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メディアグランプリ

笑顔のお値段


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:長島綾子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「うわー、ホントに笑ってる。ゼロ円だからたくさんもらおうぜー」
 
四半世紀近く昔、某大手ファーストフード店でアルバイトしていた時のことだ。小学生の男子数人がレジに来てこう言った。当時その店では「スマイル0円」というものを謳い文句に、レジ上の注文ボードにも商品のように表記されていた。高校生だった私は、小学生の首根っこを掴んで放り出してしまいたい思いだった。
 
私の笑顔の歴史は古く、明るくない。四歳上の姉は勉強が得意でヴァイオリンもうまく、運動神経も良かった。姉に勝てるものは何もないと早々に諦め、唯一勝てそうな「愛嬌」を武器に生きていこうと小学校に上がる前に決心したように記憶している。
 
以来、愛嬌勝負で生きてきた。近所のおばちゃんおじちゃんには、「いつもニコニコでいいわね〜」とお菓子をもらった。習っていたピアノの先生は、厳しい人であまり話もできなかったが、常に愛想よく練習もそれなりにしていたおかげでよくしていただいた。
 
そして高校生で、私の笑顔はゼロ円だったのかという軽い絶望を味わい、思春期特有の数々の悩みを抱えるようになる。そもそも、なぜあんな小学生にまで「ゼロ円」の笑顔を提供してやらなければいけないのか。アルバイトしていても楽しいことばかりではない、それでもお小遣いのために頑張って働いているというのになぜ小学生に笑われなければならないのか。
 
問題は解決されぬまま、笑顔を捨てる勇気もなく時が流れ、客室乗務員という職に就いた。笑顔が商売道具でもあるような仕事だ。ほどなくして、笑顔との戦いが始まった。お客様に怒られて泣きそうになったり、自分の力不足で失敗してしまったり。新人時代はそんなことばかりであった。気持ちを切り替えてすぐに笑顔になるなどできない。モヤモヤが解消されず、先輩に自分の仕事をお願いしてトイレに駆け込むことも幾度となくあった。
 
「顔が笑っているではないか」
ご機嫌斜めのお客様に満面の笑みでお声をかけてしまい怒られたこともある。前のお客様との会話が弾み、その気持ちのまま隣のお客様にお声をかけた。間の悪いことに、数時間前にその方にお飲み物をこぼしてご迷惑をおかけしていた。さらにご気分を害してしまい、それ以降私に口を開いてくれることはなかった。その方から、いつでも笑顔で接すればいいというものではない、一人ひとりのお客様に一対個の接客ができなくてどうする、と教えていただいたように思う。
 
なぜ笑わなければいけないのか、辛いことがたくさんありすぎて笑顔になどなれない。当時はよく思ったものだ。辛いのに笑っているのは偽善だ、嘘だ。偽りの笑顔を浮かべてもお客様は喜ばないどころか不快感を抱くではないか。
だが今ならわかる。そもそも、楽しいから、嬉しいからだけで笑顔が生まれるのではない。笑顔とは、あなたを心からお迎えしますよ、という合図であり、相手への感謝の表現である。そして何より、笑顔になった自分が一番、その笑顔から元気をもらうことができるのだ。脳内の「ミラーニューロン」という神経細胞ネットワークの働きにより、目の前の相手の行動に反応し、自分も同じような行動をとったり同じような感情に感化されるという「ミラー効果」が作用するかららしい。自分が笑顔であることにより、相手も知らず知らずのうちに笑顔になる。相手の笑顔を見ることで、さらに嬉しくなって笑顔になるという笑顔の連鎖が生まれる。
 
最初は作り笑顔でも問題ない。なぜなら笑顔は「腹筋する、反復横跳びする」などと同じ、筋肉の働きによるものだから。「目尻を下げて、広角をあげて、頬の筋肉を持ち上げて」という指令が脳から出されることで笑顔が作られる。そう、笑顔は筋トレの成果物なのである。ただそこで気をつけなければいけないのが、目尻を下げないと、本物の「作り笑顔」になってしまう点だ。目尻を下げる、つまり三日月を二つ並べたような形にすることがポイントだ。
 
年次を重ねるごとに、笑顔と戦うことはなくなった。
CA時代、夜中の二時台に迎えが来て朝一番の飛行機に乗務する、などということもよくあった。当然顔はこわばって表情は固い。そんな時はお客様をお迎えする前にこっそりトイレに入り、「目尻を下げて、広角をあげて、頰の筋肉を持ち上げて」笑顔を作り、表情筋を目覚めさせ、顔に笑顔をインプットさせる。それからお客様をお迎えした。
 
笑顔という筋トレによって、年齢とともに下がる広角が上がり、表情筋の衰えを抑えることができる。自分自身も元気をもらうことができ、相手に良い印象を与えることができる。さらにその後の相手との関係がより築きやすくなる。また最近聞いた話では、笑顔でいることによって、神様からも見つけてもらいやすくなるのだとか。笑顔はいい気を発するので、その気のおかげで大勢いる人の中でも際立ち、結果神様に気にかけてもらえ、願いが叶いやすいのだとか。本当かどうかはわからないが、これだけのいいことが詰まった表情筋のトレーニングを日々続けない理由はない。
 
笑顔はゼロ円などではない。笑顔は、プライスレスである。
 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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