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親不孝のすすめ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:藤崎 美香(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「……ちゃんは元気?」
友人と電話で話をしていたら、同級生の話になった。
「それが、お父さんが亡くなって、お母さんも痴呆で入院したらしい。すごい親孝行だったから、二人になんでもやってあげてたら、どんどん介護状態が進んでったんだって」
そんな事って……私は絶句した。
 
うちは、全く逆のパターンだった。
母が脳卒中で倒れ、それから半年後の退院する時に、私は東京から実家の徳島に戻った。そこまでは親孝行に見える。ところが、実際は親不孝の連続だった。
というのも、まず、東京で九時半出社、七時半起きだった私には、母が目が覚める五時半に起きるという事ができなかった。さらに、料理ができない私にとって、異常に偏食な母が食べられるものをつくる事が簡単にできなかった。
食べる事が何より大好きな母は、食べたいものを食べたい時間に食べれない事に、どんどん不満をつのらせていった。
さらには、半身麻痺で歩く事が自由にできない七十キロの母を、寝室からトイレへ、お風呂へと抱えていくのは、並大抵の事ではなかった。
互いにうまくいかず疲れ果てていった。
 
そんなある日、不満が爆発した母があれこれと言い始めた。
「こってりした肉が食べたい。生クリームのケーキが食べたい」
「そんなものばっかり食べるから、脳卒中になったんやろ。ちょっとは、体の事を考えて、体にいいもの食べて!」
「好きなものも食べれないんだったら、死ぬ方がまし!」
「じゃあ、勝手にして!」
「もう、あんたにはなんも頼まない! 自分でやる!」
その日、震えながら物につかまって立ち上がろうとした母は、手伝おうとした私の手を振り払った。
食べたいものは食べて、食べたくないものは食べない! その気持ちだけは変わる事がなかった。体に悪いけど好きな物を食べる方が、健康より優先というのは、本当に我慢できなかったが、喧嘩を続けるよりマシである。
 
そして、その言い争いの半年後、驚くことに、寝たきりになりそうだった母が、運転以外のほとんどの事は自分でできるようになっていた。
もちろん、これが、全ての人に当てはまるとは思わない。本当についていたと思う。
 
ただ、言い争いをしたその日、母は私に全てを任せていると殺される! と思ったらしい。
親不孝の娘を持ったばっかりに自由にならない、自分でやるしかない! と。そして、全てを震える手と足でやり始めた。
私はそんな母を見ている事はあっても、手伝う事はなかった。手伝おうとしても、手を振り払われた。私は、少し離れて見守るだけだった。本当に危ないと思う時だけ、すぐ助けられるように後ろで構えた。
いつも見ているわけにはいかないので、ドスンドスンと倒れる音がすると、すぐ駆けつけなければならなかった。しばらくは、その音と響きが私のトラウマになる程だった。
幸い、母は骨が丈夫なので、ケガなどの問題もなかった。
周りは、そんな私の事を冷たいと思ったかもしれない。
でも、親不孝のせいで、母は自分の事ができるまでに回復したのだ。親不孝もしてみるものである。
 
寝たきりのところから、自分でやると決めるだけで、ここまで回復した。
もう、ダメかもしれないと思っていた人が、絶対になんとかする! と思うだけで、ここまでできた。
私はそんな気性の激しい母を尊敬する。
決意とは、本当に想像もできないほどの力を発揮するものだ。
そして、母はまだまだ自分でなんとかなるという自信を持つ事もできた。
 
母の容態を聞かれると、私が何もできないので殺されると思って元気になりました! などと、周りには言っている。
 
今は、実家に戻って母の顔を見るたび、あれこれと確認する。その日、何をしてもらいたいのか。私に求めるものが何なのか。
母は、買い物したい物や車で行きたいところ、自分ではちょっとやっかいな掃除などを私に頼む。
人は、これはやってくれて当たり前だとか、自分でやる事が当たり前だとか、勝手に思い込んでしまう事は多い。そして、不満が溜まっていったりする。
だから、言葉でお互いに希望を明確にしておくと、一つ一つを確認でき、また、その会話自体で満足感が高まる。
そして、私は母の用事を終えると、あとはちょっと気になる家事だけをこなし、自分の生活に戻る。気分的にとても自由だ。
 
もちろん、その根底には、いざという時には助け合うという安心感もあると思う。
やっと、お互いに、自立と協力のバランスを見いだす事ができたのだ。
年とともに、また変わっていくだろう。
 
これは、親子だけでなく、家庭、職場、全ての人間関係にも言える事だと思う。
基本は、それぞれのやる事を確認し、できる事は進んでやる。そして、いざという時は助け合う、そのバランスが大切だと感じる日々である。
 
 
 
 
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2019-07-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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