メディアグランプリ

グーグルマップの☆マークになれた2年間


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:結珠(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
これは、私が青年海外協力隊としてラオスの田舎の街に住んでいたときの話だ。
 
その当時、私は2年間のボランティア活動でラオス南部のある街に住んでいた。
子供文化センターという日本でいう学童のような施設に配属され、そこで子どもたちへサッカーや日本語を教えたり、職員への教育サポートを行う事が派遣内容であった。
しかし、ラオス語という日本人には馴染みのない言語でのおぼつかないコミュニケーションの壁や文化、考え方の違いから思うように活動が出来ずに、不甲斐なさと自分がここにいる意義を見いだせずにいた。
 
協力隊としての任期も残り3ヶ月となり、活動は相変わらず冴えないながらも残りの時間でできる事をしようと考えていた頃である。
 
ある日、同じ大学だった後輩からメールが届いた。
その後輩の職場が、高校生に対して国際交流のスタディツアーを行う予定で私の配属するセンターに訪問したいという旨だった。
 
最初に、その話を聞いた時にはどうしようかと戸惑った。
 
「日本のように整えられた環境でない途上国に高校生の彼らが来て大丈夫なのだろうか」
 
という心配もあったが何よりも
 
「大した成果も出せていない自分のセンターに来て、わざわざ来てもらってそれに見合う学びを提供できるのだろうか」
という不安があった。
 
しかし、話を聞く中で医療面のサポートも出来ていること、その後輩や引率の先生もラオスに留学していたことがあるためハード面では安心できるようだったので、承諾することにした。
 
しかし、問題はソフト面だ。
これまで、子どもたちには日本語の挨拶や歌を教えてはきた。
しかし、センターの体制やラオス生活文化のゆえに子どもたちの年齢層が3歳〜14歳くらいまで幅広く、同じレベルで進められない。
しかも、親の手伝いや様々な理由で急に何日か来なくなり、1ヶ月後にまたやってくる頃には忘れているといった子どもも多かった。
そういった問題もあり、2年間で教えたい事をほとんど出来ていないという不安要素しか無かった。
 
「恥ずかしがり屋の子どもたちのことだし、きっとあまり交流出来ないまま終わってしまうんだろうな」
 
そう思っていた。
 
当日は、沖縄の民謡とラオスの音楽をそれぞれ披露して、年齢が高い沖縄の高校生に折り紙を教えてもらうというスケジュールだった。
 
高校生を乗せたバスがやってきて、センターの子どもたちも入り口に集まり、物珍しそうに見ている。
 
「みんなで日本語の挨拶で迎えよう」とは伝えていたが、どうなるかは分からなかった。
 
しかし、その心配は杞憂であった。
 
「こんにちは!!」
 
子どもたちは、ぎこちないながらも大きな声で高校生に次々と挨拶をしていたのだ。
 
「サバイディー!」
 
高校生も逆にその声に驚いたようだったが学校で習ってきただろうラオス語の挨拶を返していた。
 
そこでお互いの緊張はほどけたのだろう。
通訳として、私とラオス人通訳の2名でフォローには入ったが、お互いに歌を披露して、折り紙をしながら交流を楽しんでいるようだった。
 
センターの子どもたちの知らなかった一面も見ることができ、いつもより目の輝きの違う様子を見れて、とても意義深い時間だった。
 
「阿部さんがいたから、今回このセンターに訪問出来ました。良かったです。」
 
帰り際、高校生の引率の方にそう言っていただいた。
 
そして、住んでいるということは、人にとってそこに行くための理由になるんだと気がついた。
グーグルマップには、実は便利な機能があることはご存知だろうか?
例えば、気になるお店や行ったことのあるスポットを残しておきたい場合に、そのスポットをクリックすると、「保存」というタブが出てくる。
そこを押すと「お気に入り」や「スター付きの場所」といったカテゴリーのタブが出てくるので、さらにクリックすることでその場所が自分のマップ上で☆マークやハートマークで表示されるようになるのだ。
 
その場所に住んでいるということは、その人自身がそこにいる事自体がグーグルマップの☆マークのような意味合いを持つのだ。
 
「あの人がいるから、この場所に行ってみようかな」
 
「そういえば、あいつ、この国に行ってたよな」
 
大事なのは、そこに「いる」ことなのだ。
 
いなければ、きっと父親と弟も沖縄の高校生もこの街には来なかっただろうし、ラオスの子どもたちと日本の子どもたちが関わる機会も得られなかっただろう。
日本の子どもたちには、ラオスという国やひいては途上国に興味を持ってもらうきっかけになっただろう。
ラオスの子どもたちにも、普段関わることの出来ない海外の同世代の子どもたちと関わることで視野が広がったと思う。
 
「これが私がいた意義だったんだ」
 
たった一人の日本人が違う文化圏で1人で何かを変えようとしても変えられることは限られているし、大層な変化なんて起こせない。
しかし、「私がいる」ことで私の知っている人たちにとっての世界地図に☆マークができるのだ。
 
確かに、終わってみれば自分の力の無さと何も出来なかった後悔の残る2年間だった。
しかし、私はこの2年間でかけがえのないもの事を学んだ。
 
帰国直前に、同期隊員の大先輩に偶然もらった手ぬぐいにその答えが書かれていたのでその言葉でこの話を締めたいと思う。
 
「人はみなそこにいるだけで役に立っている ありがとう」
 
 
 
 
***
 
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2019-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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