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メディアグランプリ

趣味の陶芸の世界で見つけた普段とは違う日本の社会


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:富嶋稔夫(ライティング・ゼミ特講)
 
 
なぜかハマってしまった,趣味の陶芸が続いていて,止めてしまう気配がないのは,普段住み慣れた世界と違う居心地の良さがあってのことではないかとは早くから薄々気付いていました。
かれこれ5,6年になるでしょうか。始めたきっかけは,茨城県笠間市内のとある窯元を訪ねたこと。後継ぎの女性陶芸家に「土曜日に何人か集まって陶芸をやっているから来てみたら」と言われ,ふらふらと通うようになっていました。本県陶芸発祥の窯元の母屋の古民家の茅葺き屋根,東日本大震災で残念ながら崩れてしまったままの登り窯,トタン屋根の工場(こうば)のひんやりとした土間,そこに据え付けられた動力で一斉に動き出す仕掛けになっているロクロ。それらが醸し出す落ち着いた雰囲気も大きかったと思います。もっと近代的な工房だったら,もしかしたら始めていなかったかもしれません。
最初に主宰している女性に言われたのが,「好きな土を買ってきてください」というセリフ。これには驚きました。初めて陶芸を始めるのに,粘土に好きも嫌いもあろうはずがありません。何年かして慣れてきていたら「そんなのわかるわけないじゃないですか~」と反論したかもしれませんが,何しろ初めてだったので,口の中でもごもご言いながら,なんか自由なんじゃないかと感じたのを覚えています。
陶芸のやり方は,正統なやり方というのがあるのかもしれませんが、私が感じたのは、ある先生からこうしろと言われても,違う先生はああしろと言うようなところ。先生が10人いると10人違うやり方を教えてくれます。そんな融通無碍なところも居心地の良さにつながっているかもしれません。それでも、ものぐさ太郎の自分が面倒くさい陶芸だけはなぜ続いているんだろうといぶかしく思っていると,一番の理由は,趣味の陶芸の世界が昔のアナログカメラのネガフィルムのように普段住み慣れた社会とは逆さまなところにあるのではないかと思い当たりました。
車の免許を取得した頃,のろのろ走る前の車,周りを確かめないで不意に横から出てくる車,そういった車と出くわすと,平気で悪態をついている自分がいました。普段の職場や近所の知り合いなどならば、面と向かっては絶対に言わないような悪態。
その後インターネットが普及する時代になって,匿名だと,何でこんな悪口をしつこくしたりもできるのかなという事象が,日々発生しているようです。自分はそういうところは覗かないようにしているので,どうもそうらしいとまた聞きしているだけですが,現今の我が国社会の特徴として,不寛容,出る杭は打たれる,人を褒めない,立場の弱い人に付け込むといった病弊が指摘されているのをみると,心が痛みます。
ところが,私が飛び込んだ趣味の陶芸の世界では,専ら「いいのができたね」,「上手だね」等褒め言葉を言っていただきます。先生からも,生徒さんからも。自分ではわかっているんです,全然よくないということが。作り始めは,こんな風に仕上がらないかなと夢想しているのですが,工程が徐々に進み,釉薬をかけて,焼き上がったものを見ると,何か最初にイメージしたのと違うんだよな,ということばかりです。眼高手低という言葉がありますが,目利きだけど自分では上手くできないといった意味だと思いますが,眼高は置くとして,手低には違いないのです。それでも皆さん「いいね!」と言ってくれます。
これは,別の陶芸クラブに移った今でもそうです。先生は,どこかいいところを見つけて「バランスがいい」とか何とか言ってくれます。意想外の褒め言葉が降ってきて,虚を突かれることさえあります。まあ,悪口言うわけないだろう,商売なんだから,という声が聞こえてきそうですが,生徒さんも同じです。皆さんが褒めてくれるから,まずいときには黙ってくれていたから,そのように,初心の者に優しく接してくれたから続いたのだと思っています。普段さらされているいろんな悪意と無縁なところが、レトロな昔のカメラに使われていたネガフィルムのような、むしろ、普段の社会の方がネガに感じられるような居心地の良さが趣味の陶芸の世界にはありました。
もしかすると,作品を見られる,作品を介してコミュニケーションをする,という関係が,悪口を抑制しているのかもしれません。作品は,やっちまった(!)証拠として隠しようがありません。それが超越者に内心を見透かされているのと同じような構図になっていて,良心的な態度が維持されているのではないでしょうか。この辺りもネガ式のカメラのように今は忘れかけられているけれども、もしかすると、古き良き日本にはあった自律的な態度ではないかと思うのですが。
習い事は陶芸でなくとも皆同じ傾向があるかもしれません。また,プロの陶芸の世界はこれとは違って厳しいのだろうと推測しております。
今度車を運転するときは,多少のことは大目に見て通り過ぎる,そんなところから始めよう,と思ったそばから,また今日も,悪態をついてしまいましたけど(汗)。
 
 
 
 
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2019-07-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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