたひじきに裏切られたと言っても過言ではない。
 
しかも妊娠中は特に食品の安全に気を遣い、あえて避けていた韓国産や中国産のひじきの方が未だに鉄釜で加工されており鉄分が多いという、何と言う理不尽よ。
 
さらに追い打ちをかけるように、ステンレス製の包丁の普及により、切干大根の鉄分も1/3に減少したという。
大根には鉄分は多くないのに切干大根にすることで鉄分が多くなるという理屈は、包丁が鉄製だったから。
これも、にわかには信じがたい事実だ。
 
この出来事を、私は「ひじきショック」と名付けることにした。
 
無知とは罪だ。
お腹の赤ちゃん、ごめんよ。
アホな母で。
鉄分が取れると思って、せっせとただの黒いヒモを食べていたよ。
でも、貧血気味は改善されなかったよ。
当たり前だ、ひじきは鉄分が多い食材ではなかったのだから。
 
ひじきショック後、私はひじきを食べていない。
 
なぜなら、調理が簡単なわけでも見た目に美しいわけでも、特に美味しいわけでもないひじきに鉄分がないと知った今、あえて選択する理由がないからだ。
 
でも、よくよく考えてみると、ひじきショックはチャンスの到来かもしれない。
 
はじめから鉄分が含まれていない食材でも、鉄鍋や鉄釜で調理することで鉄分補給になるのなら、テフロン加工のフライパンはやめて、鉄のフライパンにするとか、中華鍋を積極的に使うとか、鉄瓶で湯を沸かすとかの工夫で、鉄分を補給できるとしたら、黒いヒモの呪縛から解放されて、自由に鉄分の補給方法を選択できるということではないか。
 
世の中を見渡せば、鉄分配合のウエハースやヨーグルト、鉄玉や鉄粉糠床など、鉄分が補給できるものがたくさんあることに気が付く。
 
黒いヒモに裏切られたことは早く忘れて、他の鉄分補給の方法を試してみることにしよう。
妊娠期間は特に鉄分を多く摂取することが大事で、ひじきにこだわる必要などないのだ。
 
もし長年の癖で五目ご飯にひじきを入れたくなったら、韓国産か中国産のひじきを選ぼうと思う。何故なら、せっかくひじきを食べるなら、鉄分が取れなくては、どうにも損をした気がしてしまうのだ。
 
ちなみに、現在日本国内で流通しているひじきは、約9割が韓国・中国産でわずか1割が国内産だ。
30年余りも妄信的に「ひじき=鉄分多い」という信仰をしてしまったと思いきや、産地を気にせず食すのであれば、鉄分が摂取できることが期待される。
 
つまり、なんでもかんでも国産がいいという訳ではなく、臨機応変に選ぶということが重要なのかもしれない。
 
 
 
 
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2019-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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