王子様はいないから
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:水口綾香(ライティング・ゼミ日曜コース)
少女漫画には、ヒロインの数だけ王子様がいる。
いや、場合によっては一つのストーリーに複数現れる場合もあるから、ヒロインよりもうんといる。
優しいだけではなく、意地悪だったり強引だったりしながらも、ヒロインに気づきを与えて成長をさせ、ヒロイン本人すら気がついていないような心の奥底にしまわれた望みを次々と叶えていく王子様。
王子様が手を差し伸べるから、ヒロインは自分の内面に気がつきストーリーの主人公としてキラキラと光り輝く。
そして、世の中の多くの女子が少女漫画を読み、そんな王子様に憧れる。いつか王子様に手を差し伸べられて、自分もヒロインとして望みを次々と叶えて人生の主役として光り輝くことを夢見る。
さて、漫画の中にはたくさんいる王子様だが、現実にはそんな王子様はいない。成長するための気づきは、残念ながらイケメンではなくトラブルや悩みとして目の前に現れることが大半だ。しかし、心の奥底に望みを隠して気がつかないヒロインの原石は世の中にたくさんいる。何を隠そう、私自身も自分が何を望んでいるかわからないヒロインの原石の一人だった。
進路を決める時でも、「あなたは将来、何になりたいのか?」と聞かれても自分が何になりたいのか分からなかった。自分が何を望んでいるかわからないのは、進路のような人生を左右する重要な時ばかりでなかった。
「いつか」幸せになりたいの! けど、何をしたら幸せなのかはわからない。
「どこか」遠くへ行きたいの! けど、それがどこかはわからない。
「何か」美味しいものが食べたいの! けど、見なれたグルメサイトにピンとこない。
何を食べたいのかさえ分からないほど、自分が何を望んでいるのかわからなくなっていた。そのくせ今の状況にどこか物足りなさを感じて、誰か「新しい何か」を運んできてくれないかなと思うあたりは、まるで王子様の登場を待ち望むご機嫌斜めなお姫様のようだった。
現実には王子様はいない。
頭ではわかっていている。それでも私の中のご機嫌斜めなお姫様は、心のどこかでひっそりと、いつか王子様が自分を見つけて手を差し伸べてくれるのを待っていた。それに気がついたのはアラサーと言われる年からアラフォーにさしかかる頃だった。
このまま、どこか物足りなさを感じながらこの先もずっと過ごすのだろうか?
育児をしながら耳に入ったアンパンマンの歌詞がチクリと痛い。
主婦だから、お母さんだから、私は家族で囲む食卓が幸せ。子どもたちの成長を見るのが幸せ。その言葉にウソはない。
なのに、なのに私の中の不機嫌なお姫様は、自分が何を望んでいるかもわからないくせに「新しい何か」を求めていた。主婦としてではなくて、母としてではなくて、自分としての生きがいはどこにあるんだろう?
漠然とした不安を抱えていることに気がついてしまったのだ。
現実には王子様はいない。
では誰が私の中のお姫様に手を差し伸べてくれるだろうか?
子どもの寝息の隣で、夜な夜なスマホの中に「新しい何か」を探した。面白そうな記事はあっても、たまに姫のご機嫌が直る程度で、またすぐに姫は不機嫌になる。本当の望みは手の中の画面の中には見つかりそうもなかった。でも、ある4文字がひっかかった。
自作自演
現実に王子様はいない。
待っているだけでは、いつまでたっても手を差し伸べてくれる王子様は現れない。不機嫌なお姫様は何を望んでいるかもわからないまま、ただただ「新しい何か」を求めて不機嫌を続けるばかりなのだ。
ならば、現実味のない王子様を待つよりも、まずは自分で自分に手を差し伸べる方がうんと早そうだ。ちょっとやってみようではないか。
「何がお望みでしょう、お姫様」
「そんなもの、わかっていたらもう叶えているわ。わからないから困っているの」
「おやおや、困ったお姫様ですね。では手始めに食べたいものから探してみましょうか」
王子様になりきって、自分の中の不機嫌なお姫様に手を差し伸べる。思っていた以上にお姫様はわがままで気まぐれで、何を考えているのか全く分からない。食べたいものすら見つけるのに一苦労する。それでも、あきらめずに手を差し伸べる。
「本当は何が食べたいの?」
「本当はどこへ行きたいの?」
「本当は何になりたいの?」
1つ、自分の内面に気がついた。意外な食べ物を体が欲していたことがわかった。
次に、また1つ自分が心の奥底にしまいこんだ望みが浮かんでくる。王子様になりきって、1つずつ向き合って姫の望みを叶えていく。
王子様になりきるのは簡単ではなかったけど、1つずつ積み重ねているうちに、気がつけばずいぶんとお姫様の事が分かるようになっていた。今までトラブルや悩みという形で表れていた成長のための試練が、挑戦という形に変わり始めた。主婦としてではなく、母としてではなく、自分としての生きがいを手に入れていた。王子様を待ち望んでいた時には想像もしなかった展開だけど、「新しい何か」は待たなくてもどんどんやってくるようになった。王子様になりきって手を差し伸べたことで、お姫様は自分の人生の主役として成長を始めた。
今、私は講師として人前に出て話をする仕事をしている。講座中にたまに王子様になりきって、こんな質問をする。
「本当に食べたいものって何ですか?」
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