年に一度の梅仕事
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記事:長谷川せつ子 (ライティング・ゼミ平日コース)
毎年この季節になると、スーパーや八百屋の店先に梅が並ぶ。年間通して今だけだ。
梅雨時のほんの数週間。
袋詰めされておらず、段ボールを開けたまま陳列された梅などは、その店に入った途端、何とも言えないいい香りに包まれている。その正体は、完熟した黄色い梅だ。
「あぁ、なんて幸せ、いい匂い!」 と、大きく息を吸ってその恩恵にあずかる。
梅を買い求めては、シロップ漬け(ジュース)や、梅酒を作るので、家中梅だらけになる。
なんて梅好きなのだろう、と思われるかもしれない。それくらい、今しか仕込むことができない梅仕事は、なんとも魅力的なのだ。これを逃したらあと一年待たなければならない。それ故、この時期を心待ちにしているという方も多いだろう。
年間通していつでも買える、大根や人参、タマネギ、ジャガイモといった野菜たちとはわけが違う。
本当に今だけ、店頭に並んでいる。
そして、今しか誕生しない救世主になっていくのが、梅干し!
香りで癒される完熟した梅。そう、これで梅干しを作ることが、私の大好きな梅仕事なのだ。
しかも年に一回で良い。一度作ってしまえば、相当保存がきく。年単位だ。
しかも、手間ひまかかるとはいえ、工程は単純である。
まず、きれいに洗って塩漬けした後は、様子見だけ。ここで気を付けるのは、カビが発生しないか、だけである。ちなみに、塩分は18%、いい塩梅だ。失敗がない。
そして数日たつと、白梅酢 (漬けた梅の中に出てくる水分) が上がってくる。だんだん気分も盛り上がってくる。何故なら、この梅干を作る過程の副産物、梅酢も、後々、美味しい漬物を作るときに我が家では欠かせない代物となっているからだ。
そして、この時点が、赤い梅にするか、白い梅にするかの分かれ道となる。
赤い梅、いわゆる赤しそと共に漬けた梅。
赤しそを塩で揉んでアクを出し、絞った赤しそを白梅酢でほぐしたら、それごと梅の中に一緒に漬け込む。
その時の気分で、これをやりたいときはやる、やりたくないときはやらずに白い梅のまま、土用 (立秋の前の18日間) まで待つ。
そして、三日間の土用干し。これが結構楽しい。ハラハラドキドキの三日間。
途中、雨などに当たっては絶対にいけないので、天気を見極めなければならない。
ここだ! と思う、三日間続く晴天の日に、平たいざるに一粒一粒並べていく。
この作業が、何とも言えない幸福感に包まれる。
「遠路はるばる、ようこそわが家へおいでくださいました。そして、農家の方々よくここまで育ててくださいました。あとは、アレに変身するのみです、あと少しです」 と、心の中でつぶやきながら。
すると、作業ももう終盤。この時点でもう梅干しのいい匂い。ざるにいたっては、毎年使っているので、干す前から梅干しの匂いが染みついていてやんわり漂っている。
水分を含んでふっくらしていた梅が、日を追うごとに、だんだんとしわしわになってゆく。
干されて、梅干しになってゆく。これが、この仕事の醍醐味。
調理して出来上がったお料理とはまた違った喜びがある。
この変わりようといったら、大地の恵み、自然の恩恵そのものだ。
この時、上がってきていた梅酢も、漬けていた容器ごと陽に当てて日光消毒する。
赤しそも絞って干す。三日間しっかり干したら、あとは密閉容器で保存するのみ。
ざっくりいうと、梅干しを作るには、塩漬けして、三日間干す、という作業だけである。
思っているより、意外と簡単だ。時間と干せるスペースさえあればいい。
何といっても、添加物がない。梅と塩のみである。シンプル!
出来上がった梅干しをしょっぱいなぁと思えば、水に浸して塩抜きをしたり、それをまたはちみつに漬けたりしても楽しめる。いける口の方には、焼酎の梅干し割りもおすすめだ。
干した赤しそも、細かく粉砕すればゆかりになる。白いご飯にパラパラっと振りかければ、これもまた美味しいふりかけ。
こんなに沢山の楽しみ方ができる梅干。体にも良い。また、クエン酸が多く含まれている為、疲労回復や、防腐・抗菌効果も期待され、お弁当などにもよく入れられる。
ついでに塩分も摂取できるのだから、これからの季節、熱中症の救世主と言っても過言ではい。
そう、今まさに誕生したのだ。
店で梅を見かけたら、是非手に取ってみてほしい。
そして、あなたにしかできない梅干しを作ってみてはどうだろうか。
「期間限定!」 この言葉に弱い方も多いはず。何度も言おう、本当に今だけなのだ。
今年は、年に一度の梅仕事、この時期一番のおススメです。
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