青春は甦る
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:大村侑太郎(ライティング・ゼミ平日コース)
「東京から来ましたシンガーソングライターです。聴いてください!」
天神の街にギターの音が鳴った。路上で歌う彼女の歌声が響き渡る。
周りで聴いている人間は偶然通りかかった僕を含めて数人だけ。12月の寒空の下で立ち止まる人は少ない。
寂しくはないのだろうか? 恐くないのだろうか?
孤独に歌う姿を見ながら僕は考えていた。
それでも彼女は歌い続ける。
「ありがとうございました。」
歌い終わった彼女が挨拶をした。
その瞬間僕は拍手していた。いつのまにか彼女の歌に聴き入っていた。
「良い歌でした!」
気が付くと僕は彼女に話しかけていた。つい数分前まで全く面識など無かったのに。
これが僕と彼女との出会いだ。僕は彼女が売っていたCDを買った。福岡に彼女がいる間ずっと歌を聴きに行った。
そしてこれが僕の再生の始まりだった。
「青春」という言葉が象徴するものは何だろう?
もちろん、青春の在り方に決まった形はない。厳密に何が青春と定義できるかは恐らく誰にもわからない。だが一般的にはスポーツや恋愛、ファッション、部活に暴力的な反抗、そして音楽……こんなところだろう。
僕の青春はことごとく、このどれにも当てはまらなかった。
「じゃあ何やっていたの?」そう質問されそうだが答えるのが難しい。
「ただ生きていた」身も蓋もない答えだがこれしかない。その時はそれでいいと思っていた。だが自分のせいとはいえ、このことは後々に尾を引くこととなる。
僕は運動が子供のころから苦手だった。中学になると吹奏楽部に入った。理由は何のことはない。文化系の部活動がそれしかなかったからだ。
だがそんな理由で入って長続きするはずがない。短い期間で辞めた。その後は帰宅部で中学時代を過ごした。悪くない時間だった。好きな漫画を読み、ゲームをして映画を観た。
今思うと気ままに過ごしたこの時間が僕から「挑戦する気持ち」を奪っていった。
高校生になっても僕は部活をしなかった。さらに大学生になっても同じだった。かろうじて大学3年の最後に少しだけサークルに入った。それも自主的でなく、友人がその時期になってサークルに入り始めたので慌てて入部したという情けない理由だ。
元来の自信の無さからファッションや恋愛にも無縁だった。
そのころ本心では、挑戦した後に失敗して怒られることを恐れていた。
まったく情けない。社会人になればそんなことは日常茶飯事なのに。
学生でしかできないことがあるということの大切さを僕は少しも認識していなかった。
気づいたときにはもう遅い。社会人となって孤独に漫然と過ごす中で、僕は自分が空っぽの存在だと気づいた。何もしてこなかった過去を思い返す度に心に穴が開いていた。
最近になってようやくできることがないか探し始めたものの、学生時代の空白はピースを失くして完成しないパズルのように心に居座っていた。
そんな状況で、歌う彼女に出会った。
路上で歌うことは大変だ。絡まれて危険な目に合うこともあるらしい。
「大変ですね、気を付けてください」
僕は月並みのことしか言えなかった。
「一期一会です、どうか聴いてください」
再び彼女が歌い始めた。人々は変わらず過ぎ去っていく。
それでも彼女は歌う。力強く、誇り高く。
僕は思った「応援したい」と。
それから僕は彼女を応援するようになった。遠方のためできることは限られているが、SNSで情報を拡散し、運転するときは自然と彼女の歌を流している。
東京に行った時、彼女の歌を聴きに行った。
「何でここにいるの!?」驚いた彼女の様子が楽しく、同時に再会できたことが心から嬉しかった。
彼女のファンとも出会い、新しい交流ができた。
ふと考えた。自分は今「青春」の中にいるのではないかと。「誰かを熱心に応援する」長い間忘れていた感情だ。ずっと自分のことだけで精一杯だった。
彼女との出会いはそんな僕に変化をもたらしてくれた。
僕は彼女が羽ばたいていく姿を見たい。彼女と一緒に夢を見たい。
もちろんわかっている。僕は僕の人生を生きねばならないことを。けれども、彼女の頑張る姿を見て自分の励みにする。そのために遠くても彼女を見に行きたい。何より彼女の歌が僕は好きだ。
こういう自主的に何かをやろうとする気持ち……これこそ遠い昔僕が失ったパズルのピースだと感じる。
歌う彼女を応援することはパズルをすることに似ている。僕の中の空白はゆっくりと埋まっている。埋まらない部分は彼女の歌を聴きながらチャレンジして埋めていきたい。
青春は甦る。
もしあの日僕が一つでも違う道を歩いていたら彼女に出会うことはなかった。出会いは偶然だ。
だけど、彼女を応援したいと思ったのは紛れもなく僕の意思だ。
全てのパズルのピースが埋まることはないかもしれない。過ぎ去った時は戻らない。
だけど信じている。青春は誰にでも甦る。
心がそれを求めているならばきっと。
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