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幸せって何だろう?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:藤崎 美香(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
どんな人でも、幸せになりたい。
これは、真実だ。
 
ところが、幸せの定義は、人それぞれ違う。
あ〜幸せ〜、と感じるとき、それはいつだろう?
何を幸せ、快感に結びつけるかで、人生が大きく変わる。
 
快適な家で、いとおしい家族と共に、美味しい夕食を囲んでいるひととき。
何かとてつもなく難しく価値ある事を、死に物狂いでやっと達成できたと実感したとき。
たくさんの人と力を合わせて、人に喜んでもらえる社会貢献の中に生きているとき。
幸せを、どんな快感で感じているだろうか?
 
今の私の幸せの基準値は、低く単純だ。
全く両極端の場所を行ったり来たりする事で味わう正反対の快感だ。どっちも幸せだ。
ひょっとしたら、もともと幸せを感じやすいのかもしれない。
 
ある日、私は海の上で漂っていた。波がほとんどなかったので飲み込まれる事はなかった。
目印もなく、淡路島のず〜っと南のどこかにいる、という事しかわからなかった。
曇り空の下、黒い海の上で、本当に何も持たず、身一つでぷかぷかと浮いていた。
幸い、真冬ではあったがウエットスーツのおかげでそんなに寒さは感じなかった。救命胴衣もつけていた。とりあえず、すぐに死ぬ事はなさそうだった。
唯一、気になるのは、その日、よりによって生理中だった事だ。万一、サメが血の臭いを嗅ぎつけてやってきたらシャレにならない……そんな妄想が、すぐに頭に浮かんできた。
 
そのほんの一時間前、私は二人乗りのスナイプという小型ヨットに乗っていた。
風はほとんどなかったが、向きを変えようとしたタイミングで風にあおられた。船はあっという間にひっくり返り、私たちは海に放り出された。先輩が流れていく船に追いつき、なんとか起こす事はできたが、梶板が流されてしまっていた。
「助けを呼びに行ってくる! そこで待ってて! なるべく早く戻ってくるから」
そことは、海の上である。私はうなずくしかなかった。先輩は船と共に消えていった。
 
「危ないからヨットなんて、やめなさい!」
家族に言われたその言葉の意味が、じわじわとしみてきた。といっても、もう遅い。
やりたい事をやった結末だ。
それまでの色々な事が頭を巡っていく。大切な人の顔が浮かんでくる。
 
そうして恐らくは二時間くらい、魚一匹、サンダルひとつ近寄ってくる気配がなかった。
いくら楽天的な私でも、じわじわと孤独感、恐怖感がこみ上げてきた。
寒さをそんなに感じないとはいえ、なんで、私は冬に海に漂ってるのか?
のどは渇くし、トイレにも行きたい! さすがに垂れ流せるほどの肝が、まだなかった。
しかし、どうやって私を見つけることができるんだ〜?
何もできない状態、ただじっとしているのがベストな状態って、想像を絶する。
 
「ムッチ〜!」
しばらくして、先輩が私を呼ぶ声が遠くから聞こえてきた。空耳か? いや、じょじょに大きく聞こえてきた。
「助かった〜」
死ぬほど嬉しかった。
 
それをきっかけに、私は、危険な事をするのをやめた、なんてはずもなかった。
波を切って走る爽快感、そして、仲間たちとの和気あいあいとした一体感、それが快感で、また、海へとくり出した。
結局のところ、危ない目にあったところで懲りたりなどしない。また、すぐ、その高揚感を求めて出かけていく。
友だちとジェットコースターやお化け屋敷に行くのに、ほぼ近い感覚かもしれない。
 
そうやって、私は、非日常のスリルある高揚感を求めて何かを始める。
急にサラリーマンをやめてビジネスを始めたり、結婚したり? 海外移住してみたり。
色々な方法で。
 
逆に、都会の仕事関係の人に話すと笑われてしまう、そんな平凡な幸せもしみじみと感じる。
時には、田舎すぎて、ちょっとウケル話のようだ。というのも……。
 
ブラインドの隙間から、朝日が顔に差し、眩しさと暖かさにうっすらと目が覚めてくる。
その外で、スズメが一羽さえずり始める。そして、もう一羽、さらにもう一羽。たくさんの声がだんだん合唱となって大きく響き始める。賑やかすぎて、もう眠れない。
ちょっと気だるい、でも、当たり前に太陽が昇り、なんにも変わらない、退屈すぎるほどいつも通りの朝。それが、本当に幸せだから。
 
そんな風に思えるのも、私が年をとって色々な目にあってきたからかもしれない。
親が病気で死にかけた。入院して息をすることすらままならなかった。仕事をやめ、お金がスッカラカンになった。信用していた人や、長年一緒だった人と別れた、とか……
そして、また、いつのまにか立ち直っている。
だから、普通の1日が、とてつもなく幸せに感じる。雨の音すら愛おしい。
 
今の私にとって、幸せとは、ちょっと非日常の状態、そして、当たり前すぎる普通の状態、その両極端を行き来するのを楽しむ事である。
どちらも必要で、どちらもあるから、それぞれの状態を幸せだと感じる。
そして、選べる人生である事に感謝する。感謝できる自分である事すら幸せだと思える。
 
自分のレベルに合わせて、幸せを感じる快感が、また変わっていくだろう。
その一つ一つを、これからも味わって生きていきたい。
 
 
 
 
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2019-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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