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息をしただけでモテた、女の末路


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ミズタマ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
息をしただけでモテた時代があった、かつて。
「じゃ、大きく口を開けてください」
私は毎月メンテナンスのために歯医者に通っていた。
「いつもキレイにされてますね!」と研修医の先生に褒められた。
そして、手渡された電話番号。
私は少し首をかしげて受けとった。
この「首をかしげて」というのは、素晴らしい技法である。
 
私は女子大生のときにこの技法を取得した。
田舎育ちで男子と一緒に育った私は、とにかくガサツだった。
いつも飛び跳ねていたし、ごはんの食べ方も汚かったし、所作なんてとてもじゃないけど女子の振る舞いではなかった。
性格はよく言えば、明るくて元気で、サバサバしていてハキハキしていて……。
だから大学に入ったとき、お嬢様ばかりでとても居心地が悪かった。
向こうも、そう思っていたのだろう。なかなか友達ができなかった。
 
ある日、黒髪の女子が私に「お嬢様、必殺法!!」という一冊の本を手渡してきた。
私とお嬢様の共通点は「文学部」
そう、本だったのである!
お嬢様のことについて書いてあるその本は、とても興味深かった。
私は早速その本の通り、お嬢様を演じてみることにした。
 
まずは、服装。
動きやすくて走りやすい、私はいつもTシャツ、ズボン、スニーカー、リュックだった。
それをツインニット、フレアスカート、ストッキングにヒールの靴、小さめのバックを持った。色は主にパステルカラー。
お金は減っていったが、話しかけてくれる女子は増えた。
「まゆさん、そのお召しもの素敵だわ~。どちらでお買い求めなさったの?」ってな感じに。
 
服装が変わると、所作も変わってくる。
まずスニーカーじゃないから大股で歩けない、走れない。
ヒールがあるから猫背で膝をがくがくして歩くと、美しく見えない。
どうやったら綺麗に歩けるのか、お嬢様方を見てみた。
彼女たちは背筋をピンと伸ばして、ゆっくり歩いていた。
歩きながら何かを食べたり、歩きながら定期を取り出したりはしなかった。
歩くときは歩く。何かをするときは立ち止まって行う。
時間が勿体ない、と思って「~しながら~していた」私には慣れないことだった。
ツインニットはTシャツのようにガシガシ洗えないから、食べ物が飛ばないように注意した。
スカートだから下着が見えないように、しゃがむときの脚の曲げ方も工夫した。
 
そんな生活にも少し慣れてきたら、お嬢様の友達がたくさんできた。
彼女たちはいつも優雅で、静かに行動していた。そしてその態度は一貫していた。
 
例えば、荷物が重たくて持てないときは「持ってよ~」と甘えて言わない。
当然怒って「持ってよ!」とも言わない。
少し首をかしげ、相手の様子を伺う。そしたら、相手が気づく。
にっこりして「ありがとう!」という。ただ、それだけ。
例えば、お店の予約が先方の手違いで取れてなかったとする。
私だったら携帯を見せたり「○○さんに言ってますが」など怒って言う。
でも彼女たちは首をかしげ「どうしましょう」とつぶやく。
そうすると彼らは相談をされている立場となり(人は頼られると助けたくなる)
結果「お待ちください」となったり、次回利用の割引券などをもらえたりする(笑)
 
しかし、中には重い荷物に気がついてくれない人や、そういった応対をしてくれない人もいる。
その場合は、彼女たちは相手に期待せず(だから文句も言わない)
自分で重い荷物を持ったり、次の店を探したりする。
その判断力や行動力は見習うべきものがあった。
そして私はついに「首をかしげる」技法を取得した。
 
そうして私は息をしただけでモテるようになった。
その研修医とは何回か食事をした。マスクを取ると彼はハンサムだった。
考え方が賢くて、尊敬していた。好きだった。でも彼はモテた。だから私は心配だった。不安だった。
本当は泣いて怒ったり、泣いてすがったり、したかった。
でもお嬢様は人前では泣かない。
「泣きたいときに泣くことは、誰でもできる。泣きたいときに、笑うのよ」
 
「泣くときは一人で、泣くのよ」
 
「お嬢様、必殺法!!」のあとがきに書いてあった。
お嬢様として生きる根本として「人に気遣いをさせない、人を不快にさせない」というのがある。
服装にしても流行りや奇抜な格好ではなく、誰とどこに行っても恥ずかしくない格好、というのは相手を気遣ってのこと。
自分のためにオシャレでするのではなく、人のために身だしなみを整える。
私がお嬢様を演じてみようと思ったきっかけは、そこだった。
「自分が自分が」ではなく「人のために」に、自分を変えてみたかった。
 
少しは変われたのかな?
息をしただけでモテた女は、もうすぐ四十路(独身)だけれども。
あのときにお嬢様方に出会ってなければ、今の私はないと思う。
満員電車に揺られながら、理不尽な上司に悩まされながら、それでも希望を見失わないのは、あのキラキラとしたお嬢様方と過ごした時間があったから。
 
ときどき首をかしげながら、それでも背筋をピンと伸ばして、ゆっくり歩く。
 
 
 
 
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2019-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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