人生には甘くておいしいお菓子の家が必要
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記事:HIDE(ライティング・ゼミ平日コース)
「何がしたいかわからない。でも、大学には行ってみたいとは思う」と、高3の娘は言う。
親としては「人並に大学に行ってほしい」「大学くらい行かせなくてはならない」という気持ちと、「大学でも通学しなくなるかもしれないのに、大金をかけて進学させていいのか?」という気持ちがあって、私は揺れている。
我が家の娘は、いわゆる普通に学校に行けない子だ。
「行かなきゃいけないのはわかっているけど、行けない」という。
彼女の通学嫌いは小学校から問題になっていたが、中3で不登校になった。
高校は自分で希望した学校に進学したが高2の冬に本格的に行かなくなった。
娘には、社会生活にいくつかの障壁があるため、数年間に障害者というラベルがついた。このラベルがあることで、今は高校が独自に持つ就学サポート制度を活用して、今は卒業を目指してマイペースな通学をしている。
そんな彼女には、眼鏡をかけるのと同じレベルでサポートが必要なこともある。今後も新たに必要な支援がでてくると思う。
しかし、眼鏡をもっている人は、最初に「見たい」と願ったからこそ眼鏡を手にすることができる。よく見えていないことに気づき、見えたら楽になることや、できることが増えることを知っているからこそ、眼鏡を必要とするのだ。
娘のサポートにも同じことが言えるが、娘の眼鏡みつけはなかなか難しい。
「何をしたいか」を示してくれれば必要なサポートが見えてくる。
「やりたいこと」が自覚できていれば、トライ&エラーを繰り返しながら、適切な眼鏡がみつけていける。
だからこそ、「やりたいこと」や「やってみたいこと」を本人から聞き出したいのだけれど、今は生きていることに精いっぱいの娘は、将来の話をしたがらない。そして、将来への不安が、より学校への道のりを遠くしてしまっていたようだ。
娘には娘のペースがあるのだから他の子と比べて焦らない……ということと、「嬉しい」「楽しい」「美しい」などの体験を積み重ねて、彼女の世界を広げながら感覚と感情と言葉を繋げることが大切だと医師や心理士から言われる。
そのために、「好きなこと」を体験することが大事なのだという。
それが、彼女の自立には必要なプロセスになるのだそうだ。
私も「好きなこと」が彼女の人生を彩ってくれると確信している。
しかし、私自身は、小さいころから数年前まで「好きなこと」を意識しないで生きてしまった。
「あなたが一番好きな食べ物は何ですか?」
子どもをサポートするために受けたある講座の中で聞かれたことだ。
私には答えられなかった。
順調に進まない子育てと絶えない家族間のトラブルを過食することで紛らわしていた当時の私にとって、食べることは時に苦痛をともなう行為になっていたからだ。「食べていいもの」「食べないほうがいいもの」という基準でしか食べ物をみられていなかったのだから。
それだけではなかった。
小さいころの私は、親の期待する答えを意識して「親の好き」を選ぶ子どもだったのだ。だから私は自分の「好き」がよく分からないで大人になっていた。
親の期待を無視できるようになった後も、私の言動は、「好き」や「面白い」よりも、「こうあるべき」「こうしなくてはならない」という誰かの「良い」「悪い」に左右されていたし、「与えられたこの環境の中でどうやってうまく生きるのか?」ということに捉われていたからだ。
でも、「普通」の枠に収まらない子どもたちを育てることで、私は「好き」や「楽しい」という感覚が「幸せ」に向かう最初の一歩になることを学んだ。
障害の有無や、種類や程度は関係なくて、人はその人が心から望んでいることを実現させていくことが個性を活かして生きるために大事だと知った。他人が理解できないことでも、やりたいことにはその人なりの理由があるのだ。
また、私は、「好き」を選ぶことで、周りの環境が自分好みに変えていけることも知った。自分に見えている世界は、自分で選んだ結果が見えているだけなのだ。心から望む「好き」が手に入るように行動することで、自分の世界は変わっていく……。
グリム童話のヘンゼルとグレーテルは、疲れて果てて死にそうになったときにお菓子の家にたどりつき、美味しいお菓子を全身で味わってたっぷり眠って体の元気を取り戻した。そして、魔女を退治し、宝物を手にして、大好きなお父さんのもとに帰って幸せ暮らした。
しかし、ハッピーエンドの後にもヘンゼルとグレーテルの人生には、新しい苦難はあっただろう。けれども、魔女との戦いに勝った兄妹には、その苦難も苦しさもまた「生きる悦び」や「幸せ」になっていると分かっていたはずだ。
私は、今の娘には「好きなことや幸せの感動をおなか一杯に味わえた」と思う「お菓子の家」のような体験が必要なのだと感じている。
全身で美味しさを体験してたっぷり眠れたら、人生という冒険に挑めるのだと思うのだ。この準備が整えば、きっと外に出ていけるようになるのだろうと信じている。
外にでた後もまた、嫌なこと、悲しいこと、悔しいことにたくさんであうだろうが、また甘いお菓子を食べて休めばいいのだ。好きを味わって楽しんで、心身を整えればまた気力もでるだろうから。
娘が立ち寄る「お菓子の家」にも、そのうち魔女がでてくるかものだろうが、まだ今は私がお菓子の家を管理できる時期なのだから、歩き疲れたらここにきて休んでいけばいい。
私に育て直しをさせてほしい……、そんな気持ちなのかもしれない。
人生の選択肢は自分が考える以上にあるのよ
「できる、できない」はその時々で見つければいいじゃない
だから大丈夫
きっと人生は何度でもやり直しができるはず……
ただの理想論なのかもしれないが、私は娘と私自身にそう言い続ける。
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