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ものの値段はあなたが決める


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田中たぬき(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私が農園で働きだしたのは6年前だ。
都会での先の見えない一人暮らしにほとほと疲れていた私は、祖父母の介護を手伝うため故郷の香川にUターンした。
 
新卒からずっと事務をしてきたので、せっかく田舎に帰ってきたからここでしかできない新しいことをしようと思った。
そうだ農作業なんかどうだろう。
収穫期に農家のお手伝いをしながら、祖父母の介護をしてのんびり過ごすのも悪くない。
 
東日本大震災から3年が経ち食の安全が叫ばれていた頃だった。
私も自然とそうしたものに意識が向いた。
インターネットで「有機野菜 香川」と検索するとトップページにでてきたのが農園だった。自分の畑でとれた有機野菜を使ったカフェも経営するその農園は自宅から車で20分程の郊外にあった。
 
農作業のお手伝いがしたいんです、と求人に応募したところ
「そっちはいま人手が足りててね。事務をしてくれる人を探していたからお願いできるかな」
とのことだった。
芸は身を助く。私は有機野菜の農園で事務として採用された。
 
農業という第一次産業で働くのは初めての経験だった。
アルバイトを含めスタッフは15人程。
仕事は畑で収穫や植えつけをする外作業の人と、収穫した野菜を袋づめし注文先ごとに出荷する中作業の人に大きく分かれていた。
事務は私一人。
畑にでて農作業をすることはなかったが、有機野菜の生産現場を通して見えてくることはたくさんあった。
 
まず野菜には旬があるということ。
野菜は種類によってとれる季節がありそれを旬という。
トマトは夏、大根なら冬といった具合だ。
でもスーパーに行けばトマトも大根も一年中売り場に並んでいる。
旬という言葉は知っていても季節に関係なく欲しい野菜がいつでも手に入ることにさして疑問ももたなかったし、旬といわれても正直実感がなかった。
 
農園で働いてみて、この旬を身近に感じられるようになった。
一部の野菜のハウス栽培を除いて、ここではほとんどの野菜を自然に近い露地栽培をしている。
温度管理のできるハウスと違い露地栽培は天候の影響をもろに受ける。
夏には夏の、冬には冬の野菜を作る。
寒さを好む大根を夏場に作ることはできない。
 
四季の移ろいと共にとれる野菜も変わっていく。
梅雨明けが近づくとトマトが少しずつとれだし、盛夏の8月には真っ赤に色づいた完熟トマトが毎日とってもとりきれないほど収穫できる。
今まさに旬といったトマトはとても甘くみずみずしい。
旬のものを食べると元気になる、という理由がわかる。
他にもナス、オクラ、キュウリにズッキーニ。8月は夏野菜のオンパレードだ。
 
9月後半ともなれば夏野菜も終わりに近づく。
トマトの皮は固くなり甘みも少なくなっていく。
サイズもだんだん小さくなり収穫量も減少する。
次の季節の野菜を植えるため、夏野菜は根ごと畑から撤去される。
 
農園の畑から夏野菜はなくなったのに、スーパーでは相変わらずトマトが売られている。
そう言えば冬でもトマトが買えなかった記憶はない。
さてこれは一体どういうことだろう。
 
理由の一つは産地だ。
香川でトマトがとれなくなった9月後半でもまだ暑い九州ではトマトが収穫できる。
この時期、地元のスーパーでは香川産に代わって九州産の夏野菜が並ぶ。
反対に暑さに弱い葉もの野菜は夏には収穫できないのが普通だ。
夏場にスーパーで売られているレタスやキャベツの産地を見てほしい。
きっと関東以北の涼しい高原地帯で栽培されたものだ。
こうして気温の推移にあわせて仕入れの産地を変えることで、一年中同じ野菜が店頭に並ぶようになっている。
農園で働くまでそんなこと考えもしなかった。
 
もう一つの理由は栽培方法。
野菜の成長は気温に大きく影響を受けるが、それをコントロールするのがハウス栽培だ。
ビニールハウスの中で温度管理をすることで冬でも温かい季節の野菜を作ることができる。
冬場に売られているトマトは100%ハウス栽培だ。
そのおかげで私たちは冬でも夏野菜を口にすることができる。
 
そして次にわかったのは、市場に出回ることなく廃棄される野菜が大量にあること。
野菜は商品だ。
形が悪かったりちょっとだけ傷があったりするものは、いくら味と品質が良くても店頭では販売できない。
見栄えが良くないというだけで袋づめする前にハネられる野菜がたくさんある。
 
商品として売るためには値段を決める。
レタスを1玉200円で売るとしたら、例えば1玉の重量を180gから250gの間と決めてそれ以下とそれ以上のものは、やはり売ることはできない。
店頭に並んだときに同じ200円で大きさにバラつきがあってはいけないのだ。
こうして商品にならず捨てるしかない、もったいない野菜のなんと多いことか。
 
そして野菜の値段を決めているのは農家ではない。
実は、私たちなのだ。
 
安心安全でおいしい有機野菜には付加価値がある。
手間暇も随分とかかっているし相応の値段で売りたいところだが、希望価格でだしてもスーパーで普通の野菜と並んだら完全に価格負けしてしまう。
高くても有機を選んでくれるお客様は、残念ながら日本では少ない。
有機野菜なのに普通の野菜の値段に近づけないと売れないというジレンマがある。
 
売れ行きが良くなければスーパーも有機野菜の販売数を縮小せざるを得ない。
価値を理解して有機野菜を買ってくれる人が増えてくれれば、お店も取り扱う量や店舗数を増やすことができる。
そうすれば農家も安定して生産販売することができ、値段も無理せずに決めることができる。
 
あなたが今日スーパーでどの野菜を買うかは、あなたが思う以上に生産者である農家に、そしてこの先あなたが買う野菜の値段に直結している。
私ひとりの買いものくらい……と思うかもしれない。
けれど、何をどこでどのように買うのか。
それによりどんな商品が、どんな業態が、どんな購買方法が生き残っていくかが決まる。
 
あなたの消費行動はあなたの世界をそのまま作っている。
あなたには世界を変える力があるのだ。
まるで一票の力のように。
 
 
 
 
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2019-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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