肚で思考し、肚から言葉を発するということ
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記事:長島綾子(ライティング・ゼミ平日コース)
「お前には心の軸ってもんがないんか! ブレブレや!」
関西弁の男は自身の胸を拳でゴンゴン叩きながら、よくそう言ったものだ。
まだ20代の頃に付き合っていた男は、優しく熱血でケンカっ早かった。
優柔不断な私は、せっかちな男をイライラさせることが度々あった。
そのたびに、あーまた言われたと下を向く。自分でも認めていたのだ。ブレブレだと。
「自分に自信がない」が口癖であった。そんな自分が嫌だった。こんな私の言うことなどに興味など持ってもらえないだろう、とどこかであきらめていた。だから自分の意見よりも先に、人に嫌われないよう、人の意見に従うことが多かった。そんな私に関西弁男はイライラしたのだ。
このやり取りがトラウマとなったのか、夫婦ゲンカがまともにできない。ケンカになると悔しくて、言葉より先に涙が出てしまう。これはいかん。もっと自分の意見を堂々と言えるようになりたいと、プレゼン教室の門を叩いてもうすぐ一年が経つ。
そこでは毎回、腹式呼吸を意識するよう言われる。声を喉からではなくお腹から出すために。正直、人前で長時間話す機会がない頃は腹式呼吸のことなど忘れていた。しかしここ最近、人前で話をする場面に恵まれるようになった。そうなると腹式呼吸でないと続かないことに、あるときふと気がついた。
腹式呼吸をすると、声が喉からではなくお腹から出る。それを意識していないときは、緊張もあって喉が開かずに、開かない喉から無理やり大きな声を出して喉を痛めた。これでは喉を潰してしまう、と誰もいない自宅で腹式呼吸とお腹から声を出す練習を繰り返した。
不思議である。お腹から声を出すことを意識するようになってから、自分の言うことに迷いがなくなったようだ。いや、正式には、お腹から声を出していると、迷ったことが言えなくなる、と言うのが正しい。語尾までしっかりと発音するようになるので、ごまかしが効かなくなるようである。日本語は述語が最後にくるので、最後まで聞かないと発言の真意がつかめない。それにも関わらず、話しているうちになんとなく語尾が曖昧になってしまい、「語尾をはっきり話しましょう」と注意されたことがある方は少なくないのではないだろうか。それが減ったように感じるのだ。逆に、今までいかにごまかし、ボソボソと話していたのか痛感させられた。自分に自信がないから自信のない話し方しかできないと思っていたのであるが、発声を変えたことによって、自信を持って堂々と話さざるを得なくなった、というニュアンスである。
これは大きな発見であった。お腹から声を出すと、迷ったことが言えなくなる、つまり、自分の言葉への責任が生まれる。考えてみれば、腹を括る、腹の中を見透かされる、腹黒い、などと、「腹」という言葉で感情や心を表現することが日本語には多い。「肚」という漢字もある。調べてみたところ、「腹」は体の中心の「お腹」を指し、「肚」は、心や気持ちといった要素が含まれるそうだ。
なるほど。つまり腹式呼吸で話すとは、肚から言葉を出すので心がそのまま外に飛び出し、曖昧なものなど混じることができないということか。
はじめのうちは「肚に落ちる」と言うように、頭で考えたことを肚に落として納得し、そして肚から言葉として外に出せば良いと考えた。でもそうすると時間がかかる。それならばいっそのこと、頭ではなく肚で考えてそのまま言葉として肚から発すれば、時間もかからずに良いではないかと考えるようになった。
「肚で考える」とはどういうことだろう。私なりに考えるとこうである。体の中心の「丹田」といわれるところに意識を向け、分かりづらければそこに手を当て、鼻から吸った息をゆっくり丹田に流し込むよう想像しながら思考するのである。それが正しい方法なのかは分からない。けれど、肚で考えた言葉をそのまま肚から発することが可能になれば、常に自分の言葉に責任を持って堂々といられるということを体がすでに知っていた。
「お前はブレブレや!」と言われてから15年近く経ち、ようやくこの言葉の呪縛から解かれたように思う。いや、まだブレる。でも以前とは大きく変化したに違いない。たとえブレたとしても、戻る「軸」ができたのだ。それは「発声」という方法で生まれたものかもしれないし、それと同時進行で自身の中で見い出したものかもしれない。でも、体でそれを知ったというのが大きな収穫である。体でその感覚や感触を覚えると、少し時間が経っても、頭ではなく体がそちらに誘導してくれる。「肚」が誘導してくれる。
夫婦ゲンカは未だに苦手であるが、少し進歩した。泣かなくなったのだ。先日ケンカになった時に「またうまいことを言いますね」と言われた。もしや、かなりの進歩かもしれない。
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