【義母への贈り物】
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:谷やん(ライティングゼミ日曜コース)
「あっ、今日もまた事故か~! このままだと遅刻してしまう」
自宅からクリニックまでは、わたしは毎日車通勤だ。
朝のラッシュを避けるために、仕事場までは早朝に家を出ているのにもかかわらず、今日は朝から事故だ。
「なんで、こんな早朝から事故やねん。ついてないなぁ!」
と、怒りの声が洩れる。
警察官が誘導する高速道路の事故現場を徐行して通る時に、事故で大破した軽自動車から救出されタンカに乗せられた人がチラッと見えた。
寝間着姿の老人だった。
「あんな老人が運転してたのか?」
ふ~っ、とため息が出た。
新聞やテレビでも老人の事故が毎日のように報道されている。
先日も博多であった、あの事故のこと。
テレビのニュースで報道されていた暴走車の激走と交差点での衝突の映像は、何度も繰り返されていて頭から離れない。
猛スピードで交差点に突っ込んで、2台の車に追突し、自ら横転、大破した。
悲惨な事故だった。
運転者は81歳の男性で、認知症があったのがどうかはわからないが、免許の返納を周りの友人に話していたとのこと。
最近、余りにもこの手の事故が多い。
今や75歳以上の後期高齢者の交通事故は後を絶たない。
これからの日本は益々高齢化が進み、こんな問題が増えてくる。
自分事として、家族の老後や自分の老後を考えたいものだ。
そんなある月曜日の夕食の後、妻が言った。
「米びつのお米が空やから、お米を入れるの手伝ってくれない?」
いつもは、この時間帯は、ある書店のライテイングゼミの締め切りがせまっているので、焦ってパソコンに向かっているために、手が離せない時間だが、
その日は妙に、素直に妻の声に従った。
「あぁ、いいよ~!」
「昨日も米びつのお米が空やったから子供達のお弁当も作られへんかったわ!」
と言って、大きなビニール袋に入った米を渡された。
袋の一片をハサミで切って、重いので二人で抱えて米びつに入れる。
「こぼさないでね」
「わかってるわ~!」
見ると白米と玄米が混じって入ってある。
「白米と玄米が混じった米なんか売ってあるの?」
「いや、田舎のお母さんが毎回混ぜて送ってくれるの」
「ヘェ~、ありがたいことやなぁ」
「お母さんが居なくなったら、こんなふうにして送ってくれるひとは誰も居なくなるわねぇ」
「うちには、おばあちゃんと呼べるひとは遂にひとりしかいなくなったからなぁ」
うちの嫁の実家は宮崎で、その母親は宮崎の田舎に1人で暮らしている。
3年前に義父が急に他界し、お母さんがひとりになった。
今、78歳だが元気に暮らしている。
週に2回は自分で車も運転して、ゲートボールなどにも行っている。
先日も地元の大会で優勝したとのこと、本当に元気で社交的な人だ。
そんな義母だが、最近はめっぽう耳が遠くなった。
妻が、「お母さん、ちょっと耳が聞こえにくくなったじゃないの? 補聴器をつけたら?」と言うと
「ちゃんと、聞こえちょるから、まだいいがぁ」と抵抗する。
自分の衰えを認めたがらないのだ。
その上、先日も交差点の一時停止を見過ごして、警察に切符を切られ、はじめてゴールド免許でなくなったばかりだ。
まだ、認知症はないとはいえ、もうすぐ80歳になる。
免許の返納時期も考えなければならない年齢になった。
とはいえ、田舎だから公共の交通機関も少なく、車がなかったら暮らせないのが現状だ。
買い物も車、送り迎えも車、寄り合いも車、ゲートボールも車、生活のすべてが車に依存している。
田舎は都会以上に車が必要な車社会だ。
その車が無くなったら、お母さんの生活の質は確実に低下する。
そもそも生活自体が成り立たなくなる。
そうなると外に出て行かなくなって、人と話す機会も減って、益々認知症などのリスクも上がるかもしれない。
テレビや新聞では高齢者の事故の話題が連日のように報道されている。
最近この手の事故が本当に多い。
社会問題にまでなっている。
「政府は高齢者の方の免許に特別な枠を設ける方針です。例えば自動ブレーキ付きの車に限定して許可を与えるなどの対策を考えています」
と7時のニュースの報道
現在75歳以上の高齢者のドライバーは563万人
高齢者の死亡事故は全体の15%を占めた。
海外では高齢ドライバーの運転に対して、時間帯や場所を制限する限定免許を導入しているらしい。
そのうち日本でもそんな限定免許が当たり前になるかもしれないが、待ってられない。
まず、できることは何だろうか?
「今度、田舎に帰ったらお母さんの車を見て、自動ブレーキ機能つきのものに変えようか?」
「そうやね、元気でしっかりしているうちに対策を考えてあげたいね」
「いつまでも、田舎からの贈り物をありがたく受け取っていたいからね」
「たまには、我々からの素敵な贈り物もしてあげたいしねえ」
高齢者の事故の責任は、我々の若い世代の責任かもしれないし、
それは、ひいては、それは社会全体の責任になるから。
いずれ我々も高齢者になる。
その時のために、自動運転機能のついた車や自動ブレーキ機能のついたものを勉強しておくのも必要かもしれない。
義母さんが、あの朝の老人のように救急車で搬送される前に、我々子供たちが素敵なプレゼントを贈ってあげよう。
心を込めて!
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