同族会社のガバナンスが市民権を獲る為に
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記事:月崎暁(ライティング・ゼミ日曜コース)
私とガバナンスの出会いは十数年前であったかと思う。当時ある会社に出向し取締役を担っていた時期で、プロパーと出向の取締役が混在し議論が白熱する中で「取締役とは何か」を知りたくなり、その答えを探す為に書店をウロウロしていた。
何件目の書店なのか記憶に無いが書棚の上段にあった「社外取締役のすべて」(全国社外取締役ネットワーク著 東洋経済新報社刊)と云う一冊の本に出会った。そして著者となっていた全国社外取締役ネットワークに電話して、事務局の方に面会させて頂いた。
このネットワークは役員を退任され方が社外取締役として就任することを目指し加入されていた為、私は当時50歳前であったことから「随分と若い方が入会されることになりますね」と珍しがられたことを記憶している。
十数年前はまだ社外取締役と云う言葉自体も市民権を得ていた訳ではなかったと思うが、この団体のセミナーに通い大先輩の方々が居る中で、始めて「ガバナンス」と云う言葉を聞き、何か新鮮な響きを感じたことを記憶している。
今も多くの会社では最も偉い社長が取締役を選ぶものと思われているので、会社の中で「取締役は誰を取り締まるものだと思う?」となぞ掛けして、「取締役は社長を取り締まるのが役目だよ」と解くと皆不思議な顔をする。
昨今は個人投資家が増え上場会社の規範としてコーポレート・ガバナンス・コードが定められているだけに取締役会が経営の責任者である社長を監督するものと認識が広がっているが、多くの会社で監督される側の社長が、監督する側の取締役を決めている。
一方、上場していないケースの多い同族会社では、一族が株主であり経営者であることが多い。上場会社は株主と経営者が異なる「所有と経営が分離」している状態であるが、同族会社は株主と経営者が一族で占められていることで、一族の問題が会社経営に大きく影響する。
新聞などマスコミで同族会社の色々な混乱が報道されているが、多くは一族内で問題が解決出来ずに会社経営に影響しゴシップとなる。上場会社もゴシップはある訳で、決して 同族会社の経営形態が劣っているとは思わないが、揶揄されることが多いのは残念だ。
同族会社も上場会社も共に人の行いなので過ちはつきもの。しかし、社長が取締役を選任する上場会社も、一族が株主と経営者を兼任する同族会社も共に身内意識が災いしているように思えてくる。
井の中の蛙と云われる様に、身内意識が強すぎるのは昔から省みるべきものとして言われて来たこと。昨今はエンゲージメントとして会社が投資家と対話する事が会社の向上に繋がるとの認識が高まっているが、上場会社も同族会社も共に「第三者性」が重要なのではないかと思う。
但し、同族会社は株主と経営者が同族であることが多い中で、第三者性をこの関係に入れることは大きなハードルになるが、やはり同族会社も上場会社同様に社外取締役を導入する事が必要だろう。
このテーマは、同族会社のオーナーとしては抵抗感が大きいことではあるが、社外取締役の導入の効果の研究では、同族会社に社外取締役が導入されるケースの方がより効果が高いと実証もされている。
規模の大きな上場会社がより発展することも大切であるけれども、同じ価値観の規模が大きい上場会社ばかりが発展するのは少し寂しい。今はどこの駅前もチェーン店で占められていて、その駅前らしさが薄れている。チェーン店が全て上場会社ではないものの、同じような価値観で染まってしまうのは楽しくない。
やはり何かの価値観に拘りその価値観を代々深めて行く同族会社が増えることも共に必要ではないかと思う。同族会社はそれぞれの価値観を伝承し、変化を乗り越える会社が残っている。それぞれの時代を担うそれぞれの世代が価値観を深め、多彩な価値を広めてゆくことが世の中の豊かさを支えるものではないかと思う。
同族会社は所有と経営が一致するだけにリーダーシップが取り易いと云われる。このガバナンスについてもこれからリーダーシップを発揮し、第三者の目を積極的に取り入れることが望まれる。
規模の大きな会社だけではなく、社会の裾野を支え、より広げる同族会社の存在感が高まることが必要だと思っている。同族会社のガバナンスが市民権を獲られるように私も経営コンサルタントとして貢献したい。
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